第7話
私は文字を食い入るように見つめていた。小学生だった私も、黒栖の考えを少しでも読み解こうと、同じことをしたものである。
だが、文字が文字でなくなってしまうほど凝視したところで、昔の私と同じ結論へたどり着いた。
その言葉は、宇宙人に対する呼びかけ。
一昔前のオカルトブームには、スプーン曲げのほかにUFOとの交信もあった。「ベントラーベントラー」というやつだ。英語と日本語がミックスされた奇妙な呼びかけは、テレビで結構な人気を博したそう。私が生まれる以前の話だが、卒業論文のために少し調べたことがあるのだ。
「そうだ、卒業論文……」
私は再び、茶色になった紙面に浮かぶ、奇怪な文章へ目を向ける。
ビュンキラービュンギラという部分がある。そこを私はベントラーベントラーのもじりであると考えていた。だが、もっと単純であるとしたらどうだ。私が今論文にまとめているようなオノマトペの一種だとしたら?
ビュン。何かが高速で移動するような感じ。キラあるいはギラというのは繰り返すことで光のイメージを持つ。あるいは「つく」と接続してキラツク、ギラツクとなる。ティンクは英語で言うところのキラキラ……。
「どうして気がつかなかったんだ」
一つ浮かぶと、連鎖して意味がポンポンと浮かんでくる。オノマトペであれば、知識の問題ではない。単語に込められているのは漠然としたイメージ。フワフワであれば何か柔らかいものを連想させるし、キラキラであれば光りを想起させる。
であるならば。
「ビュンキラービュンギラギン ティンクララ ヘィアィア ボオウボオウ カアカア ペィアピィア」
これはすべて、一つのイメージのもとに並べられていた。決して、既存の何かを改変したものではなく、何かしらの規則に並んで配置されている。
「その何かって?」
考えるまでもない。ほかでもない宇宙人との交信のため。
つまりはコミュニケーションが行われている。オノマトペを主体とした会話によって。
黒栖は本当に、宇宙人と交信を行っていた――?
手帳を持つ手が震えてきた。あの場にいた私と黒栖の決定的な違いに、私はやっと気づいた。
私は黒栖ほど宇宙人の存在を信じてはなかったし、対話できるという、その言葉のことだってちっとも本当のことだとは思っていなかったのだ。
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