第77話 全力のフェルナン

 帝都内に流れてくる騎士たちの波に逆らい、私とレオはまた帝都の外に出た。するとそこでは……騎士と魔物が乱戦となっている。


 ノエルは……いたっ。


「ノエル! 森にまだ騎士はいるか!?」


 その声は辛うじて聞こえたようで、ノエルはこちらに飛んでくると、息を切らしながら報告してくれた。


「団長、もう森には、いないです。ただこの乱戦の中、帝都に辿り着けない騎士が、何人もいて……」


 よく見るとノエルは汗だくで、顔色もかなり悪い。もう魔力を使いすぎて限界なのだろう。


「分かった、報告ありがとう。後は私に任せておけ。ノエルはリリアーヌを守っていて欲しい。帝都に入ってすぐの場所に、布を敷いて寝かせてある。護衛や叔父上たちがいるとはいえ、今の混乱状態では心配だからな」


 素直にもう休めと伝えても頷かないだろうことは分かっていたので、リリアーヌの護衛という役目を伝えた。

 リリアーヌの近くに魔術師団長がいてくれたら、より安全だと思っているのも事実だ。


 するとノエルは少しだけ悩んでから、ゆっくりと頷く。


「……分かりました。じゃあ、あとはよろしくお願いします」

「ああ、全員を帝都に連れ戻す」


 ノエルの言葉に力強く頷いて見せると、ノエルはフラフラしながらも帝都に入っていった。


 それを見送ったところで、私は改めて目の前の戦場に視線を向ける。


「レオ、とにかく近くにいるやつから助けていく。魔物を倒すのではなく、一時的に吹き飛ばしたり行動不能にできればそれで良い。目的は救出だ」

「分かりました」

 

 レオの返事を聞いたところで、一番近くにいた騎士の下に向かって地面を蹴った。その騎士はジャイアントラビット五匹に周囲を囲まれていて、動くに動けないようだ。


「助けに来た、道を作るから帝都まで走れ!」

「団長っ!」


 騎士がこちらに気づいた瞬間、私は騎士を取り囲んでいるジャイアントラビットの中で、帝都側にいる一匹を剣で切り伏せた。さらに剣を振るのと同時に火球も飛ばし、その両隣の個体を吹き飛ばす。


「行けっ!」

「ありがとうございます……!」


 騎士の感謝の声を聞きながら、獲物を取られたことで怒りを露わにした残り二匹のジャイアントラビットと対峙した。素早く切り伏せていると、後ろからレオが剣を振る音が聞こえる。


「フェルナン様っ、俺たちも魔物に狙われ始めました!」

「分かっている……っ、逃した騎士は?」

「帝都に戻れています!」

「じゃあ、次に行くぞ!」

「はいっ」


 それから私たちは、魔物が次々と森の中から溢れてくる中、必死に剣を振るって魔法を発動させた。


 時には大怪我をしていて動けない騎士を担ぎ、帝都まで運ぶ。魔物のあまりの数に攻撃を全て防ぐことは不可能で、私とレオにも少しずつ怪我が増えていった。


「くっ……あと何人だっ!」

「あと二人です! 森の近くで魔物に囲まれてる中、なんとか耐えてますっ」


 レオの言葉に森の近くに視線を向けると、確かに魔物の集団が騎士を襲っていた。ジャイアントラビットにウォーターボア、ビッグベアもいる。


「お前たち、火炎を使うから防げ!」


 騎士二人に向かって叫んだ。あの二人のうち一人は、水魔法を騎士としては高度に扱えるのだ。


「はいっ!」


 返事が聞こえた瞬間、私は練り上げた魔力を一気に放った。魔物の群れと騎士二人が炎の中に包まれる。


 数秒ほど炎を放射し続け、少し息が荒くなりながら止めた。すると多くの魔物は火傷を負って動きを遅くしていたり、怒りから標的を私に変えている。


 その様子に、今度は挑発の火球をいくつか打ち込んだ。


「早く逃げろ!」


 魔物の包囲網が少し途切れたところで叫ぶと、騎士たちも私の言葉と同時に走り出した。少しの怪我は厭わず、とにかく魔物から距離を取る。


「団長っ、ありがとうございます……!」

「感謝は後でいい! とにかく帝都に入れっ!」

「はっ!」


 騎士二人を後ろに庇い、私はレオと共にこちらに怒りを向けている魔物の群れに対峙した。


「レオ、私たちも後退するぞ。あの魔物たちを牽制しつつ後ろに下がる」

「はい。俺は後ろを警戒します。向かい合わせでいきましょう。互いに左右は右を」

「分かった。必ず生きて戻るぞ」

「もちろんです」


 レオと打ち合わせをした瞬間、ビッグベアが怒りのままに地面を蹴ったのが見えた。私はそんなビッグベアに火球を放って勢いを抑えつつ、剣で上手く右へ受け流す。


 受け流した瞬間にビッグベアの足を斬り、前のめりに転んだところでレオに叫んだ。


「レオっ、足に追撃しろ!」

「はいっ!」


 完全に息の根を止めるには時間がかかるが、動けなくするだけなら足を一本使えなくするだけで良い。レオに叫んでる間にもウォーターボアが突進してきて、水魔法を使う魔物であるため火魔法は温存し、剣だけで捌いた。


 とにかく自分と共に後ろのレオを守るため、攻撃をひたすら受け流し、できればその瞬間に足を斬る。


 そうして少しずつ少しずつ、帝都に近づき――


 襲いかかってきたジャイアントラビット数匹を火魔法で吹き飛ばした瞬間、私は叫んだ。


「帝都まで走れっ!」

「はいっ!」


 この距離なら逃げ切れると判断した。帝都の外門には兵士が隊列を作り、魔物を押し留めている。兵士の隊列内に逃げ込めばこちらの勝利だ。


「こちらへ!」


 走り出した瞬間に、兵士たちが隊列の一部に隙間を開けてくれた。


 そこに向かって全力で走り――私とレオは、無事に帝都へ戻ることに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る