第4話

 あの夜もドロドロとした闇に包まれていた。


 黒栖が儀式を行うのは決まって新月の時。星々の輝きはあれど、何億光年先からの光は地上を照らすにはあまりに弱すぎる夜のこと。


 学校近辺に人工的な輝きはほとんどない。コンビニとかカラオケボックスなどは、川の向こうにしかなかった。どうして学校だけが山の裾野に建てられたのかは、学校の七不思議の一つである。


 日付が変わったばかりの世界に二人分の足音がコツコツ響く。快晴無風、木々の影は地面へと縫い付けられていた。


 私たちはお揃いの合羽を着ていた。合羽は入学した際に買った黄色のものではなくて、闇に溶け込んでしまいそうなブラック。誰にも見つかりたくなくて、上から下まで墨汁をぶっかけられたような恰好をしていたが。


「これじゃ見失ったらどこにいるかわからなくなっちゃうかも……」


 私がそんなことを言うと、クスクス声が返ってくる。


「ありえるかも。こんな暗い日に星の吸血鬼がやってきていて、私のことを連れて行こうとしていたりね」


「星に吸血鬼がいるの……」


「有機生命体の体液は栄養豊富だからそれを吸おうとする生物はたくさんいる。星の吸血鬼っていうのは、血を吸うから言われているだけで本当の名前じゃないんだけども」


「ホントの名前は?」


 秘密、と黒栖が囁く。ひそやかでコロコロと跳ねるような声に反応するかのように、クルクルと風が舞う。木々の葉がこすれあいサワサワという音が響いた。


 ブルリと体が震えた。すでに季節は六月になろうとしているのに、冬将軍が息を吹きかけてきたみたいに、寒気がする。


 黒栖は踊るように歩いている。闇の中を歩くときはいつだって、黒栖は嬉しそう。だが私は怖くて怖くてしょうがなかった。思い出しただけでも、漆黒の中のドロドロしたものが現実になって、眼前へと浮かび上がってくるような錯覚に囚われるほど。


 幼い私は恐怖を訴えた。


「え、むしろ楽しくないの? 未知との遭遇を果たすかもしれないんだよ、命くらい安いものだと思わない?」


 私には黒栖の言葉が理解できなかった。未知との遭遇、命。それがどのように関係しているのか、小学生にはいまいちピンとこなかった。ただ、難しいことを言ってるなあ、というのを記憶している。


 わからないままに頷けば、黒栖が頭を撫でてくる。くすぐったくて照れくさくて、私は顔を俯かせるのだった。

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