第89話 リナーフ王国へ

 フォレストマウスに対処してからは、大きな問題の起きない穏やかな道中が続いた。

 魔物の動きは普段よりも活発になっていたようだけど、優秀な騎士と魔術師の皆さんがすぐに討伐してくれて、不安を感じることなく道中を楽しむことができる。


 そんな中で、私たちはついにリナーフ王国へ入った。リナーフ王国の中をしばらく進み、王宮まではあと数時間だそうだ。


「この辺りはまだ、穏やかな日常が保てているのでしょうか」


 馬車の窓から外を覗くと、街道沿いには畑が広がっていて、ポツポツと民家も発見できた。

 こういう穀物地帯はどうしても街の外壁外になってしまうから、普段から街中よりも危険な場所なのだ。今はその危険度が、さらに増していると思う。


 しかし見る限り、魔物に畑が荒らされているような様子はない。


「この穀物地帯が魔物にやられると、リナーフ王国にとってかなりのダメージだからな。騎士が巡回しているのだろう。もしかしたら、森と草原を分けるように柵なども作っているのかもしれない」

「そのような対策もあるのですね」


 確かに魔物は草原よりも圧倒的に森の中にいることが多いと聞くから、有効的な策なのだろう。


「あっ、リリアーヌ様、あちらに美味しそうなお野菜がたくさんありますよ」


 私と同じように窓の外に視線を向けていたエメが、嬉しそうな声音でそう言った。


「本当ね。良い色付きに見えるわ」

「そういえば、リナーフ王国では何が有名なのでしょうか」

「確か、茶葉の生産が有名ではなかったかしら。お茶を楽しむ余裕があったら良かったのだけど」


 これが旅行ならば純粋に楽しめるけど、世界的な危機に直面している中での大陸会議では、さすがに楽しむのも難しい。


 今度は普通に旅行として、フェルナン様とお出かけがしてみたいわ。


 そんなことを考えながら馬車に揺られていると、ついにリナーフ王国の王都が見えてきた。帝国の帝都と同じように外壁に囲まれているようだけれど、その周りにも街が広がっているらしい。


「外壁の外側に住まれている方が心配ですね」


 思わずそう呟いてしまうと、フェルナン様も頷いてくださった。


「そうだな。魔物に襲われたら一気に街が壊滅するだろう」


 街が拡張する過程で外壁に守られない地区が出てしまうのは仕方がないけれど、今みたいな有事の際にはとても心配な場所だ。


 帝都はすでにとても大きな街になっていて、基本的には街の全てが外壁に守られているので、そこはとても安心できる材料の一つだった。


「しかし多くの騎士が巡回しているようだな。これならば比較的安心だ」


 フェルナン様のそのお言葉にもう一度街に視線を向けると、確かに多くの騎士が隊列を組んで警戒をしているようだ。


「本当ですね。あっ、私たちの馬車にも気づいたようです」

 

 それから街に近づくと、数人の騎士たちに馬車を止められた。しかし大陸会議が開かれることは周知の事実のようで、最初から敬意をもって接してもらえる。


「ユルティス帝国の方々でしょうか」


 馬車の意匠からそう声をかけられた。


「ああ、大陸会議に参加するためやってきた。私はフェルナン・ユティスラート。そしてこちらがリリアーヌ・フェーヴルだ」


 フェルナン様に紹介していただいたところで軽く会釈をすると、騎士の方々は揃って胸に拳を当てた。


「遠いところご足労いただきまして、誠にありがとうございます! 国王陛下より皆様の案内役を仰せつかっておりますので、我々の部隊が王宮までの道を先導させていただきます。どうぞ後に続いてください」

「分かった。配慮感謝する」


 そうして短いやり取りが終わると、さっそく騎士の方たちが先導してくださり、私たちは街中に入った。


 リナーフ王国の王都の様子は、帝都と比べるとかなり密集している街だという印象を受ける。建物が所狭しと建てられていて、道路にもたくさん屋台が出店していた。


「随分と人口が多いのですね」

「そのようだな。だから外壁の外へと街が広がっているのだろう」


 屋台で売っているものに目を向けると、ユルティス帝国やペルティエ王国でも見たことがないようなデザインの布が売っていたり、とても美味しそうな料理が売っていたり、歩くだけで楽しめそうだ。


「まだ街には活気があるな」

「はい。この辺りは被害が少ないようで良かったです」


 それからも賑やかな街並みを眺めながら馬車に揺られ、しばらくして王宮に到着した。

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