第十五話 決戦!! 魔族タナトスネイル!!
話し合いが終わってなんとなく緩んでいた空気は一掃され、触れば切れそうな位に張り詰めた気が辺りを支配している。
お互いにやる気十分ですって感じだが、戦う前はこうでなくっちゃな。
「それじゃあ、お互いの誤解も解けたみたいだし戦おうか」
『こちらに異存はない。が、我の無知と無礼を詫び、そちらからの攻撃を一度だけ受けてやろう』
「いいのか? 全力で叩き込むぞ?」
『構わない』
大サービスじゃねぇか。
元々作戦で一番成功率が低いと思われたのは、俺が最初に放つ強力な拘束技だ。
それを受けてくれるとは、出血大サービスどころの話じゃないぜ。
……アイコンタクトは終わったし、それじゃあ遠慮なく全力で仕掛けさせてもらうぞ!!
「くらえ!!
『なっ!! この技は……』
足を貫通させた特殊な槍で、目標を地面に縫い付ける凶悪な拘束技。
地面に刺さった瞬間に槍の先から固定用のスパイクが出るからそう簡単には抜けないし、そこから動く事も出来ない。
この状態になると、こちらの攻撃担当は生き生きしてくるぜ。
「よくやった!! 一撃必殺、ガントレットブレイク!!」
「こっちも喰らいな!! ホーリーメイス!!」
ガントレットブレイクは特殊な金属で作られたガントレットに魔力を充填し、恐ろしい位に威力を増した打撃を敵に叩きつける技だ。
モーションが大きいから当たりにくいのが難点なんだけど、ここまで拘束してある状態だと確実に当たる。
ホーリーメイスはメイスに聖属性を付与してぶん殴る技で、そこまで隙は大きくないけど大振りなんでやはり当たりにくいのが難点だ。
その二つの技を左右から仕掛けられたにも関わらず、魔族タナトスネイルは余裕で二つの技を受け止め、即座に反撃までしてみせた。っていうか、片手で受け止められる技じゃないんだけどな……。どっちも並の魔物だったら一撃な技だぞ!!
こいつはやはり相当に強いよな……。
俺の奥の手は流石に武器の切り替えや準備不足で使えなかったし、この状態で放ってもおそらく十分な威力にならないだろう。
って、マジで勝てるのか?
【このまま攻撃を続けて、魔族の生命力を削りきるしかありませんね】
「まだです!! ホーリーフェアリー!!」
『クッ……。中級光属性魔法!! これほどの魔法を使える者がいるのか』
「魔族があれを喰らって、あの程度で済むのかよ……」
「まだだ!! 拘束出来ているうちがだけがチャンスなんだ!! 今のうちに出来る限りの攻撃を叩き込むぞ!!」
俺も本気戦闘用の槍に持ち替えて、超高速で無数の斬撃を打ち込む。
ブレスのバフに加えて俺自身使える身体強化魔法は全部使っているから、常人にはほとんど見えない速度での斬撃だ!!
「凄い……」
「アレがあいつの本気……。凄いな、少しずつダメージを与えてんじゃないか」
「あ、右手の爪を何本か破壊したぞ。本当に凄いな、俺のこれですらダメ―ジが入らなかったのに」
ディアナとまではいわないけど、俺だって光属性持ちだからな。魔族には更に効果の高い
槍に聖属性を付与して高速で攻撃を打ち込み続ければ、幾ら魔族でも多少のダメージくらいは与えられるさ。
問題は……、こいつがこの拘束を抜けた後だな。
『やるな!! 人間にしておくのが惜しい戦闘能力だ』
「これで死なないお前の方がよっぽどすげぇよ」
『そうか。ではそろそろ反撃だ』
「っ!!」
俺は魔族タナトスネイルの右手の爪は破壊し尽くしたが、左手の爪を破壊する事が出来なかった。
というか、こいつわざと右手で俺の攻撃を防いでやがったな。
その左手の斬撃を俺は槍で防いだが、衝撃を消しきれずにそのまま数メートル後方に吹き飛ばされた。
ダメージ軽減の魔法もかけていたからダメージは無いけど、魔族の力ってここまで強いのかと実感したところだ。
【魔族の能力は魔怪種程ではありませんでしたね。汎用戦闘種よりも少し強い程度です】
その通りだけど、まだ戦闘は終わってないぜ。
こいつは強い。気を抜いたら俺でも一瞬であの世行きだぞ。
「ホーリーブラスト!!」
「ホーリーバレット」
『光属性魔法か!!
俺の攻撃が効いている分、光属性のダメージも通りやすくなっているみたいだ。
このまま長期戦になれば勝てる可能性もあるけど、ワンミスで即崩壊の綱渡りみたいな戦いだぞ。
「これでもまだ倒せないのかよ!!」
「魔族ってここまで強いのか?」
『我は魔族の中でも戦闘に特化した個体だ。この身に込められた禍々しき魔素の放つ怨念が、多くの道連れを望んでいる』
「あの一件は同情するが、おとなしく成仏してくれんものかな?」
ずいぶん長い時間戦っているが決定打に欠けるというか、今の俺達の攻撃では魔族タナトスネイルに致命傷を与えられない。
俺の奥の手を使えるのは一度だけだし、アレを外したら本気でもう終わりだからな。
……一番最初に
こいつを弱らせて、確実に葬れる状態でないとあの技は使えない。
持久戦になりそうだし、この辺りで味方の体力を少しだけでも回復させておくか。
「エリア・ヒール」
「助かる」
「このレベルの回復魔法が使えるソロ冒険者?」
「今はディアナがいるぞ!! 昔はソロだったけどな」
光属性より回復属性持ちは多いし、回復魔法はアイリス教のプリーストでも雇えば何とかなる。
ただ、どのレベルの回復魔法まで使えるのかは個人の資質次第だからな。
一番低レベルな回復魔法のヒールしか使えない回復属性持ちも結構いるぞ。
「ここまで一人で何でもできりゃ、俺でもソロで活動するさ」
「そりゃそうか。……ホーリーメイス!!」
『その技はもう見飽きた……』
「くそっ!!」
カウンター気味に爪でメイスを弾かれ、あの丈夫そうなメイスが一瞬で粉々に切り刻まれた。
ヴァレシュは何とか致命傷を避けたけど、結構深めに斬られたみたいだ。
「ハイ・ヒール!!」
「サンキュ。だがこれで俺は終わりだ」
「俺もそろそろ限界だ。剛腕なんて呼ばれながら情けない……」
『人の身で我とここまで戦い続けられたのだ。十分に誇るがよい』
俺が攻撃を続けているからトドメを刺しに来ないけど、こいつは善戦したからと言って俺達を見逃す奴じゃないだろう。
お互いに命を懸けて戦っているんだ、俺達が戦闘不能になったからといって命を助ける理由もないしな。
ここに来るまでに戦ったグレックスの連中が全員殺されていないのは、ここにディアナがいてその存在と目的の確認を優先したからだろう。でなけりゃ、ここに来るまでに戦った奴らは全員三途の川の向こう側だ。
「このままじゃじり貧だぞ。他のグレックスの生き残りは助太刀に来ないのか?」
「来る訳ないだろ。どれくらい殺されてるのか知らないけど、まともな戦力なんて残ってないだろうし」
「それでも、回復魔法を使える奴が居れば状況は変わるだろ。ライカの奴はひとりで回復まで全部やってるんだぞ」
「……そうですよね」
出来ればディアナの前で、
俺がこの状況を打破する為にブレイブの力を望んだ様に、ディアナも俺の傷を癒す為に聖女の力を欲している筈なんだ。
だけど、無い物
今ある力で何とかしろってのは、あの組織で一緒だった
『そろそろ終わりか? 人にしてはよく戦った』
「まだ終わってねぇよ!! 勝手に終わらせるな」
『ここから何か手があるのか?』
「まさか……。魔神封じの剣じゃないだろうな?」
『ここまで戦った勇者を無駄死にさせたくないので言っておくが、あの手は我には効かぬぞ』
まさか、何処かのグレックスが魔神封じの剣を使った?
あれも魔法の一種だし、対策していれば防ぐ事が出来るのか?
「最後の望みが、こんな形で終わるとはな」
ギルマスのジャンマルコが、隠し持っていたひと振りの剣を地面に投げ捨てた。もう使う事もないだろうしね。
「ギルマス……」
「ギルマスがここに来た理由はそれでしたか」
「ああ。冒険者ギルドのマスターとして、冒険者たちだけ死地に向かわせる訳にはいかんからな」
しかし、冒険者ギルドのマスタージャンマルコが、万が一に備えて魔神封じの剣を持ってきていたとはね。
いざって時には自らの命と引き換えに、魔族タナトスネイルを封じるつもりだったんだろう。
「本気で強いな。俺が戦ってきた敵の中でもトップを争うぞ」
『ほう。我より強き者が居ると言いたげだな』
「いるさ。幾らでもな。俺が戦ってきた敵って事になると限られるけど」
魔氷怪種フリーズ・スパイダー。
俺がこの世界に来るきっかけになったというか、俺が前の世界でブレイブに変身して倒した唯一の魔氷怪種だ。
俺はそいつを倒す為にバーニングクラッシュを使い、そして自らの命を燃やしきった。
本当に、勝てたのが不思議なくらい強い奴だったぜ。
『馬鹿な。有り得ぬ』
「あるんだよ。世の中にはな、馬鹿みたいに強い奴が結構いるのさ」
「そうなのか?」
「さあ……。俺は流石にそこまで強い魔物の話は聞いて無い」
「ライカさん……」
ディアナ、そんな目で俺をみつめるなよ。
まるで俺がこいつに勝てないみたいじゃないか。
【魔力残量などを考慮すると、マスターはかなり危険な状態です。ここには守る人もいませんし、一時的な戦略的撤退を提案します】
すると思うか?
【私の知るマスターですと、絶対にしないとおもいます。ただ、この提案をしていないと後悔しそうで】
ブレスに内蔵された人工知能でも後悔なんてするんだな。
こいつとは長い付き合いだし、こいつは割と人間臭い事を言うしな……。って、まるで俺が死ぬみたいな雰囲気はやめろ!!
まだあるだろう。最後の奥の手が。
【マスターの攻撃で敵の能力もかなり低下していますので、命中率はかなり高いと判断します】
だろうな。
俺が今まで耐え抜いて来た理由がこれだ。
どんなに強力な攻撃でも、当たらなけれりゃ意味が無い。
だから十分にダメージを与えて、こいつの動きが鈍るのを待ったんだ。
『では、そろそろ終わりにするか……』
魔族タナトスネイルもトドメの為に最強の技を放とうとしてきた。だけど、大技ってのは結構隙がデカいんだぜ。
「この瞬間を待っていたのさ!!」
『なにっ……。まだこんな力がっ!!』
「必殺、バーニング・スパイラル!!」
バーニングブレイブの技を参考にして、俺がこの世界で編み出した必殺技バーニング・スパイラル。
槍全体を
敵を貫いた光と炎の螺旋は内部から敵を破壊し尽くすし、敵を内部から破壊するから防御力無効のおまけ付きだ!!
「なんだあの魔法は……」
「あんな魔法、見た事もないぞ。しかし、魔法以外には考えられない力だ」
技というか、この世界だと魔法以外ではここまで威力がある攻撃なんてできない。剛腕リシャルトの使うガントレットブレイクだって、この世界だと魔法扱いされているからね。
『見事だ……。お主が魔王様の命を狙う勇者でなくて、本当によかった……』
魔族タナトスネイルは黒い粒子と化してその体が崩壊し、少しずつこの世から消え去ろうとしていた。
こいつが生み出されたのは一部の人類の不手際だし、こいつ自身にその責任は無いからな。
その後でこいつが起こした斬殺事件に関しては、擁護できる点はなにひとつないが。
「本当に強かったぜ。俺も、ギリギリだっ……」
魔族タナトスネイルの消滅を確認した瞬間、俺も意識を失った。
やばいな。
これ、前世で同じ体験をした気がするぞ……。
まさか結果も同じじゃないだろうな?
……。
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