第12話 ゴブリンの村 パート3
あれから8年後・・・
私は赤ん坊の頃の記憶が鮮明に残っている。あの時私は黒い仮面の男に巨大な斧で体を真っ二つにされて死んでしまった。しかし、その時私が授かった『終焉妃』のスキルが発動し、体内に流れる黒い血が万能細胞のような役割を果たし、真っ二つに切り裂かれた体を時間をかけて再生させたのである。これが『終焉妃』のスキル『
しかし『終焉妃』のスキルはこれだけではなかった。私を殺しに来た男は、私の血痕を浴びたことにより『支配』というスキルの対象者となり、私の操り人形となったのである。しかし、今は『支配』のスキルをうまく使うことができず、あの男は放置したままである。『終焉妃』の『レア称号』には、いくつものスキルが存在するが私が知っているのは『混沌の黒血』と『支配』だけである。
「ダクネスちゃん、今日もお父さんと剣術の練習頑張ってね」
私が帆馬車の中で1人で寂しく泣いていたところを助けてくれてのが、ゴブリンオーガのアザレアである。アザレアは私を本当の子供のように育ててくれた。
私は人間なので獣の皮で作られたフード付きの茶色い服を着て、人間臭を消し角がないことを隠している。そして、白く目立つ肌を隠すために顔や手足に緑の染料を塗りたくってゴブリンと同じような皮膚を装っていた。この姿で生活をすることが、私がゴブリンの村で住むことが許された条件である。それは人間に恨みを持つ他のゴブリン達に私が人間だと悟られないためであった。
私を人間だと知っているのは、私を育ててくれた両親のアザレアとガロファー、村長のカレンドゥラ、隣人のフラーゴラ、そして、隣の村に住むゴブリンキングのモルカナである。
モルカナはゴブリンキングに進化した最強のゴブリンであり、この辺りのゴブリンの村を取り仕切っている王である。
村長のカレンドゥラは、モルカナの承諾なしには私を村に受け入れることはできないと判断し、森で起きた事件の報告をするついでに私のことも相談した。モルカナは村のみんなに人間と悟られないようにするという制約付きで私の受け入れを認めたのであった。
「は~い」
私は元気よく返事をして、自分の体くらいある剣を引きずりながら家の庭に向かった。
「ダクネス、お前も俺やアザレアのように立派なゴブリンオーガになるために鍛え上げるぞ。まずはいつも素振りをしろ」
「は~い」
私は3歳の頃からガロファーとモルカナから特訓を受けていた。ガロファーからは剣術を教えてもらい、モルカナからは人間としての教養を学んでいた。モルカナはとても博識なのでいろんなことを教えてくれた。
ゴブリンは12歳になるとホブゴブリンナイトもしくはホブゴブリンウィザードに進化をするが、人間の私は進化すことはできない。もちろん、ガロファーも重々承知の上で発言をしている。家の庭は壁で囲われて周りから見えないわけではない。庭と外の間には柵や木がある程度で、ガロファーの大きな声は近所の人々に筒抜けなるので、コブリンを育てているように演じているであった。
「えい!えい!えい」
私の威勢の良い声が辺りに響き渡る
コブリンからホブゴブリンナイトに進化するためには条件がある。それは筋肉量と体力である。全てのコブリンが何もせずに自然と進化できるわけではない。進化するためには努力が必要であり、何も努力をしなければ一生コブリンのままである。
私は大きな剣を構えて素振りをする。素振りは剣術の基本であり、大きくて重い剣を振ることによって、体力と筋力もアップされるのでホブゴブリンナイトに進化するには必須の練習方法である。
「いい音がなっているぞ。その調子で10セットがんばれ」
私の素振りを見てガロファー嬉しそうに言った。1セットで100回の素振りをするので、合計で1000回の素振りをしなければならない。1セットを終えれば3分の休憩を取るが、普通の人間がこなせる練習方法ではない。
「ダグネスはどのような『称号』を授かっているのだろうか」
ガロファーは心の中で呟いた。ガロファーが私にゴブリンと同じ練習方法をさせているには理由がある。それは、人間の子供なら絶対に持ち上げることができない重くて大きな剣を、私が軽々と持ち上げたからである。コブリンでさえ初めは持ち上げるのは時間がかかる。それをいとも簡単に持ち上げた私の姿を見たガロファーは、私がなにかしらの『称号』を授かっていると判断した。
ガロファーは私がどのような『称号』を授かったのはわからないが、どこまで激しく厳しい練習に耐えうることができるの検証をしているのだろう。
コブリンの強さは、『称号』を授かっていない大人の人間と同等の力がある。同い年の人間に比べたらコブリンの方がはるかに力が強いと言えるだろう。
次にホブゴブリンに進化するとゴブリンは急激に成長をする。その強さは『称号』待ちのレベル1と同等である。個々のホブゴブリンの鍛錬の量によってはレベル3ほどの強さを得ることは出来るがレベル5を授かった人間には敵わない。
さらにゴブリンオーガもしくはゴブリングレイトウィザードに進化をすれば、レベル5の人間と同等の強さ、またそれ以上の強さを身につける事が出来る。もちろん個々の鍛錬の量により『レア称号』を授かった人間に太刀打ちすることが可能になるだろう。
ガラファーは私にはレベル3程度の何かしらの『称号』を授かっている思っている。ガロファーの予想は外れていた。私が授かったのは『称号』ではなく『レア称号』であり、『レア称号』は『称号』とは別次元の強さを誇るので、似ているという表現は当てはまらず別物と認識するのが正しい。そして、重くて大きな剣を軽々と振ることができるのは、日々の鍛錬により筋力がアップしたからでなく、『混沌の黒血』が原因である。
『混沌の黒血』とは『終焉姫』のスキルと説明したが、スキル以外にも私の黒い血には意味がある。私の血は赤色で他の人間と同じ血が流れている。それがなぜ黒い色をしているかというと混沌の魔力が原因である。私は他の人間とは違う混沌の魔力が体から発生している。その混沌の魔力に影響を受けた赤い血が黒く変色しているのである。混沌の魔力の影響を受けた私の黒血に触れると『支配』の対象になり、流れ出た黒血は体の修復をする。普段私の体を循環している黒血は、私の意志とは関係なくバフを発生させている。筋力強化や状態異常の無効化、防御力アップなど様々なバフを発生させている。これはバフは年を重ねるにつれて強力なり、いまならあの男でも私を切り裂くことはできない。
「よし!10セット終了した。15分後に俺と練習試合をするぞ」
「は~い」
私に屈託のない笑みを浮かべながら返事をする。バフの効果のおかげで私は全く疲労をしていないので元気もりもりである。
「よし!休憩は終わりだかかってこい」
「は~い」
私は剣を両手で握りしめてガロファーに斬りかかる。ガロファーはこの村で2番目に強い剣士であり、身長も2mを越える鍛え上げれた肉体は彫刻のように美しい。
「どうした!もっと力強く踏み込んで来い」
私の剣はガロファーにことごとく弾かれる。
「もっと腰を入れろ。腕だけで剣を振るな。魔力を上手く融合させろ」
ガロファーは私に体で剣術を覚えさすために手加減はしない。ガロファーの大きな大剣は私に向けて容赦なく振り落とされる。
「目をしっかりと開けて相手の動きを予測しろ。常に次の動きを見極めろ」
私が本気で混沌の魔力を使えば、ガロファーとの練習試合は1秒で終わるだろう。しかし、それをしないのは、純粋に剣術の技術を身につけたいからである。
「は~い」
「まだまだ踏み込みがあまいし全身の力を有効的使え」
ガロファーが私にきびしい特訓をするには理由がある。それはある情報が入ってきたからである。デンメルンク王国の第1王子であるモナークがゴブリンキングの討伐に向かうとの情報を得たからである
モナークは王妃のアプロディーテーの第一子であり、『覇王』の『称号』を授かった人物だ。モナークは将来ロード国王の後を継ぐための実績を作るために、ゴブリンキングを討伐すると名乗りを上げたのであった。
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