第48話 検証の続きと重大な気づき

「まずは何から調べましょうか」


 ノエルさんのその言葉に、私は一番に調べたかったことを口にした。


「声が届く範囲から検証しても良いですか?」

「範囲というのは、声を届けられる距離ではなく、届いた声がどこまで聞こえるのかということでしょうか」


 リュシーさんの確認に、私はすぐに頷く。


「はい。声が聞かせたい相手にしか聞こえないのであれば、伝達の方は私の能力を知っている方たちには使用できるかなと思ったのです」


 これが普段使いできるのならば、フェルナン様に対して、私がどこにいるのかなどを定期的に報告することが可能になる。


 フェルナン様は私のことをいつも心配してくださっているから、それができると良いなと思ったのだ。


「ではそれから検証しましょう!」


 ノエルさんが宙に浮かびながら拳を突き上げ、私たちは検証のために移動をすることになった。


 私はテーブルセットがあるこの部屋にそのままいて、ノエルさんとリュシーさんが対角線上にある部屋に移る。

 フェルナン様は私を皇宮内で一人にするのがトラウマのようで、隣にそのままいてくださった。


「フェルナン様、ありがとうございます」

「いや、これは私の心が弱いせいなのだ」

「いいえ、私もまだ少し不安ですから、嬉しいです」


 フェルナン様が隣にいてくれることが嬉しくて思わず頬が緩むと、フェルナン様は私のことを抱きしめてくださった。


「あまり可愛い顔を見せないでくれ……すぐ抱きしめたくなってしまう」

「そ、それは……少し難しいかもしれません。フェルナン様と一緒にいると、嬉しくて」


 要望に応えられないことに真剣に悩みながらそう告げると、フェルナン様の腕にさらに力が入った。


「フェルナン様……?」

「いや、先ほどの言葉は忘れてくれ。リリアーヌは今のままで良い」


 ――私が我慢をすれば良いのだ。リリアーヌの可愛い顔を見るためならば、いくらでも耐えられる。


 私を抱きしめたまま動きを止めてしまったフェルナン様に困惑していると、別の部屋に移ったはずのノエルさんの声が聞こえてきた。


「騎士団長〜、イチャイチャするのは後にしてください! 今は検証をするんです!」


 フェルナン様の顔の近くまで飛んできたノエルさんの言葉に、フェルナン様が嫌そうに眉間に皺を寄せた。


「ノエル、邪魔をするな」

「邪魔をしてるのは騎士団長です! リリアーヌ様、騎士団長は放っておいて、さっそく伝達をお願いします」

「ふふっ、分かりました」


 苦笑しつつ頷くと、ノエルさんはまた別の部屋に向かった。そこで私はさっそく、伝達の魔法を使う。


 伝達の魔法は先に空間同士を繋ぎ合わせ、向こうの空間に声を吹き込むようにして使うものだ。魔力を練ってノエルさんの耳元と空間を繋ぎ合わせ、声を発した。


「ノエルさん、聞こえていますか?」


 小さめに声を発した瞬間、別の部屋にいるノエルさんの声がこちらの部屋まで響いてきた。


「……凄い! リリアーヌ様の声が!」

「聞こえたようですね」

「そうだな。しかし向こうからの声も聞こえるならば、より便利なのだが」


 フェルナン様のその言葉に頷いていると、ノエルさんがこちらの部屋に飛び込んできた。


「リリアーヌ様、しっかりと聞こえました!」

「良かったです。リュシーさんはどうでしたか?」

「私にも聞こえました」

「ということは、特定の人だけに聞こえるのではなく、その場に声が届くのですね」


 それだと伝達の方も普段使いできそうにないかしら。


 ……それよりも、重要な事実に気づいてしまったかもしれない。確か私はラウフレイ様に、時間など気にせずいつでも声をかけて欲しいと伝えたはずだ。


 伝達が周囲にも聞こえるのなら、ラウフレイ様から私に声掛けがあった場合、近くに他の人がいたら大変なことになってしまう可能性が……


 それに思い至ったところで、自分の顔が強張るのを感じた。そしてすぐに対策をしなければと、フェルナン様に視線を向ける。


「あ、あの、フェルナン様、ラウフレイ様に私から伝達した時以外では、声を届けるのを避けてほしいとお伝えした方が良いでしょうか」


 焦っていたので分かりづらい問いかけになってしまったけれど、フェルナン様はすぐに意図を正確に理解してくださり、顎に手を当てて真剣に悩まれた。


 ノエルさんとリュシーさんも、フェルナン様と同様に真剣な表情を浮かべ、まず口を開いたのはお二人だった。


「確かに先ほどの声量的に、周囲にいる人たちには問題なく聞こえてしまうでしょう」

「そうなったら声が聞こえた人に、空間属性や聖獣様のことを誤魔化すのは難しいですね〜」


 リュシーさんとノエルさんは、僅かに眉間に皺を寄せながらそう言った。そしてそんなお二人の言葉を聞き、フェルナン様が口を開く。


「リリアーヌが得た属性や聖獣様のことを秘匿するためには、聖獣様にお伝えする必要があるな。事情をしっかりと説明すれば、分かっていただけるだろうか」

「そうですね……ラウフレイ様はとてもお優しかったので大丈夫だと思います。今夜にでもラウフレイ様の下に向かってみます」


 私とたくさん話をしたいと仰られていたところに申し訳ないけれど、なんとか理解していただけるように言葉を尽くそう。そしてラウフレイ様から呼びかけができない以上、私の方から積極的に動かなければいけないわね。


 そんなことを考えていると、フェルナン様が真剣な声音で告げた。


「リリアーヌ、聖獣様をここにお呼びすることはできないか?」

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