第75話 大規模魔法と大規模治癒
ノエルさんに力を貸して欲しいと肩を掴まれ、突然のことに凄く驚いたけれど、私が役に立てるならとすぐに頷いた。
「もちろんです。私でお役に立てるのでしょうか」
「はい。今から僕が、魔物だけを貫くように大規模な風魔法を行使します。しかしこの混戦の中では、味方にも攻撃が掠ってしまうのは避けられません。そこで……僕の攻撃のすぐ後、リリアーヌ様には騎士たちの治癒をお願いできませんか?」
怪我が重なっている騎士たちを癒し、逃げる体力を回復してもらうということね。確かにそれならば、私が適任だわ。
そして転移や伝達で援軍を頼むという方法よりも、大勢の人たちが助かる可能性が高いかもしれない。
「もちろんです。ただ治癒をした後、魔力不足で倒れてしまうかもしれません。それによってご迷惑をおかけしてしまうのですが……」
「それなら大丈夫です。団長が……」
ノエルさんの言葉の途中で、私たちの下に一人の騎士が駆けてきた。
それはもちろん、フェルナン様だ。
「私がリリアーヌのことを責任持って運ぶ。私に任せて欲しい」
そう言って微笑んでくださったフェルナン様に、私の中にあった不安はスッと解けた。
「ありがとうございます。……ただ、フェルナン様の両手が塞がれてしまいませんか?」
「そこは問題ない。他の騎士たちがいるし、ノエルの攻撃の後は帝都まで駆け抜ける予定だ。また今のように囲まれて混戦になれば、それこそ全滅だからな」
「……分かりました。では、よろしくお願いします」
フェルナン様に全てを預けようと決意して右手を差し出すと、フェルナン様も手を伸ばし……手が触れる直前で、少し迷われた。
「リリアーヌの手が汚れてしまうな」
その言葉に、汚れが私に移ることを気にされていると分かる。フェルナン様の手は、土や魔物の体液などで汚れてしまっていたのだ。
しかし私はそんなフェルナン様に、躊躇いなく手を伸ばした。
「この汚れは、フェルナン様が私たちを守ってくださった証です。気になりません」
手を強く握りながらそう伝えると、眉間にグッと力を入れたフェルナン様に、強く抱き寄せられた。フェルナン様の腕の中に閉じ込められると、こんな現状なのに安心して体の力が抜けてしまう。
「――リリアーヌ、必ず守る」
「はい。お願いいたします」
フェルナン様から少し離れると近くにノエルさんがいて、ノエルさんはいつも通りの呆れた笑みを浮かべた。
「お二人を見てると力が抜けますね〜」
その笑顔に、私も少し緊張が解れる。
「すみません」
「いえ、ちょうど良かったです。じゃあ、生きて帰りましょうか」
「はい、必ず」
ノエルさんが一気に高度を上げるのを見送っていると、フェルナン様が私の腰をしっかりと抱いてくださった。
「私が支えるから、全力で頼みたい」
「もちろんです」
そんなやり取りをしていると、ノエルさんが大規模な魔法の準備をしているのが分かった。
ノエルさんの周りに風が集まり、渦を巻いている。近くにある葉っぱや小さな枝も巻き込まれ、ノエルさんの髪の毛や服もバサバサと激しく風に揺れていた。
そんな中で両手を前に突き出したノエルさんは、一度深呼吸をするように目を閉じると、大きく開いた瞬間に魔法を放った。
ビュンッッと強い突風が吹く時のような風切り音が耳に届き、すぐに魔物の呻き声が四方から聞こえてくる。咄嗟に閉じてしまった瞳を開くと、多くの魔物が地面に倒れていた。
しかしそんな中で同じように倒れたり、怪我をしたのか地面に膝をついている騎士の方もたくさんいて、私はそんな傷付いた仲間を癒すために、全力で魔力を解放した。
治癒効果がある光の蝶を無数に飛ばし、騎士さんたちの傷口に向けて飛ばす。傷口に止まった蝶はヒラヒラと羽を動かしながら、怪我を治していった。
しかしこの大人数の怪我を、全て治すのは無理だ。なので治癒効果は最低限で、鎮痛効果の比重を大きくした魔法にしてある。
怪我が完璧に治ってなくても、痛みさえなくなれば、なんとか帝都に戻れるはず。帝都に戻れば治癒薬でも、他の人たちの光魔法でも、治療方法はたくさんあるのだ。
全員が、生きて帝都に戻れますように。
そんな願いを込めて魔法を使い続けていると、すぐに意識が遠のいてきた。もう、魔力が終わってしまう。
どうか、皆さん無事で――。
そう祈ったのを最後に、私は完全に意識を失った。
〜あとがき〜
先日発売された月刊プリンセス9月号に、
「婚約破棄された可憐令嬢は、帝国の公爵騎士様に溺愛される」
6話が掲載されております!
漫画となることでキャラクターがさらに魅力的になっています。漫画の方もよろしくお願いします!
蒼井美紗
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