第3話

 私がオカルトに傾倒していた時代というのは、オカルトブームが過ぎ去った後である。


 オカルト好きを公言していた私たちは、両親や教師たちに怪訝な目を向けられていた。


 それというのも、黒栖が飼育小屋のニワトリを勝手に持ち出して、生贄に付したせいなのだ。自業自得である。お尻ペンペンの刑で済んだのが不思議なくらいで、今ならお縄をかけられてもおかしくなかった。


 とはいえ、その時の私と黒栖といったらいっぱしの魔術師気取りだったから、なんで怒られなきゃならないんだ、といったことをブウブウ漏らしていた。


 思い返すだけで、顔から火が噴き出してしまいそう。


 魔術を行おうとするたび、先生だか親だかに叱られた。そのうち向こうも考えるようになって、厳重な管理が行われはじめる。私のこぶしほどの南京錠がブラブラ揺れ、人の目には見えない光が侵入者を検知し、けたたましいアラームをガアガアがなり立てる……。


 学校の敷地内は警備員がゾロゾロ巡回し、いかしたミステリーサークルを描く、なんてロマンも叶わない。


 どうしたもんかと思案する私に黒栖が提案したのが、学校の裏山である。

 

 今思えばほのぼのとしたアイデアだと思わずにいられない。学校が使えないから、近くの裏山で。あまりに安直。先生たちだって同じことを考えたに違いない。


 それでも、裏山にライトをピカピカ輝かせた大人たちがやってくることはなかった。


 どうしてか。


 一つは十六女いろつき家が所有する山だったから。もう一つには、その山は曰く付きのものであったからだ。


 その曰くというやらの詳細を、私を含めて知っている人間はいない。なのに、みんな山に近づこうとしない。


 あそこにはよくないものがいる。


 ――まるで、十六女の人たちから距離を置いているように。


 幼い私は疑問に思っていたが、それに答えるものはなかった。クラスメイトは黒栖と話したこともなかったし、大人たちは大人たちで、腫れ物を扱うような態度を取っていた。


「どうして怖がるのかしら。わたしはか弱い女の子なのに」


 ねえ、と黒栖が私へと問いかけてくる。この頃の私といえば、黒栖という太陽に目を焼かれてしまっており、恐怖心とか不快感はなかった。


 ねーと返した私に、黒栖は目を細めていたのを覚えている。私の反応が嬉しかったのか、はたまた怖がられているのがバカらしいのか。どちらにしても、面白がっているのは確かだった。

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