第16話 とある十二月の日曜日 前編
いくらなんでもあたしにも遠慮というものがあるので、ほとんど毎日お弁当を作ってきてくれようか、という勢いの二人の申し出は固くかたぁく辞退はしてる。してるんだけど。
「佳那妥?あと何買えばいいんだっけ」
「えーと、本体だけだと一人か二人でしか遊べないので、もう一個コントローラーを買わないと。でもあたしの分持っていけばいいかな。あ、あと二人の部屋のテレビってHDMI端子付いてるか分かります?」
「え、えいちでぃー……なに?」
「もー、お姉ちゃんさあ、佳那妥に直接見てもらった方が早くない?」
「そんなこと言っても昨日だっていろいろ家で教えてもらったじゃない。二日続けてなんて迷惑でしょ」
「いーじゃん別に。佳那妥はいや?」
「そりゃお邪魔するのはいーですけど、二人きりになりたいとかそーいうのは?」
「そんなの佳那妥が気にすることじゃないって。じゃあ家に電話するねー。お母さんに確認してもらうから」
家電量販店の一角で自分の家に早速莉羽は電話をかけ始めていた。なんか自分と卯実の部屋に置いてあるテレビのことをお母さんに確かめてもらっているっぽい。まあここ数年以内に買ったテレビなら大体HDMI端子くらい付いていると思うけど、なんか特殊なテレビだったりすると分かんないしなあ、ってことで、莉羽の電話が終わるのをゲームコーナーの隅っこで、待つ。
「ふうっ。ゲーム機って機械とゲームソフト買うだけで済むと思ってたんだけれど、意外に買うもの多いのね」
「まー用途とか使い方によって必要だったり必要なかったりするもの多いみたいなんで。にしてもどうして突然ゲームやりたいなんて?」
そう。十二月に入ってすぐのこと。
土曜日の午後に品槻家に遊びにいったあたしは、なんか二人の部屋(子ども部屋にしてはえらい広かった)にテレビが置いてあって、ゲームとかしないのかと気になったのだ。
で、普段あたしがゲームやってるとかどんなゲームやるのかそれは楽しいのかとかいろいろ根掘り葉掘り訊かれて、どうせなら自分でやった方がよくない?お姉ちゃんと一緒にできるしそうねいい考えね、っていうあたし得な展開になり、早速翌日にこうしてゲーム機を買いに来た、という次第なのである。
安いものじゃないだろーにどこからそんなお金が出るんだ、って話については、とにかく今どきの女子高生にしては二人とも無駄使いというものをしないのでそこそこ貯金はあり、あと家庭内のクリプレの前渡し、というテクを駆使した結果、あたしをアドバイザーとして買い物に来た、ということである。
ちなみに往き来は二人のお父さんに車で運んでもらった。お金を出してもらった上に送り迎えもしていただき、さらに娘さんのちょっとアレな真似を後押ししている不埒な同級生にまで優しく接していただいて大変恐縮です……いやマジで。
「うーん……佳那妥がゲームのこと話してるのがすごく楽しそうだったから、かな?」
「んなあたしの言うことで、少なくないお金使うよーなことしなくても……」
「そんなことないでしょ。…と、友だちが楽しそうなら一緒に楽しみたいなあ、って思うのは当然のことだと思うわ」
「そんなもんですかねー……」
まあ品槻のお父さんお母さんも、二人がそういうものに興味持ったのが意外だったみたいで、特に叱られたりもしなかったんだけど。
「お待たせー。ちゃんとえっちでぃー……なんとか?っていうの付いてるって」
「おばさんそういうのよく分かりますね。女の人だと詳しくない人多いのに」
「うん、うちのお母さんエンジニアだったから、そういうの下手したらお父さんより詳しいわよ」
「ふぇー」
あと確か、無線の設定とかもあったんだけれどそれもお願いした方がいいのかなあ。いやこれでも当方今どきの女子高生。Wi-Fiの設定くらい出来るもんね。
そして、追加で買うケーブルを買い物カゴの中に放りこむ。ゲームソフトは何本も買えるほど予算が無かったので、あたしお薦めのレースゲームと、複数人で遊べる定番の格闘ゲームみたいなのの二本を。意外に二人とも攻撃的だった。
「よっし、これで全部か。じゃあレジ行ってくるね。お姉ちゃんはお父さん呼んできてー。で、佳那妥はこっち。荷物持ち手伝って」
「なんで莉羽が仕切ってるのよ、もう……」
ぶつぶつ言いながらも卯実はエスカレーターの方に歩いてく。気のせいかなあ。最近卯実と莉羽が仲の良い恋人、ってだけじゃなくてどこにでもいる普通の姉妹に見えなくもなくて。良いことか悪いことかはよく分からない。あたしとしてはこれだけ一緒にいる時間が増えても間近で百合ドリームを満喫する時間は増えなくて、物足りなさを覚えるけれど。
でもその分、ふとした瞬間に二人が見せる仕草とかあたしにしか分からない「きゅぅん……」ってなる一瞬が、ほんっとたまんないのよね。いつも良い仕事していただいてます。昨日だってゲーム機を置くためのスペース作るので二人の部屋の共用スペース整理してたらベタなタイミングで二人の手が重なっちゃってそんで卯実「あっ……」莉羽「おねえちゃ……」……ってな感じで見つめ合って時間が止まってしまってなキミらあたしがいること忘れてない?ていうか学校で濃厚なのかますくらい突っ走っちゃってるのに今さらそんなピュア仕草で楽しませてくれるとかサービス満天過ぎますねなんて野暮ぶっこむワケにもいかないから血がこぼれてきそうな鼻押さえながら一人で萌え転がっていたとかな?とかな?
「はい、佳那妥これお願い」
「あっ、はい」
妄想やめ。
お会計終わった莉羽が、紙袋二つ分の荷物のうち一つをあたしに渡してきたので、受け取る。普通なら紙袋一つにまとめるられる量なんだろうけど、わざわざ二つに分けて入れてくれる店員さんの配慮に感謝。
「じゃ、駐車場まで行こっか」
「ですね」
この辺りでは一番おっきな量販店なので、レジからエスカレーター降りて駐車場まで、というのも結構遠くて、並んで歩くにしてもそこそこ会話をする間というのは普通にある。
まあ、あるんだけど。
「莉羽、も少し早く歩きません?」
先に行った卯実がお父さんと待ってると思うんだけど。
気がつくと莉羽の歩く速度は下がって、なんかあたしの斜め後ろに位置するよーになっている。その度に莉羽はあたしを呼び止めて「こっちこい」と小さく、荷物を持ってない方の手で可愛く手招きする。まあそんなトコはあたしから見ても愛らしい仔猫のよーなので、はいはい、と言いながら一度は横に並ぶんだけど、また十数秒経つと同じことになる。
そんなことを三度ほどやったらいい加減飽きるんじゃないかなあ、とも思えるのに、やっぱり莉羽はそんな他愛の無いことが楽しくてしかたないみたいに、少し照れくさそうな微笑みを小顔に浮かべている。あーもーどこまでかぁいいのこの子はもー……ひゃはぁっ?!
「もー、佳那妥も先に行ってしまわないのっ。これなら並んで歩けるでしょ?」
「お、おふぅ………はっ…ひゃい……」
にゃんじゃそりゃぁ……荷物を持ってない方の、あたしの手を包むようなすべすべしてほんのちょっとひんやりしたかんかくぅ……あはぁ、莉羽があたしのてをにぎってるぅ……。
「あは、佳那妥へんなのー」
突然のことに忘我混乱の極みに陥ったあたしの反応が面白いのか、莉羽は握った手を少し大きく振りながら、やっぱりゆっくり歩き出す。後から追い抜いていく家族連れや、すれ違う小学生の友だち連れみたいな人たちが、なんだか生暖かい視線を送ってくるような気がするケド……ま、いいか。莉羽が楽しそうなんだし。
しばらくするとあたしは冷静さを取り戻し(いい加減この姉妹のリア充的距離感にも慣れつつあるのだ)、やっぱりのんびりゆっくり歩く莉羽の歩みに合わせながら、この後の予定を考えてみる。
ええと、買い物につき合うだけのつもりだったけど、どーもこのまま品槻家に連れて行かれてゲーム機の設定もしないといけないっぽい。で、ゲーム機なんだから使えるようにしたら多分遊ぶことになるだろーし、時間的にはもうすぐお昼ご飯だからその辺どうするんだろう?ゲームしながら食べられるものでも買って帰った方がいいのかな?………って、そういえば。
「……莉羽と卯実って、部屋一緒なんですよね?」
「え?どしたの突然。まあ見ての通りだけど。それがどうかした?」
「えーと、夜寝るときも同じ部屋なんですよね」
「うん。もちろん」
「…………気になったりしないのかなぁ、って。大丈夫なんです?」
なんかヤベぇこと聞いてるんじゃねえか、ってことに気付いて、俄に声を潜めるあたし。なもんだからますます質問の内容が怪しいっぽくなっちゃって、その意に気付いた莉羽も当然顔を赤くして、握った手に手汗なんかも感じるようになっちゃったりして。あ、なんかこの照れて目を逸らそうとする莉羽も凄まじく可愛いかも、とドSな感情がむくりと湧き起こるあたしの胸中。うん、幸い手は握ったままだから莉羽も逃げ出すことが出来ない。ふふふ、大好きなお姉ちゃんと一緒の部屋で悶々として眠れないその思いの丈を、あたしにぶっちゃけておしまいなさいな。
「う、うん……その、ね?……ときどき……ほんっと、時々なんだけど……」
うんうん。
「……お姉ちゃんの寝息が気になって眠れなくなる時とか……ええっと、わたし自分で、ね……?」
う、うんうん。
「あと、お姉ちゃんも同じ気分の時があるみたいで……そゆときって、二人で一緒に……」
……うっ、うん。
「同じお布団に入って……抱き合いながらじーっとしてると……その、落ち着く時もあるし、逆に落ち着かなくなる時もあって……」
…………落ち着かなくなった時って……。
「………なっ、何言わせるのよ佳那妥っ!恥ずかしいじゃないバカっ!!」
………そこまで言わせるつもりはなかったんですが。我ながらやばいもの掘り出してしまったかもしんない。あああっ、愛好家としては至悦の極みと言えるかもしれないのに、やっぱり友だち相手にこーいうのは程々にしないと……ナマモノは取扱い注意、昔の人は正しかった。
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