幕間2 そばめし

「ふう~。サトウ様、今日も美味しかったです♪」


「試しにソフト麺を仕入れてみたんだ。三人分ならウチのホットプレートでもなんとかなったな」


「サトウ様、いつもありがとうございます~」


 夕食後、満足気に顔を見合わせて微笑む俺とクリスの前で、微妙な顔の沙樹。俺の自信作だったのだが、いまいちだったのだろうか。


「あの、お兄ちゃん。毎日麺類じゃ流石に飽きがくるんじゃないかと思って……」


「だから、今日はお好み焼きにしただろう。……広島焼だけど」


「あ、そうじゃなくて、お客さんの話。私たちはともかく、毎日来てくれるお客さんは袋ラーメンの味変くらいしか無いよね」


「でもなあ……。あれだけの量をお客さんに出すってことを考えると、スキル持ってる麺料理以外は無理だぞ」


「う~ん。今日の広島焼きは美味しかったんだけど、メニューにするには調理に時間がかかりすぎるよね。ウチにはホットプレートしかないし」


「……確かにそうだよな。クリスはどう思う?」


「麺だけですと飽きるかも知れませんが、それに何かを足せばいいかも知れません~」


「なるほどな!」



 ◆



「実は新メニューを考えているところなんですが、いかがですか」


 翌日、クリスの一言にひらめいた俺は、ものは試しとばかりに、常連の冒険者パーティーのお客さんに話を持ち掛けてみた。


「俺たちは美味けりゃ何でもいいぜ。値段も安けりゃありがたいけどな」


「大丈夫ですよ。料金は袋ラーメンと同じですからご心配なく。味の方も保証しますよ」


「シャーマン様がそこまで言うんなら、食うしかねえな。一度どんなものか試してみようぜ」


「では、ちょっとすいません。熱いので鉄板には触れないようにお願いします」



 テーブルの上にホットプレートを用意すると、冒険者の皆さんはざわつきだした。


「何だ何だ? こんなの初めて見るぞ」


「最新の魔道具か?」



 ちなみに、これはひとり暮らしを始めたとき、彼女が出来たら部屋に招いて二人で使いたいと思って購入したモノ。結局一度も使われることは無かったが、こうして日の目を見れて本望である。(泣)



「これで一体、何を食わせてくれるんだ?」


「今からこの場で調理します。出来立てをお召し上がりください」


「おお! なかなかいい趣向だな」



 興味津々の冒険者の皆さんの視線を一身に受け、俺は初めてセーフティースペースで料理することにした。



”ジューッ”


 ホットプレートに牛脂を入れると、プチプチと油が弾けて国産牛特有の甘い香りが広がる。


 肉と野菜を入れて炒め、塩コショウを軽く振るとレンジで温めておいたソフト麺を焼く。


 この状態で味付けして薬味を入れるとそれなりに美味しい焼きそばになるのだが、どうやらこの世界では『焼きそば』という料理は無いらしい。


 天かすと紅ショウガ、ネギを入れ、麺と具材を混ぜ合わせた後、パックご飯を投入。


 隠し味に焼肉のたれを少々入れた後に、ウスター、とんかつ、お好みソースを回しかけると、何とも香ばしい香りがはじける様に広がった。



「うおおっ!」


「この香りたまらん!」



 最後に鰹節と青のりを散らして完成。我ながら満足な出来である。


「さあ、どうぞお召し上がりください」


「…………っ」


「ふーっ、はふはふ」


「うまっ、あつっ、うまっ!」



 我先に食べ始める冒険者たち。


 このそばめしは神戸に出張したときに初めて食べたもの。これに『ぼっかけ』(スジ肉に細かく刻んだこんにゃく等を煮込んだもの)を入れると更においしいのだが、そこは勘弁していただきたい。



「「「お替りを頼む!」」」



 ◆



 結局今日は、一組のお客さんに食べてもらったのだが、これを定番メニューとして売り出すのは難しそう。手間がかかる上、ホットプレートは我が家に一台しかないし。


「ホットプレートなら私の部屋に新品があるけど……?」


 友人の結婚式の引き出物のカタログから選んだのだが、大きすぎたので『メル仮』で売ろうと思っていたという。


「サトウ様、私も『そばめし』を食べてみたいのですが……」


「これからお店に出すかどうかはともかく、従業員も試食しないとね。せっかくだから、焼きそばも食べたいな」


「サトウ様の故郷のお料理なら、何でも食べたいです」


「よし、俺に任せろ!」





「ふむはむ……。サトウ様、美味しいです~」


「お兄ちゃんやるじゃん!」


「い、いや~。それほどでも♪」



 この日、俺は久しぶりにプレミアムなビールを片手に、懐かしい味を堪能したのだった。

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