第49話 ラウフレイ様が皇宮へ
フェルナン様の言葉があまりにも予想外で固まってしまったけれど、続けて告げられた言葉に私の頭は動き出した。
「リリアーヌの話では聖獣様も空間属性をお持ちとのことだったので、この場に来ていただくことも可能ではないかと思ったのたが」
確かにラウフレイ様は、空間属性をお持ちで帝都にも転移できると仰っていた。今までこちらに来ていただくことは考えなかったけれど……不敬ではないかしら。
いえ、逆に喜んでいただけるかもしれないわ。ラウフレイ様は人と話をすることが嫌いではない様子で、私のことを知らせに帝都へ向かわない理由は、怖がられるからというものだった。
それならば、人間と仲良くしたいと思ってくださっているかもしれない。
「お声掛けすることはできます。来ていただけるかは分かりませんが」
「ではリリアーヌが嫌でなければ、声を掛けてくれるか?できればリリアーヌを救ってくださったことへの感謝を、直接お伝えしたいと思っていたのだ。そしてこちらの都合で聖獣様の動きに制限をつけてしまうことを、真摯に詫びなければならない」
フェルナン様の真剣な表情に、私はすぐに頷いた。
「分かりました。ではお声がけをしてみます」
「頼んだ」
フェルナン様が頷いてくださり、ノエルさんとリュシーさんも少し緊張している様子ながらもしっかりと頷いてくれたので、私は深呼吸をしてから伝達を発動させた。
「ラウフレイ様、今はお時間大丈夫でしょうか」
その言葉から数秒後、すぐにラウフレイ様からの返答が来る。
『うむ、問題ないぞ。我は基本的に暇だからな。そろそろリリアーヌに声を掛けてみようかと思っていたところだ』
「そうだったのですね。嬉しいです」
『こちらには来ないのか?』
「そう考えていたのですが、一つお願いがありまして……もしお嫌でなければ、ラウフレイ様にこちらに来ていただくことは可能でしょうか。ラウフレイ様にお話ししたいことと、私の婚約者であるフェルナンが感謝の言葉を伝えたいと言っています」
そう伝えながらフェルナン様やノエルさん、リュシーさんの表情を見てみると、全員が一様にラウフレイ様のお声に意識を向けているようだった。
やはりラウフレイ様のお声は周囲に聞こえるのね……
『我がそちらへ行っても問題ないのか?』
「はい。私が現在いる場所ならば、ラウフレイ様のことを知っている者しかおりませんので」
『分かった。では向かおう』
「ありがとうございます」
それから数秒後、私たちのすぐ近くに光が生まれ、そこにラウフレイ様が姿を現した。深淵の森にいた時よりも一回りほど大きく感じるのは、ここが人間用に作られた狭い部屋の中だからかもしれない。
『リリアーヌ、また会えて嬉しいぞ』
「私もとても嬉しいです。正式なご連絡が遅くなり、申し訳ございません。こうして無事に帰ることができました」
『うむ、良かったな。しかし無事に帰れたとその日のうちに連絡をしてくれたのだから、全く問題はない』
椅子から立ち上がっていた私の下にラウフレイ様は近づいてきてくださり、顔を私の腕に擦り付けられた。
その懐かしい仕草に、思わず頬を緩めてしまう。
『隣にいる人間が、リリアーヌの大切な者か?』
ラウフレイ様がフェルナン様に視線を向けられたので、私はフェルナン様を手のひらで示しながら紹介する。
「はい。フェルナン・ユティスラート様です。そしてこちらが皇宮魔術師であるノエルさんとリュシーさんです。どちらの方も、ラウフレイ様のことを知っています」
『そうか、我は聖獣ラウフレイだ』
ラウフレイ様の挨拶に、三人は一斉に跪いた。代表して口を開いたのはフェルナン様だ。
「お会いできて光栄でございます。フェルナン・ユティスラートと申します。リリアーヌのことを救ってくださり、本当にありがとうございました」
『うむ、リリアーヌのことを救ったのは、その魔法の美しさに目を奪われたからだ。気まぐれなので気にする必要はない』
「それでも、とても感謝しております」
「ラウフレイ様、私からも改めて感謝を伝えさせてください。深淵の森ではありがとうございました」
正式な礼をしてもう一度感謝の言葉を伝えると、ラウフレイ様は一度だけ頷かれた。
『感謝を受け入れる。しかしもう良いのだ。それよりも話し相手になってくれた方が嬉しいぞ』
そんなラウフレイ様のお言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「ふふっ、かしこまりました」
『そうだ、一つお願いというのは何なのだ?』
ふと思い出したようにラウフレイ様に問いかけられ、私は緊張しつつ口を開く。
「お願いというのは……ラウフレイ様からのお声がけについてです。実は空間属性やラウフレイ様、そして聖樹様のことはできる限り秘匿事項としようと思っております。そこでラウフレイ様からのお声がけは、できれば控えていただけると……」
私がそこまでを告げたところで、ラウフレイ様が悲しげに眉を下げられた……ような気がした。
『やはり迷惑だろうか』
「ち、違います!」
誤解されていると気づき、私は慌てて両手を横に振る。
「空間属性を使った伝達は周囲にも声が聞こえてしまうため、ラウフレイ様からのお声が、情報を隠したい人たちにも聞こえてしまう恐れがあるのです」
そう説明を付け足すと、ライフレイ様は納得したように頷いてくださった。
理解していただけて良かった……
『そういうことか。確かに我の声が突然聞こえてしまえば、秘匿事項とはできないな』
「はい、大変申し訳ございません。その代わり今は大丈夫という時には、私の方からご連絡させていただきますので、それで問題ないでしょうか……」
『うむ、それで構わない。では我は、リリアーヌからの連絡を待っていることにしよう』
「頻繁に連絡させていただきますね」
『楽しみにしている』
そうして私からの話は終わりラウフレイ様と笑い合っていると、ラウフレイ様が何かを思い出したように『そうだ』と呟かれ、体を折り曲げるようにして顔を後ろに向けた。
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