第50話 聖獣からの贈り物

 何かを咥えるような仕草をしてまた顔を戻したラウフレイ様は、口に爪のようなものを咥えていた。


『これをリリアーヌに渡し忘れていたのだ。受け取ってくれるか?』


 そう言ってくいっと顔を動かされたので、私は促されるように両手を揃えて前に出す。すると私の手の上に、ラウフレイ様がその爪を乗せてくださった。


「これは、何の爪でしょうか……」

『我の爪だ』


 ということは、聖獣様の爪!? そ、それは凄く貴重なものではないかしら……


「なぜこちらを私に……それよりも、どこか怪我をされたのですか!?」

『いや、我の爪は定期的に生え変わるため、その爪は自然と落ちたものだ』

「そうなのですね……」


 それならば少し安心だけど、貴重なものであるということに変わりはないはずだ。僅かに光を帯びていてる見た目も、明らかに普通のものではないことを示している。


『その爪をリリアーヌが持っていれば、リリアーヌに危険が及んだ時に我が気づけるようになる。さらにリリアーヌのことを守護してくれるだろう。したがって、肌身離さず持っているように』


 ラウフレイ様に私の危機が伝わり、さらに守護してくださるもの。


 あまりにも強い効力に、どう反応して良いのか分からない。私がもらってしまって良いのかしら。でも断るのも悲しませてしまうだろうし……


 そう悩んでいると、私より先にフェルナン様が跪いて深く頭を下げた。


「聖獣様、とても素晴らしい贈り物をありがとうございます。リリアーヌの身の安全については、私も常々心配に思っておりました。これで安心できます」

『ああ、リリアーヌは何かがあった時に、自分を顧みず危険に飛び込みそうだからな。それに遠慮して助けも呼ばなそうだ』


 ラウフレイ様のそのお言葉に、フェルナン様は同意するように何度も頷いている。


「私はそんなこと……っ」


 ない、とは言えないかしら。


 そう思ってしまったら、言葉は途中で途切れた。


「ラウフレイ様、とても貴重な品をありがとうございます。大切に身につけさせていただきます」


 受け取った方が皆に喜んでもらえると思った私は、手のひらの上に載った爪を重く感じながら、感謝を込めて礼をした。


「すぐに信頼できる細工師に頼んでアクセサリーとしよう。聖獣様、こちらはこのままの形を保つ方が良いのでしょうか」

『いや、少し削ったり形を変えたりするのは問題ない。そうだな……この爪の半分も原型を留めていれば、問題なく効果は持続するだろう』

「かしこまりました。では余裕を持って整えるのは二割ほどとし、リリアーヌが常日頃身につけられるような形にさせていただきます」

『うむ、頼んだぞ』


 私が口を挟む暇もなく、ラウフレイ様の爪でアクセサリーを作ることが決定した。


 常日頃身につけるとなると、やはりネックレスが良いかしら。この爪は白に僅かに青色が混じり、少し光を放っている綺麗なものだから、これがペンダントトップになれば凄く綺麗だと思う。


 楽しみだわ……


 そんなことを考えていると、ラウフレイ様がフェルナン様の下に悠々と足を進めた。


『お主はフェルナンと言ったな。リリアーヌの隣にいるのに文句ない人材だ。お主にも我から一つ髭をやろう。髭を一本手に持ってくれるか?』


 ラウフレイ様にそう声をかけられたフェルナン様は、緊張を隠せない様子ながらも、ゆっくりと頷かれて手を伸ばした。

 そっと一本の髭に触れると、その髭はホロリと何の抵抗もなくラウフレイ様から落ちる。


 髭も爪と同様に、白に青が混じったとても美しい色合いだ。


「こちらをいただいても良いのでしょうか」

『うむ、それも肌身離さず持っておけ。爪ほど強力な力はないが、一度ぐらいならば命の危機から救われるだろう』

「命の危機から……!」


 信じられない効果にフェルナン様は驚きの声を上げ、私も驚きを隠せなかった。


 爪よりも効果が薄い髭で命の危機から救われるなんて、爪の効果である守護というのはどの程度の力なのかしら。


 本当に心強いけれど……この世界にそんなにも普通から外れた能力があるというのは、少し怖い。


「そちらの二人はノエルとリュシーだったな。お主らには渡せるものがないのだが、リリアーヌのことを頼む。我の大切な友人なのだ」

「も、もちろんです……!」

「かしこまりました……」


 ノエルさんとリュシーさんがビシッと背筋を伸ばしながら答えると、ラウフレイ様は満足されたように微笑んで、また私に視線を向けてくださった。


『ではリリアーヌ、我はそろそろ帰るとしよう。あまり長居をして、誰かに姿を見られたら大変だからな』

「は、はい。こちらの都合を理解してくださり、ありがとうございます。また近いうちにご連絡します」

『うむ、楽しみに待っておるぞ』


 最後にその言葉を残して、ラウフレイ様は消えてしまった。

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