第47話 空間属性の検証

 レオポルド様と今後のことについて話し合った日から数日後。私はまた皇宮に、フェルナン様と共に来ていた。

 今回通されたのは魔術師棟の最上階で、今日は私たち以外の立ち入りを禁止しているそうなので、最上階にある四つの部屋全てを使って空間属性の検証を行えるそうだ。


「騎士団長、リリアーヌ様、魔術師棟の最上階へようこそ!」


 階段を登って最上階のフロアに足を踏み入れたところで、宙に浮かぶノエルさんが楽しげな笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「おはようございます。随分と楽しそうですね」

「それはもう、新たな属性の検証ができるなんて、楽しみで夜しか寝られなくて……!」

「それは通常だ」


 フェルナン様の冷静なツッコミと軽い手刀に、ノエルさんは大袈裟に頭を押さえて涙目になる。


「もう騎士団長、痛いですよ!」

「それで、この最上階の惨状はどういうことだ?」


 四つの部屋から溢れ出すように廊下にも物が散乱している様子に、フェルナン様はギロリとノエルさんを睨んだ。


「えっと、その……魔法の研究には色々と資料が必要で、僕の部屋だけじゃ入り切らず、倉庫として使ってた最上階にとりあえず保管を……」

「絶対に無駄なものが多いだろう? 必要なもの以外処分しろ」

「ダ、ダメです! 絶対にダメ!」


 散乱している資料を守るように両手を広げたノエルさんの後ろに、リュシーさんが奥の部屋から顔を出した。


「お二人とも、お待ちしておりました。とても人を呼べるような状態ではなく、本当に申し訳ございません。しかしここが一番人目につかず……部屋の中は最低限片付けましたので、こちらにお入りください」


 リュシーさんの案内で部屋に入ると、少し物が多いかなという程度で、綺麗に整えられていた。


 寛げるようなソファーとテーブルも設置されていて、私たちはそこに腰掛ける。


「おおっ、凄いねリュシー!」


 部屋を一周、ぐるりと飛んで回ったノエルさんは、リュシーさんに服の襟を掴んで止められた。


「本当は、汚した本人である師長が片付けるんですよ?」


 凄みのある笑顔で告げられたノエルさんは、顔を引き攣らせながら何度も頷く。


「も、もちろん。そろそろ片付けようかなぁと思ってたんだ」


 それからノエルさんとリュシーさんもソファーに腰掛け、さっそく検証についての話をすることになった。


「まずリリアーヌ様はどこまで空間属性について理解しているのか、聞いてもいいですか? 聖獣様に教えてもらったんですよね!」

「はい。私がラウフレイ様から教えていただいたことは、空間属性には自身が移動する転移と、自分の声を届ける伝達という二種類があることです」


 その言葉を聞いて、ノエルさんは瞳をキラキラと輝かせながら身を乗り出した。


「二つも! その魔法について詳細が判明していることはありますか?」

「そうですね……他の人を連れての転移はできないこと、それから距離が変わっても消費する魔力量にほとんど差がないことでしょうか」


 ラウフレイ様に教えていただいたことを思い出しながら口にすると、ノエルさんだけでなくリュシーさんとフェルナン様も驚いたように身を乗り出す。


「距離が変わってもというのは本当か!?」

「では、大陸の端までも転移できるということですか?」

「あっ、もちろん私が知っている場所でなければいけません。知っている場所か、知っている人の近くに転移ができるんです」


 慌てて付け足したけれど、フェルナン様は難しい表情で考え込まれてしまった。


「ということは、リリアーヌが知っている場所か知っている人がいる場所ならば、たとえ世界で一番遠い場所へも転移できるのだな」

「理論上は、そうなります」


 改めて考えると、これって凄いことね……


 空間属性を賜ったときには、とにかく帰らないとって気持ちが強くて深く考えていなかったけれど、こんな力をいただいて良かったのかしら。


 そう不安に思っていると、隣に座るフェルナン様が私の手を取ってくださった。


「すまない、不安にさせたな」

「いえ、大丈夫です。……しかし改めて考えると、自分が使えるとは信じられない力ですね」


 自分の両手を何気なく見つめながら呟くと、ノエルさんが笑顔で声を掛けてくれた。


「未知の部分があるから不安になるんです。僕たちとどんどん解明していきましょう!」


 その声掛けが嬉しくて頬を緩めると、フェルナン様が意外そうな様子でノエルさんに声を掛けた。


「お前もたまには良いことを言うのだな」

「たまにはって何ですか。いつもです!」

「いつもではないです」


 リュシーさんのツッコミに、ノエルさんは頬を僅かに膨らませて不満げな表情を浮かべる。その顔を見ていたら、私は思わず笑ってしまった。


「ふふっ」

「あっ、リリアーヌ様、笑いましたね!?」

「すみません、楽しくて」


 そうして雰囲気が緩んだところで、さっそく検証する事柄を決めることになった。

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