第2話 ふん、魔法少女だと? 俺が正体を暴いてやろう

「おお、これが魔法の力か」

「はい、信じていただけましたか」


 どこか誇らしげに合間妹子が胸を張った。そうだ、俺は家に帰ってきたとき、内側から鍵をかけたんだったな。まさかそんなことが裏目に出るとは思わなかった。


「それにしても、大胆な侵入手口だな。この強盗犯め。さっそく警察に通報しよう」

 俺がスマホを取り出してプッシュしようとすると、合間妹子が焦って俺の手首を掴んできた。


「わわっ、わわっ、先生、止めてください。お願いします」

「何言ってんだ。普段からお前はこうやってドアに穴を開けて金品を荒らしまくっているんだろう。たまたま俺がいたから、こじつけの嘘を言ってるんじゃないのか?」


「わぁ、違います、違いますっ。私は泥棒なんてしたことありませんよぅ」

 わたわたと焦って手を振る合間妹子。だが、その程度で許されると思うなよ。


「ふん。じゃあ、百歩譲って、お前が強盗じゃないとしよう。だが、だからと言ってドアをぶっ壊していい理由にはならんぞ。立派な不法侵入じゃないか、ええ?」


 俺の正論に合間妹子が少したじろいだ。だが、ここで許してしまっては、結局俺がドアを弁償する羽目となるのだ。俺は揶揄するような目つきで、ドアの損壊部分を指差した。


「お前は魔法使いなんだろう? だったら魔法で直したらどうだ、ほれほれ」

「えっと、それはできないんです」

 申し訳なさそうにうつむく合間妹子。ほれ見たことか、あっさり馬脚を露したな。俺は思いっきり疑わしいものを見る目つきで合間妹子ににじり寄った。


「おい、正直にお兄さんに言ってみろ。本当は魔法なんて使えないんだろう? ああぁん?」

 不良漫画ばりに眉間にシワを寄せて合間妹子に詰め寄る俺。そう、この現代社会において、魔法使いのような前時代的で非科学的なものは否定せらるべきものなのだ。運よくトラックで異世界に転生でもしたってんなら話は別だが。


「違います。私は嘘なんて言っていません」

 予想以上にきっぱりと断言する合間妹子。その態度に、俺も少し挑戦的な気分になってきた。

「ほう、では俺の前でそれを証明できるのか?」

「できます」

 そう言って、こくりと頷く合間妹子。


「ただ、ここで力を使うのは少し難しいので、先生の部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」

「いいだろう。お安い御用だ」

 俺は部屋に戻る途中で、本当にそんなことが可能なのだろうかと考えた。

 

 まあいい。仮に魔法が本物だったら、その力でドアの修理費を稼いでもらえばいいだけの話だ。テレビに出て出演料を貰うとか、便利屋を始めるとか、いくらでも方法はありそうじゃないか。まあそんな細かいことは事実を確かめた後でゆっくりと考えればいい。


「で、一体何をしてくれるんだ」

 腕組みをしたまま、俺は挑戦者に対し勝負の開始を促した。俺は現代文明の代表として、魔法なる蒙昧なものを断罪する立場の人間だ。審査は厳しく公正でなければならん。


「じゃ、えっと、何かいらないものとかありますか?」

 俺は部屋を見渡した。最もいらないものと言えば、これだな。俺はさっき食べたソーセージ入りペペロンチーノの容器を差し出した。要するに、ゴミだ。


「ちょっと軽いですが、いいでしょう」

 合間妹子は受け取った容器を右の手のひらに乗せ、むっと力を込めた(ように見えた)。すると、白く輝く球体が手のひらの上に突如出現し、容器を包み込んだ。そしてそれが淡く消えたとき――同時に容器は跡形もなくなっていた。


「これが私の魔法。何でも一瞬で消すことができますよ」

「マジか」

確かに、これだけ見るとよくあるマジックに見えないこともない。だが、俺の中で先ほど見た玄関のドアと奇妙に事象が一致してくるのだった。


 うーむ。もしかすると本物かもしれない。一つ確かめてみよう。

「合間妹子、もう一度さっきの白いやつを見せてくれ」

 はいと頷く合間妹子。早速、合間妹子の手のひらの上に再び白い球体が現れる。


 俺は、空になった麦茶のペットボトルを持ち、底のほうをそろそろと近づけた。球体に突っ込んで、引き抜いてみると、確かにその部分だけが綺麗に消え失せていた。


 むむむ。俺は上半分だけになったペットボトルを見て、唸った。これは認めざるを得ないだろう。今の一瞬でタネを仕込むなど人間業とは思えない。


「疑って悪かった。どうやらお前の魔法は本物のようだな」

 かくして現代社会の常識は、合間妹子の前に脆くも崩れ去ったのだった。敗北者たる俺は合間妹子に向けて素直に頭を下げた。


 妙に得意気な合間妹子の笑みが気にかかるが、我慢だ、我慢。

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