第10話 談笑タイム

 陛下の開始宣言によって会場中に拍手が湧き起こり、それが収まった頃に陛下はフェルナン様に視線を向けた。


「ユティスラート公爵、此度は我が国へお越しくださり心より感謝申し上げる。ささやかながら歓迎のパーティーを開いたゆえ、楽しんでもらえたら嬉しい」


 その言葉を聞いたフェルナン様は、とても綺麗な笑みを浮かべて礼をした。


「本日は私のために盛大なパーティーを開催してくださり、感謝申し上げます」


 そして私の腰をそっと抱くと、会場に集まる皆さんの方に視線を向けた。


「今回私がこちらへ参った目的は、リリアーヌ嬢を迎えにくるためである。――フェルナン・ユティスラートは、リリアーヌ・フェーヴルを婚約者として迎え入れ、ゆくゆくは妻とすることをここに宣言する!」


 まさかこの場でそんな宣言をするとは思わず、私はかなり動揺してしまった。しかし何とかその動揺を内に納め、綺麗な笑みを浮かべる。

 そのまま会場中を見回すと、貴族令嬢はほとんどが私たちに視線を向けていた。


 嫉妬の感情を露わにしている人もいれば、呆然としている人も、何を企んでいるのか瞳をギラギラと輝かせている人もいる。


「リリアーヌ、私の婚約者となってくれるだろうか?」

「はい。喜んで」


 改めて皆の前で問いかけてくれたフェルナン様に心からの笑顔で答えると、フェルナン様は私のことをふんわりと抱きしめてくれた。


 それから王族の皆様と一緒に階下へと降りると、私たちはすぐにたくさんの貴族に囲まれる。いつもは遠巻きに蔑みの視線を向けられるだけだったので、こんなにも好意的な視線を向けられると戸惑ってしまう。


 その視線はほとんど全てが、フェルナン様に対してのものだけれど……


「ユティスラート公爵様、ペルティエ王国へようこそお越しくださいました」


 集まって来た貴族たち、特に貴族令嬢たちの中で、まず声をかけて来たのは公爵家のご令嬢だった。王家と遠縁であるこの方は、王族の次に身分が高くとても美しいと有名だ。


 今日は相当気合が入っているのか、いつも以上に豪華に着飾っている。

 やはりこうして美しい令嬢を目の前にすると、フェルナン様に褒めていただいたことで芽生えた自信が萎れてしまうわ……だって、どう頑張っても勝てないもの。


「歓迎の言葉をありがとう」


 私がつい自分の容姿と比較してしまい暗い気持ちになっていると、フェルナン様がにこやかに言葉を返した。


「お会いできて、とても嬉しく思っております。もしよろしければ、我が国の特産品をご紹介させていただいても良いでしょうか? あちらにまとめてありますの」


 そう言ってフェルナン様の腕にそっと綺麗な手が乗せられるのを見て、胸がギュッと苦しくなるのを感じた。でもフェルナン様が望まれれば、私が引き止めることはできない。


「フェルナン様……」

「申し訳ないが、私はリリアーヌの婚約者であるので、他の女性をエスコートすることはできない。リリアーヌを悲しませたくはないのだ」


 私のことは気にせずにと伝えようとした瞬間、フェルナン様が発された言葉に思わず瞳を見開いてしまった。

 それは周囲にいた皆様も同じだったようで、誰もが驚きの表情を浮かべている。


「な、なぜでしょうか。醜い者よりも私のように美しい方があなたに相応しく……」

「そうか、美しい方が私に相応しいというのなら、あなたよりもリリアーヌの方が相応しい。他人を蔑むあなたよりも、温かく優しいリリアーヌの方が美しいからな」

「なっ……」


 フェルナン様の言葉に、誰も言葉が出てこないようだ。私も感動と嬉しさが入り混じり、浮かび上がってくる涙を抑えるのに精一杯で何も言葉を発せない。


「リリアーヌ、向こうへ行こう」

「……は、はいっ」


 少しだけ涙声になってしまうと、フェルナン様はそんな私に優しい笑みを向けてくれた。


「大丈夫か? 疲れたなら休憩しよう」

「いえ、……大丈夫です」


 ここまで私のことを評価してくれるフェルナン様に相応しくあろうと、顔を上げて微笑みを浮かべた。


「私がフェルナン様を皆様へご紹介いたします。我が国の特産品についても説明させていただきますね」

「ありがとう。どんなものがあるのか楽しみだ」


 それからは公爵家のご令嬢がすげなく断られたことで、私たちに口を出そうとする人は現れず、パーティーはとても楽しく穏やかに進んでいった。


 このまま大きな問題は起きずにパーティーは終わりそうだ。そう思って安心し始めたその矢先……一人の人物が私たちの下へ一直線に向かってきた。


 ――アメリーだ。

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