第82話 今後の方針

「リリアーヌ、私はこの国の騎士団長として、この国の民を全力で守る」


 ラウフレイ様から竜に関するお話を聞いた上で、揺るぎない表情でそう宣言されたフェルナン様に、私の迷子になっていた気持ちが定まったような気がした。


「はい。私もフェルナン様のお手伝いを、全力でいたします」


 覚悟を決めながらそう伝えると、フェルナン様は頬を緩めてくださる。


「リリアーヌ、ありがとう」


 そして、ラウフレイ様に視線を戻された。


「ラウフレイ様、私は皆を守るために竜王を討伐したいと考えています」


 はっきりと告げた言葉に、ラウフレイ様は頷きながら口を開かれた。


『我もそれが良いと思っていた。少し見てきたが、もはや竜王に理性はなかったのだ。静かに眠らせてやることが一番だろう。幸いにも長年の封印によって、竜王は全盛期の半分も力を持っていない』


 全盛期の半分……それでも想像ができないほどに強いのだろうけれど、平和な世を取り戻すために避けては通れないことだ。


 私も光魔法で、少しでも皆様のお役に立てるよう頑張ろう。


「かしこまりました。全力を尽くします」

『頼んだぞ。聖獣である我の役割は見守ることであるため、我が直接世界に大きな変化を与えるような介入はできないのだが……できる限り二人に協力しよう。リリアーヌは大切な友人だからな』


 ラウフレイ様の言葉に、私は嬉しくて少しだけ泣きそうになってしまった。ラウフレイ様にここまで言っていただけるのだ。私はその言葉に恥じない存在にならなければ。


「またお茶会をご一緒をできるような、平和な世界にします」


 自分の中で決意を固めながら、そう伝えた。するとラウフレイ様は少し表情を緩められる。


『楽しみにしている』

「――それで、竜王とはどこに封印されていたのでしょうか」


 フェルナン様が僅かな緊張を滲ませながら問いかけると、ラウフレイ様はすぐに答えてくださった。


『竜王が封印されていたのは、霊峰の頂上だ。しかし我が確認した時には、少しずつ周囲を破壊しながら麓の方に向かっていた。そのため今は、また場所を移動している可能性がある』


 霊峰か……幸いにもここユルティス帝国のすぐ近くというわけではない。今すぐに帝国が竜王によって危険に陥るということはないはずだ。


 しかしだからこそ、そんな帝国にも魔物の大群が発生したというのは重く受け止める必要がある。この距離があっても、竜王は魔物に影響を与えるということなのだ。


 そして、もっと霊峰に近い国では被害が深刻になっている可能性がある。


「フェルナン様、霊峰の周辺国や、さらに他の国とも協力はできるのでしょうか」


 他国との協力というのはかなり難易度が高いと思って思わず問いかけてしまうと、フェルナン様は厳しい表情で悩まれた。


 しかし少しして顔を上げ、ゆっくりと深呼吸をする。


「……なんとか協力体制を構築するしかないだろう。有事であれば、大きく反発する国も少ないはずだ」


 確かにそうだ。他に大きな脅威がある時にも他国との争いを中断できないような、そんな自己中心的な国がなければ良いけれど……。


 そう考えた私の頭には、生まれ育った国が思い浮かんでしまった。ペルティエ王国が、そこまで愚かでなければ良いのだけど、アドリアン殿下やアメリーを思い出すと楽観的にはなれない。


 胸に浮かび上がった不安に、無意識のうちに両手をギュッと握りしめた。


「ラウフレイ様、色々と教えてくださってありがとうございます。もしよろしければ、これからもご助言ください」


 フェルナン様がそう伝えて頭を下げられたので、私もその横でしっかりと頭を下げた。


「ラウフレイ様、これからもよろしくお願いいたします」

『もちろんだ。また何かが分かれば伝えよう』


 そうしてラウフレイ様との話は終わりとなり、私たちは深淵の森に戻られるラウフレイ様を見送った。



 部屋の中にまた私たちだけになったところで、そっとフェルナン様を見上げた。するとフェルナン様もこちらに視線を向けていて、厳しい表情で互いの顔を見つめ合う。


「フェルナン様、今の話は全て真実……でしょうか」


 大変な現状を信じたくないという気持ちが勝って、思わずそう問いかけてしまった。

 するとフェルナン様は、ゆっくりと頷かれる。


「……ああ、信じたくないが、信じるしかない。しかし竜が実際に存在していたという事実だけで、信じがたいことは確かだ」

「そうですよね……しかも少し気になったのが、竜が逃げたという過去です。どこかで今も命を紡いでいる、なんてことはあるのでしょうか」


 この大陸にはいなくなったと、そうラウフレイ様は仰った。ではこの大陸以外で命を紡いでいるのだろうか……とても気になるけれど、前にラウフレイ様はご自分のことをこの大陸を見守る存在だと仰っていた。


 ということは、ラウフレイ様でも分からないのだろう。はっきり仰られなかったのは、そういうことだと思う。


「私もそこは気になっていた。しかし確認のしようもないからな……」


 そこで会話が途切れ、沈黙が場を支配した。色々と判明した事実にひたすら混乱していると、フェルナン様が雰囲気を変えるように口を開かれる。


「とにかく、まずは報告だな。今大切なことは、魔物の大発生の原因が竜王の封印が解けたことにあるという事実だ。この話を父上に伝え、早急に他国と情報共有をしなければいけない」

「そうですね。大切なことを見誤らないようにしましょう」


 私も歴史や気になることは一度頭の片隅に置いて、今の危機を乗り越えることだけを考えることにした。


「ああ、そうしよう。情報源がラウフレイ様ということで、リリアーヌも共に報告へと向かってくれるか?」

「もちろんご一緒します。私ならば、その場ですぐにラウフレイ様へとお話を聞くことも可能ですから」

「ありがとう。では行こう」


 そうして私とフェルナン様は、皇宮へ向かうため、急いで準備を進めた。

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