特別編 週間ランキング その①
「はあはあはあ……。ようやく着いたぜ……」
擦り切れた外套を泥で濡らし、みすばらしい姿の冒険者の一団が、ある食堂の前にたどり着いた。
ドアを開けると、明るい照明の元、スープの香ばしい香りが一気に広がった。
一瞬、ここがダンジョンの中だということを忘れてしまいそうになる。
逆に自分たちが昨日、ロックバードに追い掛け回されて半死半生だったという事実の方が嘘なのか。店内は、明るい照明で照らされ、多くの冒険者や家族連れの観光客であふれかえっている。
「いらっしゃいまし~♪」
「お兄ちゃん新規4名様、ご来店だよ!」
ハンゾたち4人がほうほうの体でたどり着いたのは『碧の洞窟』の十階層に居を構える『洞窟亭』。ギルド公認の王都一の有名店である。
名物のスープパスタの味は、王都の最高級店以上にもかかわらず、値段は市場の屋台並みというから驚きだ。しかも水は飲み放題で、格安で持ち帰り用を用意してくれるという。常識的に考えてあり得ない。
なんでも店主が伝説の『シャーマン』であり、出される料理はすべてシャーマンが異世界から召喚された品だとか。
「昨日から何も食っていない。何でもいいからとにかく何か食わせてくれないか」
「はい! ウチでは今のところ、四名様限定のサービスメニューでしたら『とんこつ×しょう油』が人気ランキング1位なのですが、いかがいたしましょうか」
やけに短いスカートのメイド服を着た店員が指さす先に、大きな貼り紙があった。
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【フレンドラーメン 総合の週間ランキング】
1位 とんこつ×しょう油
2位 みそ×塩
3位 しょう油×塩
4位 塩×とんこつ
5位 しょう油×とんこつ
6位 しょう油×みそ
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「『とんこつ×しょう油』と『しょう油×とんこつ』って何が違うんだ?」
「このサービスメニューでは、四名様に対して大鍋に五人前の袋ラーメンを提供させていただいてます。ラーメンをブレンドした際、多く使われている方が、最初に来るのです。例えば、とんこつ3人前と、しょう油2人前でしたら『とんこつ×しょう油』ですし、しょう油がとんこつより多ければ『しょう油×とんこつ』になります」
大陸では珍しい黒髪でショートカットの店員は、にっこりと笑顔を浮かべながら、すらすらと応えてくれた。
『袋ラーメン』なるスープパスタは、『しょう油』『みそ』『塩』『とんこつ』の四種類。大鍋で供されるブレンドラーメンは、それらを自由にアレンジできるらしい。
「「「「……ごくり」」」」
この、香しいスープ漂う店内で、美味しそうに料理を味わう人たちの中で、こんな説明を聞かされてはたまらない。
何しろこっちは氷の12階層で、半死半生でここまで逃げ帰ってきたのだから。
◆
ハンゾは、かつて王国の第一騎士団に所属していた。
あの頃、王都で第一騎士団と言えば、それだけで誰もが一目置き、多少の無理も通っていたように思う。
例えば、人込みでごった返す市場を歩いても、群衆がハンゾたちは身に着けた第一騎士団の紋章を目にするや、たちまちさーっと群衆は自ら両脇によって、ハンゾたちが気分よく通行できるように気をつかってくれた。
酒場では持ち合わせがないことを店主に告げると、タダで飲み食いできた。
そういえば、お気に入りの娼館もずいぶんツケがたまっているだろうに、店主がいつももみ手で歓迎してくれたよな。
ところが、去年行われた軍部の大リストラにより、それまでの騎士団への予算が激減し、俺たちの第一騎士団は消滅。それまでの騎士団のかわりに、新たに雇い入れた白狼族が王都の治安と軍の中枢を握ることになった。
そして俺たち下っ端は解雇された訳だが……。
最初は安易に考えていた。下っ端とはいえ元第一騎士団所属の俺に対し、王都の民衆は、皆へいこらしていた訳だから。
ところが、いざ俺が再就職しようとしても、全くうまくいかない。
どうやら俺のプライドの源泉だった第一騎士団自体が王都の民衆から
ハンゾは仕方なく、かつてバカにしていた冒険者になるしかなくかった。
落ちぶれていた元第一騎士団の連中と新たにパーティーを組んで、『
すっかり観光地化された十階層から、下に降りたのはいいものの、十二階層でロックバードに遭遇して為すすべなく追いかけまわされた挙句、こうして今、半死半生で『洞窟亭』にたどりついたのだった。
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