第74話 ギリギリの戦い
順調に帝都へと戻っていたら、突然魔物が私たちを襲った。最初は今までと同じような魔物との戦いになるのだと思っていたけど、すぐに様子がおかしいことが分かる。
多様な魔物が、さまざまな方向から一斉に私たちを襲ったのだ。
「こ、これは、大丈夫なのでしょうか……」
不安からそう呟くと、レイモン様は厳しい表情で口を開かず、アガットは素早く剣を抜いた。
「リリアーヌ様、絶対に私から離れないでください」
「わ、分かったわ。……レイモン様、ルイさん、一ヶ所に固まっていましょう。それから治癒薬の準備も」
私にできる最善をしようと、深呼吸をしてから二人にそう伝える。すると二人はすぐに頷いてくれた。
「そうだね」
「すぐに準備しますっ」
そうして私たちが動き出したところで、大股で足早に歩くフェルナン様がやってきた。
「リリアーヌ、叔父上とルイも、私たちは魔物を牽制しつつなんとか無事に帝都への帰還を目指します。周りの騎士たちの進行速度にできる限り合わせてください」
「分かった。こちらのことは心配しないで」
レイモン様がそう伝えると、フェルナン様は私に視線を向けてくださる。その視線は心配そうに揺れていて、私は少しでも安心してもらおうと笑みを浮かべた。
「私なら大丈夫です。それよりもフェルナン様、絶対にご無事でいてください」
「ああ、もちろんだ」
フェルナン様は真剣な表情で頷くと、殿を務めるのか最後尾に向かって駆けていく。そんなフェルナン様の背中を少し見送り、私は視線を進行方向に向けた。
この緊急事態にフェルナン様の無事を確かめられないのは不安になるけど、信じるしかないのだ。
フェルナン様、必ずご無事で……!
それからの隊列はかなりの速度で森の中を駆け抜けたけれど、次第にその速度は遅くなり、ついには完全な足止めを喰らう事態となっていた。
四方八方から魔物が私たちを襲い、いくつもの魔法が入り乱れ、戦況すら完璧に把握できない状況に陥ったのだ。
「リリアーヌ様、頭を低くしてください!」
すぐ近くにいるアガットの叫びに反応すると、そのすぐ後に私の頭上をウォーターボアが放った水流が貫く。
「っ……!」
思わず息を呑むと、今度はアガットに腕を掴まれた。必死に足を動かして、走るアガットに付いていくと、さっきまで私がいた場所をレッドカウが突進で駆け抜けていく。
「はぁ、はぁ、お怪我はありませんか?」
「え、ええ、大丈夫よ。それよりも、怪我をした騎士の治癒を」
さっきのレッドカウによって、一人の騎士が突き飛ばされたのが見えたのだ。なんとか助けなければ。
そう思って動こうとしたけれど、アガットには首を横に振って止められてしまった。
「早く行かないと……!」
「大丈夫です。すでにレイモン様が向かっておられます」
その言葉に辺りを見回すと、確かにレイモン様が騎士に治癒薬を差し出している。その光景を見て安堵すると共に、自分の視野が狭まっていることを感じた。
焦っていてはダメだわ。こういう時こそ、冷静でいなければ。
改めて決意を固めて顔を上げると、私は少しでも今の状況を確認するために周囲を見回した。全方向で騎士さんたちが魔物と対峙している。
魔物の種類はもう、数えきれないほどに多いみたいだ。しかし大多数を占めているのは、最初に姿を現したビッグベア、ウォーターボア、レッドカウの三種類。
その中でも数が多いのは、ウォーターボアのように見える。フェルナン様の魔法属性は火だからか、基本的には剣で戦っているようだ。
逆にノエルさんの風魔法はウォーターボアに相性が良いらしく、次々と魔物を倒していく。ただそれでも、あまりにも数が多すぎるらしい。
「魔物の討伐は、なんとか間に合っているのかしら」
「そのようです。しかし魔物が絶え間なく襲ってくること、小さな怪我などが蓄積して体力が奪われていること。これらによって、少しずつ押されております」
アガットの言葉を聞いて、私は唇を噛み締めた。魔物が絶え間なく襲ってくる以上、現状を打開する方法はないということだ。
援軍を待てば……そう考えたけど、そんなもの呼べていないはずだし、呼んでいたとしても来るまでには相当の時間がかかるはず。
転移で他の人たちも移動させられたのなら良かったけれど、移動できるのは私だけで、転移でこの場から逃れられるのは私一人だ。
私が転移で一度皇宮に戻って援軍を呼ぶという方法もあるけど、転移先に私の空間属性を知らない人がいた場合、能力が広く知られることになってしまう。伝達も同じことだ。
でも今は緊急事態だから、躊躇っている場合ではないのかもしれない。転移か伝達を使うべきかどうか。私一人では結論が出ない悩みに唇を噛み締めていると……
私の耳に、ノエルさんの声がかすかに届いた。
「リ……ヌ……ま、リリアーヌ様っ!」
ハッキリと声が聞こえたところで急いでそちらを振り返ると、ノエルさんが相当な勢いで飛んでくる。
「リリアーヌ様、力を貸してください!」
ガシッと肩を掴まれた勢いが相当なもので、私が瞳を見開いていると、ノエルさんが叫ぶように口を開いた。
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