第17話 リリアーヌの魔法
髪から手を離したフェルナン様は、私に対してとても優しくて綺麗な笑みを向けてくださった。
「リリアーヌは自覚していないだろうが、そのような言動全てに惚れたのだ。今の話を聞いて、まず私の心配をしてくれる心優しさ、そして私の容姿や身分に媚びることはないその姿勢、謙虚に努力ができるところ、そして魔法の才、さらにはとても可愛らしい容姿。あの湖で出会った時、それら全てを含めて一目惚れをした」
突然フェルナン様から甘い言葉が発されて、さらにそれを皇族の皆様に聞かれているとあって、私は一瞬にして頬を真っ赤に染めてしまった。
「う、あ、あの……ありがとう、ございます」
ダメだわ、恥ずかしくて綺麗な笑顔を保てない。
両手で頬を抑えて俯くと、私の手の上からフェルナン様が手を添えられて、私の顔を上向かせた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫では、ないみたいです」
「お義姉様、とてもお可愛らしいのですね!」
私たち以外に言葉を発さず、居た堪れない雰囲気を感じていると、マリエット様が声を発して空気を和ませてくださった。
マリエット様、本当にありがとうございます。
「本当ね。これはフェルナンが好きになるのも分かるわ」
「な、ヴィクトワール!?」
ヴィクトワール様がポツリと呟いた言葉に、レオポルド様が衝撃を受けたように固まった。そんなお二人の様子を見て、エルキュール様は苦笑を浮かべている。
本当に素敵なご家族だわ……そう思ったら恥ずかしさも消え、自然と笑えるようになっていた。
「そうだ、リリアーヌの魔法の才はかなりのものだと聞いている。ここで見せてもらうことはできるのだろうか?」
エルキュール様が話題を変えるように問いかけてくださったので、その質問に答えるため居住まいを正した。
「もちろんです。魔法を使っても構わないでしょうか」
「ああ、良いぞ」
「ありがとうございます。では――」
まずはフェルナン様が褒めてくださった、光の蝶を作り出した。部屋の中を数匹の蝶が、ゆったりと光を放ちながら飛び回る。
その様子を見て、皆様は視線を上げて瞳を見開いた。
「これは、綺麗だな」
「素敵な光景だわ……」
「本当に光魔法でこのようなことができるのだな……どのように発動しているのだ?」
「お義姉様、素晴らしいです……!」
大絶賛をされて、どう反応して良いのか分からなくなる。
「こちらの魔法は、光魔法で治癒をする際に発生する光のみを抽出し、蝶の形に変形させております。この光に高い治癒効果はございませんが、フェルナン様は少しずつ疲れが癒えていくと仰ってくださいました」
その説明をすると、まず私に視線を戻したのはエルキュール様だ。
「この魔法は、魔力をどのように現象へと変換させているのだ? 基本的にどの魔法が使えるのかは魔力属性によって決まるはずだ。火魔法ならば魔力を火にしか変換できないように、光魔法は治癒にしか変換できないはずだが」
「はい。その原則は基本的に崩れておりません。しかし発生させる現象は細分化できるということに、今まで魔法を練習してきて気がつきました」
どうにか他の人よりも優れた部分をと思い、元々得意だった光魔法の練習には力を入れたのだ。その過程で結果的に治癒という効果が発生する光魔法は、いくつもの細分化された効果が合わさったものであると分かった。
そのうちの一つが光で、他にも痛みを緩和させたり、悪いものを取り除いたり、自然治癒を促進させたり、いくつもの抽出できる効果がある。
「魔法は細分化できるか……面白いな」
「リリアーヌ、その話は私も初めて聞いた」
「……ふふっ、話しておりませんでしたか?」
少し拗ねた様子で私の顔を覗き込むフェルナン様が可愛らしく、思わず笑みが溢れた。
「聞いていない」
「フェルナン、嫉妬をしすぎると嫌われるぞ。それよりもリリアーヌ、その細分化できるというのは他の属性でも同じだと思うか?」
エルキュール様はフェルナン様を軽くあしらうと、私に対して身を乗り出してくる。エルキュール様は魔法がお好きなのね。
フェルナン様は……嫌われるという言葉にショックを受けておられるようだわ。
「他の方に試してもらったことがありませんので、正確なところは分かりませんが、可能性はあると思います」
「そうか、それは研究のしがいがあるな。……この事実を魔法研究所や皇宮魔術師たちに伝えても構わないだろうか。いや、リリアーヌに皇宮魔術師たちへ魔法を教えてもらうというのはどうだ?」
エルキュール様の突然の提案に私が驚いていると、レオポルド様が同意するように頷かれた。
「それはありだな。魔術師たちの士気も上がるだろう。リリアーヌ嬢、どうだろうか」
「……私にそのような重大な役目を果たせるでしょうか」
興味を惹かれる誘いだったけれどすぐに頷けるほど自分の魔法に自信がなく、そんな言葉を発してしまう。すると隣に座るフェルナン様が、私の背中を押してくださった。
「リリアーヌ、嫌でないのならばやってみると良い。リリアーヌの魔法は皆の参考になるはずだ」
「――フェルナン様、ありがとうございます。そのお役目、引き受けさせていただきたいです」
フェルナン様に感謝を伝えてから背筋を伸ばしてそう告げると、エルキュール様たちは同じように笑みを浮かべてくれた。
「分かった。では皇宮魔術師棟に遣いを出しておこう」
「いや、もしリリアーヌ嬢が疲れていなければ、このあと向かった方が良い。今日は魔術師長がいるからな」
エルキュール様の言葉に、レオポルド様がそう補足をしてくださる。
「私は問題ありませんが……」
魔術師長様は、あまり皇宮にいらっしゃらない方なのかしら。普通ならばいつも魔術師棟にいるのが一般的だけれど。
「そういえば、ちょうど帰ってきていたのでしたね。ではリリアーヌ、この後フェルナンと一緒で構わないので向かってくれるか?」
「かしこまりました」
そうして私とフェルナン様は皇族の方々との顔合わせを終え、予定にはなかった魔術師棟へ向かうことになった。
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