なに、この自称魔法少女と転生し、配信をしろだと? 届け、笑顔の魔法〜♪ って俺もかよ!

稲戸

第1話 ふん、合間妹子だと? 早く帰ってくれないかな迷惑だから

 俺の生活は、平凡そのものだった。そう、少なくとも今まではな。


「もうすぐ世界が終わるらしいんです」


 いきなり俺の部屋のドアがきいっと静かな音を立てて開いたかと思うと、見知らぬ制服姿の女の子が入ってきた。そして深刻そうな顔でそう告げたのだった。


「ほう、それは大変だな」

「正確には、世界の寿命が来るということらしいんですけど、ご存知ないですか?」

「ご存知あるわけねえよ」


 実際に世界が終わるとなると世の中大騒ぎになるだろうが、少なくとも昨日見た夜のニュースではそんなこと言ってなかったぞ。て言うか、お前は誰だ。


「うーん、それは困りました」

 そう言って、目の前の少女は眉根を寄せる。

 いやいや、どっちかっつうと困ってんのは俺だから。いきなり登場した不審人物にそんなことを言われても、どう反応すりゃいいんだよ。


 それともあれか? これはテレビとかネット動画のドッキリみたいなやつなのか? 残念だが、超一般ピープルである俺を穴が開くほど映しても、期待したような撮れ高はないと思うぞ。


 それとも、うわあ超怖いよう、などと大げさに驚いてやったほうがよかったのだろうか。ううむ。俺も(おそらく理由は違うだろうが、)女の子と同じように首を傾げて考え込んだ。


 まあ、ひとまず深呼吸でもして落ち着こう。そしてこれまでの状況を頭の中で整理することにしようじゃないか。


 俺の名前は、一画(いっかく)繊琴(せんきん)。統計で言うところの、まさにメジアンに位置するほど平凡な高校2年生だ。


 で、今日は日曜日。当然学校は休み。いつもと同じように近所のコンビニで昼飯のスパゲッティとパンを買い、自宅であるこのマンションに戻ってきた。

 

 そして、ちょいと遅めの昼飯を済ませ、宿題やらの片手間に日課である携帯ゲームをするという多少自堕落ながらもありふれた時間を過ごしていた頃に、突然ドアが開く。そして今ここに至るというわけだ。


 うーん、振り返ってはみたものの、何ら有益な情報は得られなかったぞ。まあとにかく本人に直接聞くしかないか。


「……とりあえず、お前の名前を聞いておこうか」

「は、はいっ。私は余事中学に通う2年生、合間(あいま)妹子(いもこ)です」

 学校名までは聞いてなかったが、まあいいとしよう。問題はその先だ。


「ほう。で、合間妹子、お前はここに何の用があって来たんだ?」

「はい、私の魔法について、先生にもっと教えていただこうと思いまして」

 はぁ、魔法? 先生? どういうことだ。ますますわけがわからんぞ。悪いがもう俺には無理かもしれない。


「すまん。何を言っているのか、全然わからん。魔法が何とかって?」

「はい、魔法、と言うか、この世界が終わって、次の新しい世界を始めるために、私たち〝継がれし者(サクセサーズ)〟に与えられた特別な力のことです」


「おおっ、そういうことか。なるほどな。わかったぞ」

「ふう、よかった。わかっていただけましたか」


 俺の言葉を聞いて、合間妹子がほっと胸をなで下ろして安堵した。そう、俺はこの件に関して完全に理解した。

 これはいわゆる中二病とか言うやつだ。年齢も合致する。俺も詳しくはわからんが、自分に特別な力があるとか思うらしいな。


 合間妹子か。ちょっと地味な雰囲気はあるものの、わりとどこにでもいそうな普通っぽい女の子なのに、中身がそんな飛び抜けているのは残念なことだ。


 だがまあ、中二病って言うぐらいだから、中三になれば治るんだろう。その辺よくは知らないが。もう関わらずにそっと帰ってもらうしかないな。


「合間妹子。ちょっと俺について来てくれるか?」

 俺はそう言って廊下に出た。振り向くと、少し遅れて合間妹子がおずおずと部屋から出てくるところが見えた。


 玄関まで歩くと、俺は素早く踵を返し、合間妹子の背後までダッシュした。そして、ぐっとその背中を押す。


「ひゃっ? わわ。先生、何をするんですか」

「最後に一つ言っとくが、俺は先生じゃない。残念だが人違いだ。さあ、帰ってくれ」


 こんな妄想話につき合っていられるか。合間妹子にはさっさとお引き取りいただこう。

「待ってください。お願いです。話を聞いてください」


 この期に及んでまだ抵抗しようとする合間妹子を無理に追い出そうと、俺が玄関のドアノブに手をかけようとした、そのとき。


 ――俺は、重大な異変に気がついた。


 おいおいおい、ドアにデカい穴が開いてるじゃねーか。俺は一瞬絶句した。普通なら鍵があるはずの場所から、お外が綺麗に見えている。うむ、風流だ、じゃねーよ。


「うおおおお、何だこりゃ。ドアが、ぶっ壊れとるー」

「はい、これが魔法の力です」

 そう言って合間妹子がなぜか満足そうに頷いた。

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