第13話 ゴブリンの村 パート4
私は毎日ガロファーから剣術の稽古をつけてもらい、1週間に一度だけ隣の村のエルデに行きモルカナに人間についての教養を教えてもらう。
エルデに行く時は、必ずガロファーと一緒に行くのだが、ゴブリンキングの討伐の噂を耳にしたので、ガロファーは村から離れることができなくなった。その為ガロファーの代わりにフラーゴラ(ゴブリングレイトウイザード)とヴァサーメローナ(ゴブリンオーガ)が私を連れて行ってくれることになり、ヴァサーメローナは自分の子供である2人のコブリンを連れて5人でエルデに向かうことになった。
2人のコブリンは10歳と11歳の男の子で、ヴァサーメローナにエルデの村まで付いて行きたいとせがみ、やむを得ず一緒に行くことになったのである。
ヴァサーメローナの息子とは年齢が近い事もあり幼馴染のように仲良しである。私が毎週エルデに行く姿を見ていたので、自分達も一緒に行きたいと思っていたのであろう。
「ダグネスちゃん、あの木まで競争をするのだ!」
コブリンがニコニコ笑いながら私に競争を挑む。
「負けないよぉ〜」
私は2人のコブリンと競争をして一度も負けたことはない。混沌の魔力で自然とバフがかかっているので当然である。
「キャ・キャ・キャ」
コブリン達は嬉しそうに私を追いかける。結果は言うまでもなく2人を大きく引き離して1番で私が目標の木まで辿り着く。
「勝ったよぉ〜オホホホ」
私は口元に手を当てて勝利に酔いしれる。
「もう一回勝負だ!」
「そうだ!そうだ!」
2人は大差で負けたが嬉しそうな顔をして私に再戦を申し出る。2人は競争に勝ちたいのではなく、ただ走り回りたいだけなのである。私も2人と遊ぶのは楽しいので快く再戦を受ける。
「あの大きな木まで競争よ」
「うん」
2人はすぐに大きな木に向かって駆け出していく。3mほどハンディをあげたが簡単に私は2人を抜き去っていく。
「本当に3人は仲がいいな」
「そうだな。ダグネスちゃんは誰とでも仲良くなれる優しい子だからな」
「そういえば、以前から気になっていたのだが、なぜダグネスちゃんはいつも顔を隠すようにフードをかぶっているのだ?」
ヴァサーメローナはずっと不思議に思っていたのである。
「ダグネスちゃんは人間に襲われて震えるように泣いていたところをアザレアさんが保護したのだ。その時に顔に傷を負っていたのでそれを隠しているのだ」
「その話は聞いている。でも、傷なんて隠さなくても良いのじゃないのか?」
「ダグネスちゃんは女の子だ。男のお前と一緒にするな!」
「そういうものなのか?女の気持ちはいくつになっても理解不可能だな」
ヴィサーメローナは笑いながら言った。
私は森の中で人間に襲われ家族を亡くし、行き場をなくした私をガロファーとアザレアさんが拾ってくれたということになっている。その時に顔や頭に傷を負ったので、その傷を隠すためにフードを被っていると村のみんなに説明されていた。
「またまた私の勝ちですよ!まだ勝負するの?」
「まだまだ勝負をするのだ!」
コブリン達は元気が有り余っているので競争ごっこを辞めようとはしない。結局エルデに辿り着くまで競争をしたが一度も私に勝つことはできなかった。
「競争の続きは帰りにするのだ」
コブリン達は競争には一度も勝つ事はできなかったが、楽しく遊べたので嬉しそうに言う。
「ダグネスちゃん、モルカナ様のところへ行くぞ」
「はーい」
私は毎週来ているのでモルカナの家の場所は知っている。モルカナはゴブリンキングに進化して、身長が2、5mとゴブリンの中では随一の高さを誇っているので、モルカナの家は他の家よりも人一倍大きいのである
「俺は挨拶に行ってくるぜ」
ヴァサーメローナは知り合いのゴブリン達に挨拶をしに行き、2人のコブリンは、エルデに到着するなりエルデのコブリン達と楽しそうに遊んでいる。
私はフラーゴラと一緒にモルカナの家に向かう。
いつ見ても大きな家である。私の父は2mあるので私の住む家も大きな方である。ゴブリンの家はログハウスのような丸太を組み合わせて作られた家で、モルカナがゴブリンキングに進化したときに、ゴブリン達が総出でモルカナの家を作ったと聞いている。
モルカナの家は他のゴブリンの家と違ってしっかりとした門があり、門から家に着くまで10mほどで大きな庭もある。丸太の高い塀で家は囲まれているので、中の様子を伺うのは難しい構造になっている。なので、私はモルカナの家に入った時だけはフードを外すことが許される。
モルカナの家には奥さんのクナウティア(ゴブリングレイトウイザード)と3人の息子クリムゾン、クローバー、グロリオサ(ゴブリンオーガ)が住んでいる。
モルカナは私が人間であるという事は家族にさえ秘密にしている。私がモルカナの家に訪れる時はモルカナ以外誰もいない。今日は息子の3人はゴブリンキングの討伐の噂に備えて村の周りを巡回し、クナウティアは友人の家に出かけている。
私はモルカナの家に入りフードを外す。すると束ねていた銀色の髪が腰まで降りて、不気味な真っ赤な瞳が怪しく光る。
「ダグネスちゃん。よく来てくれたねぇ~」
モルカナは私を見つけると顔のシワがくしゃくしゃになるくらいの笑顔で出迎えてくれた。そして、私を大きな手で掴み天井にぶつかるくらい高く持ち上げる。
モルカナの肉体は彫刻美のように美しい。人間ではこのような肉体美を作るのは不可能である。まるで野生のマウンテンゴリラが過酷な筋トレをして作り上げたかのような屈強な体をしている。もちろん人間の筋力の何十倍もの筋力があり、大きな丸太ですら簡単に握り潰すことができる。
見た目もかなりこ強面で鋭い眼光は、睨まれただけでも腰を抜かしてしまうほどの威圧感を持っている。しかし、そんな強面のモルカナも私の前ではデレデレしていつも笑顔を絶やさない。
「モルカナおじちゃん、こんにちわ~」
「こんにちわダグネスちゃん。この前までよちよちと歩いていたのに、もうこんなに大きくなったんだね」
「はい。もう8歳です」
毎週会っているにもかかわらずモルカナは、いつもこのような感じで私に接してくれて、実の娘のように可愛がってくれている。
「今日もお勉強をしましょうね」
いつもの威厳ある力強いモルカナとは全く別人の振る舞いを見て、フラーゴラは呆気に取られて呆然と立ち尽くしている。
「は~~い」
モルカナは私がいつか人間として、人間の町へ戻る日が来ると考えている。その為に人間としての教養を身につけさせている。実はモルカナはゴブリンキングになる前に、獣人の国バリアシオンに長く滞在していた。その時に知り合った人間達と交友を深めて人間の事を多く学んだらしい。私をゴブリンの村で保護すると決めた時もその時に知り合った人物の1人である『賢者』の『レア称号』(SSランク)を授かったワイズマンに人間の事に関する資料の提供を受けていた。
もしかするとモルカナが私をゴブリンの村で保護する事を決めた理由の一つには、その時に出会った人間達との交友が起因するのかもしれない。
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