第78話 ひとまずの安堵
細かい怪我や体の汚れは酷いが、なんとか生きて帝都まで戻ることができた。それに騎士たちも、とりあえず全員を帝都に連れ戻した。
その事実を自分の中で確認した瞬間、一気に体の重さを感じる。しかしまだやるべきことはたくさんあるのだ。
私は自分を鼓舞しながら軽く剣を拭うと鞘に仕舞い、まずは騎士たちの安否を確認するために動くことにした。
「誰か、被害状況の報告を」
近くにいた騎士に聞こえるよう伝えると、怪我なく動き回れている様子の騎士が数名、報告に来てくれる。
「ご報告します! 騎士団は負傷者多数ですが、今のところ死亡者ゼロです。しかし意識が朦朧とした重体者は多く、現在必死に治癒を施しているところです。しかしこの場には治癒薬も光属性の魔術師も足りず、応急処理を施してから皇宮に運ぶべきかと!」
「帝都内の混乱はまだ最小限ですので、これから皇宮で動きがあれば大きな混乱に陥ることはないと推測されます! そのため皇宮への怪我人輸送は滞りなく行えるかと」
「現在魔物と応戦中の兵士ですが、兵士の数は足りるが武器や治癒薬などが足りないとのことです! 門を閉めた後のことを考え、投擲武器などを早急に集めるべきかと愚考いたします」
三人の報告を聞き、私はとりあえず少し安心して小さく息を吐き出した。急な魔物の大発生に森の中で遭遇したという最悪の状況だったにしては、現状でもかなり頑張った方だろう。
しかし不幸中の幸いというだけで、喜べる状況でないのは当然だ。
私はすぐに意識を切り替えて、これからの動きを考える。
「まずは皇宮への怪我人輸送を最優先とする。怪我人の到着を知らせる者、馬車を確保する者、怪我人の世話をする者に別れて滞りなく進めて欲しい。レイモン叔父上、リリアーヌ、ルイも皇宮行きのリストに載せてくれ」
「はっ!」
騎士たちの迷いない返答に、私は頷いて答えた。これでリリアーヌたちは安全な場所に移動することができる。
「また動ける騎士はこの場に残り、兵士と協力して魔物への対処と帝都内の混乱抑制を行う。外門は少しずつ閉めていき、通用口のみ開けておくよう兵士に指示を出してくれ。その通用口もしばらく戻ってくる者がいなければ、完全に閉めてしまって構わない」
「かしこまりました。この場の最高責任者は団長で構いませんか?」
「ああ、私が全責任を持って指示を出す。兵士にも従うよう伝えてくれ」
「はっ」
「ではさっそく頼む」
そうして騎士たちに指示を出したところで、私はレオと共にリリアーヌのところに向かった。そこではリリアーヌがまだ意識を失っていて、側にはぐったりとした様子のノエルがいる。
「ノエル、今回は助かった」
声をかけると、ノエルは緩慢な動きで視線を上げて、力なくヘラっと笑った。
「団長〜、僕は、魔物討伐で、役に立つんですよ? だからもっと、派遣してください……」
一応いつも通りの軽口を叩く元気があるノエルに安心するが、その辛そうな様子には思わず目頭に力が入る。
「十分に分かったから、今は休んでいろ」
そう言ってノエルの額を人差し指で弾くと、ノエルは少しだけ瞳を見開いた。
「団長が、優しい……」
「別に私はいつもと同じだ」
「へへっ……そうですね」
そんな話をしていると、私たちがいる場所のすぐ近くに騎士の一人が馬車を運んできてくれる。
「団長、リリアーヌ様たちにはこちらの馬車をお使いください。御者はこちら外門で雇っている下働きの者なのですが、他の者に変えますか?」
その提案に悩んでいると、レイモン叔父上の護衛の一人が手を上げてくれた。
「私は御者もできますので、変わります」
「そうだったね。では頼むよ」
レイモン叔父上が了承したので、私は騎士にその旨を改めて伝える。
「ということなので、御者は別の馬車に回してくれ。多分足りないだろう」
「かしこまりました」
そうして馬車の準備が整ったところで、私はまず叔父上に声をかけた。
「では叔父上、こちらの馬車で皇宮にお戻りください。諸々の報告はよろしくお願いいたします。ルイとノエル、リリアーヌも一緒で良いでしょうか」
「もちろん構わないよ。私に任せてくれ。フェルナンも無理はせず、救援が来たら引き継いで帰ってくるんだよ」
「もちろんです」
叔父上はノエルに手を貸して馬車に乗り、続けてルイも乗ったところで、私はアガットに声をかけた。
「ではアガット、馬車の中でリリアーヌを受け取って欲しい。私が抱き上げよう」
「かしこまりました。リリアーヌ様の身の安全は、私が命に変えてもお守りいたします」
「ああ、信頼している。頼んだぞ」
真剣な表情で頷いたアガットが馬車に乗り込んだところで、私は静かに眠っているリリアーヌの側に膝を付いた。リリアーヌが規則正しい呼吸をしていることを確認し、安堵する。
無意識のうちにリリアーヌの頬に手を伸ばし、そっと触れたところで……リリアーヌの瞼が、僅かに動いた。
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