第87話 作戦準備

 私がレオの肩に手を置いているという最悪のタイミングでフェルナン様が馬車に戻ってこられ、その場面を目撃したフェルナン様は少し不機嫌な表情で口を開かれた。


「レオ、お前は何をしているんだ? 私の護衛だろう? 早くこないか。もしリリアーヌに何か邪な気持ちを抱いているのだとすれば、私はお前であろうと容赦はしない。さあ、何か弁明があるならば言ってみろ」


 仁王立ちしながら反論の隙を与えないほど一気に捲し立てたフェルナン様に、レオは慌てて立ち上がり馬車から降りる。


「ご、誤解です! 確かにリリアーヌ様が微笑ましくて、馬車から降りるのが遅れてしまったことは申し訳なく思いますが……私はフェルナン様のご婚約者様として、リリアーヌ様のことを大切に思っております。お二人のことをご一緒に、命に変えてもお守りする所存です!」


 キリッとした表情で言い切ったレオに、フェルナン様は少し頬を緩めた。フェルナン様もそれは分かっていて、少し揶揄った部分もあるのだろう。


 私もしっかり伝えておこうと、体ごと視線を向けて口を開く。


「私がレオの肩に手を置いていたのは、フェルナン様を追いかけた方が良いと伝えるためだったのです。その……私はフェルナン様が大好きですので、あまり心配なさらないでください」


 恥ずかしく思いながらも伝えると、フェルナン様が僅かに目を見開かれた。そして馬車のステップに足をかけ……たところを、レオに止められる。


「フェルナン様、リリアーヌ様との時間を過ごされるのは、無事にフォレストマウスの群れへ対処をしてからにしましょう」

「お前が言うか……」


 ぐぬぬ……という言葉が聞こえてきそうな声音でフェルナン様はレオにそう告げたけれど、すぐにスッと馬車から足を下ろして姿勢を正された。


「しかし、それも一理あるな。まずは目の前の問題に対処しよう。リュシーも共に来てくれ。それからリリアーヌも作戦実行時には私と共に騎乗してもらうかもしれないので、準備を頼む」

「分かりました。皆で頑張りましょう」


 私がそう伝えると、フェルナン様は柔らかい笑みを浮かべた。


「ああ」


 そうして、フォレストマウスへの対抗作戦開始だ。


 フェルナン様たちが外で騎士たちと共に話し合いをする中、私は馬車内でエメとクラリスによって、早急に服装を整えられていた。


 旅の途中ということで豪華すぎるドレスは着ていなかったけれど、騎乗には適していなかったので、急遽馬に乗っても大丈夫な服装に変える。


「リリアーヌ様、ご無理はなさらないでくださいね」

「怪我などされませんよう……」


 心配そうなエメとクラリスに、私は笑顔を向けた。


「大丈夫よ。だってフェルナン様がいるのだもの」


 心からそう思って二人に伝えると、二人とも少しだけ呆然と固まってから、ニヨニヨと頬を緩める。


「そうですね。そうでございました」

「うふふ、リリアーヌ様のおっしゃる通りです」

「旦那様はとても頼りになりますものね」

「ええ、ええ、そうでした」


 二人の表情と会話から、私は少し恥ずかしいことを言ったのだと気づいて頬が熱くなるけれど、それが真実なのだから少しは胸を張ろうと頷いた。


「そうよ。フェルナン様がいれば大抵のことは大丈夫だと思っているわ」


 改めて笑顔でそう伝えると、今度はエメが泣き始める。


「お二人の仲がよろしくて、私は感激しております……!」

「私もです……!」


 クラリスも感激に瞳を潤ませ、二人は手を取り合って泣き出した。そんな二人に少し困惑しつつも、自然と笑顔になってしまう。


 二人といると楽しくて心が軽くなる。本当に手放し難い、大好きなメイドたちだ。


「二人とも、最後まで着替えをお願いね」

「はいっ!」

「もちろんです!」


 それからすぐに着替えが終わり、私は気合を入れて馬車を降りた。


 すると、ちょうどフェルナン様たちも準備が終わったところだったようで、私は馬を引き連れたフェルナン様に呼ばれる。


「リリアーヌ、こちらへ」

「はい」


 馬は二人乗りにも容易に耐えられるような、がっしりした大きい種類のようだ。あまり慣れていない私が近づいても大人しく、なんだか可愛い子だった。


「この馬に二人で乗って、リリアーヌにはフォレストマウスの動きを見ながら魔法を使ってもらう。そして私たちの周囲を騎乗の騎士が固めて護衛をし、残りの騎士は馬車の護衛だ」


 周囲を見回すとすでに騎士さんたちは配置についていて、後は私が魔法を使うだけみたいだ。


「分かりました。頑張ってフォレストマウスを誘導します」

「ああ、頼んだ。予想通りリリアーヌの光魔法に反応を示すようならば、とにかく街道上のフォレストマウスを別の場所に誘導して欲しい。またフォレストマウスが捌けた瞬間に街道を抜けるので、かなりスピードを出す予定だ。舌を噛まないよう注意して欲しい」

「はい。気をつけます」


 とにかく私は光魔法に集中して、無事に効果があったら街道を通れるようにすれば良いということだ。頑張ろう。


 気合いを入れながらグッと拳を握りしめていると、その上からフェルナン様にふわっと手を握られた。そしてさっそく馬の方に誘導される。


「ではリリアーヌ、さっそく作戦を開始しよう」

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