第83話 報告と今後の動き
ラウフレイ様から重要な話を聞いてから数時間後。私とフェルナン様は、皇帝陛下であるレオポルド様に先ほどの話を報告していた。
全てを聞いたレオポルド様は、とても厳しい表情で考え込まれている。
「まさか、そのような歴史があったとは……竜王の封印が解けたということは、すでに竜王は私たちが確認できる状態でこの世に存在しているということだろうか」
信じられないというような表情でレオポルド様は呟かれ、その言葉に私は頷いた。
「はい。そのようなお話でありました。竜王には実体があるようです」
数千年、もしくはもっと前に封印されて現在も実体を伴っているというのは、正直信じられない。しかしラウフレイ様からの情報なのだから、ほぼ確実なのだ。
どれほど竜王というものが強く異次元であるのか、数千年の封印から復活したという事実だけで怖くなる。
「その竜王が長年の封印で混乱し、さらに封印された際の怒りから暴れているようですので……霊峰の近くでは被害が深刻かと推察されます」
フェルナン様のお言葉に、レオポルド様は険しい表情で頷かれた。
「そうか……」
それからしばらく考え込まれ、顔を上げたレオポルド様は決意を固めた表情だった。凛としたお声で決定を告げられる。
「まずは我が国が竜王についての詳細を得ていることは伝えず、魔物がこちらに押し寄せてきたことへの抗議と状況確認として、霊峰方向にある国々に使者を送ろう。ラウフレイ様とリリアーヌの関係は、できる限り隠したい。この危機を乗り越えることも大切だが、乗り越えた先についても考えねばならんからな」
レオポルド様の決定に、私は感謝と感動で泣きそうになった。
有事だからとラウフレイ様に関する情報を公開し、ユルティス帝国がこの事態を解決する主導権を握ることすらできるはずなのに……その優位性を捨ててまで、私の今後を考えてくださることが本当に嬉しい。
私は深く頭を下げてから、感謝を伝えた。
「ありがとうございます」
しかし、自分の中の決意もレオポルド様に伝える。
「ただ私は、命よりも大切な秘密はないと思っております。多くの人を救うためならば、先ほどの情報をお使いください。ラウフレイ様も直接の関与はできないと仰りましたが、手助けをしてくださるはずです」
私が伝えた言葉に、レオポルド様は真剣な眼差しで頷いてくださった。フェルナン様は心配そうに私の顔を覗き込まれたので、『大丈夫です』そんな意味を込めて、笑顔で頷き返す。
「必要となれば、情報を開示ができるよう準備はしておこう」
「はい。よろしくお願いします」
そうしてレオポルド様への報告は終わりとなった。
報告をしてから数週間は、表面上は平穏な毎日が続いていた。帝都の外はやっぱり危険なようだけど、騎士や兵士の皆さんの頑張りで街の中に危険はなく、いつも通りの日々が続けられている。
ただやはり街の外が危険なことで流通や生産が滞り、不足気味になっている食料はあるようだ。ここは根本の原因である竜王をなんとかしない限り、解消しないのだろう。
フェルナン様のお話では、他国に向かっていた使者が少しずつ戻り、情報が集まり始めているようだった。近いうちに、これからの方針が定まるだろう。
これからどうなるのか――。
そんな不安を抱えながらも、いつも通りこの国に関する勉強に励み、治癒薬に関する研究成果の確認やまとめなどをこなしていると……午後のまだ早い時間に、フェルナン様が屋敷に戻られた。
「フェルナン様、おかえりなさいませ」
エントランスに迎えに出ると、フェルナン様は眉間に皺を寄せていて、何か悪いことが起こったのではないかと心配になる。
「リリアーヌ、今帰った」
「お仕事お疲れ様です。……何かありましたか?」
恐る恐る問いかけると、フェルナン様は少し躊躇いながら私の手を取った。そして私のことを抱きしめながら、大きく息を吐き出される。
「今後のことが決まったのだが……その内容が少し受け入れ難かったのだ。リリアーヌにも関わることだから、今から話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです」
竜王に関して、まだ私にできることがあるのだろうか。不安と期待の両方を抱えながら、私はフェルナン様と共にフェルナン様の自室に入った。
室内のソファーに向かい合って腰掛けると、お茶を飲んで一息ついたフェルナン様がゆっくりと口を開かれる。
「まず、霊峰の周辺国では竜の姿が目撃されており、被害も我が国の数倍以上だそうだ。他国ではその竜が竜王であり、過去の人類が封印した存在だということは分かっていないにせよ、突然現れた竜が敵であり、討伐対象であるということは共通認識となっているらしい」
帝国の数倍以上の被害。想像するだけでどれほどの命が失われているのかと胸が痛くなる。
「……では、ラウフレイ様からいただいた情報を明かす必要はないのですね」
「ああ、明かさずとも竜を討伐するという方向に向かっているので問題はない」
その部分だけは少し安心できるけれど、情報を明かす必要もないほど竜王が激しく暴れているということで、喜ぶ気持ちにはなれない。
早く、討伐しなくては。
「討伐はどのように行われるのでしょうか」
「そこが話の中心なのだが、霊峰の周辺国は到底戦力が足りないと、大陸中の国々に緊急援助を求めているのだ。このまま竜王を放っておけば、いつどの国が危機に陥るかも分からないため、大陸全体で協力し竜王を討伐することが決定した。そのための大陸会議が開かれ、そこで竜討伐作戦について話し合われるそうだ」
大陸会議、そのようなものが開かれた記録などなかったはずだ。そんな決定がこの短期間で下されるほど、被害が酷く広範囲なのだと思うと胸が痛み、恐怖に支配されそうになる。
私は強く拳を握りしめて、意識を正常に保った。
「その大陸会議には、どなたが参加されるのでしょうか」
緊張しながら問いかけると、フェルナン様が少しだけ言葉に詰まり、諦めたように告げる。
「――私と、リリアーヌだ」
「え。私、ですか?」
予想外の指名に驚きよりも困惑が勝り、私はぱちぱちと目を瞬かせながら固まってしまった。
〜あとがき〜
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
本日は月刊プリンセス11月特大号の発売日です。本作のコミカライズ第8話もセンターカラーで載っておりますので、よろしくお願いいたします!
(玖米先生が描いてくださるカラー、とっても豪華で素敵です!)
そしてそれに伴って情報が公開されているのですが、コミックス1巻がついに発売されます!
発売日は10/25予定ですので、こちらもよろしくお願いいたします。
↓下記近況ノートに書影を載せていますので、ぜひご覧ください。
https://kakuyomu.jp/users/aoi_misa/news/16818093086111234408
よろしくお願いいたします!
蒼井美紗
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