第十四話 脅威!! 破壊と殺戮の魔族の実力は……
迷宮都市フォーメイズから東に向かい、魔族タナトスネイルの侵攻ルート上に各グレックスが精鋭を配置した。一番多い戦力を用意したのは
移動は各グレックスは自らが所有する馬車を使い、俺達は冒険者ギルドが所有する馬車を使わせて貰った。
「何とか奴の侵攻前に防衛陣の配置が完了した。これで何とかなればいいけどな」
「各グレックスがあれだけ精鋭を用意したんだ。必ず倒せるさ」
「もしここに来ても、ここから先は通さない」
「そうだな」
魔族タナトスネイルを待ち構えるのは、迷宮都市フォーメイズを代表する百人を超える冒険者たち。
各グレックスがあれだけの精鋭を用意しても、俺は胸に
【魔怪種と同レベルの魔物を倒せる冒険者が居ると思いますか?】
居ないだろうけどさ。
だから索敵用の広域型レーダーユニットまで特殊インベントリから取り出して使ってる訳だし……。
この辺りも俺が使える数少ない力だよな。
【元々は上空に飛ばす魔怪種用の索敵ユニットですが、ある程度の魔力にも反応するように調整してありますので】
魔族タナトスネイルクラスが動けば流石に見つかるか。
冒険者稼業をしている限り魔物との命のやり取りは覚悟の上だろうし、各グレックスが用意した冒険者もある程度の事は覚悟をしている筈。
魔族タナトスネイルが魔怪種並の力を秘めているといっても、冒険者たちに逃げろとは言えないんだよな。
それは彼らを侮辱する行為だから……。
「
「ん? 迎撃するのは
「俺も
今回も誰かが魔神封じの剣を使えば、犠牲者はひとりで済む。
だけど、そんな事は強要出来ないし、俺だって魔神封じの剣を使おうなんて思わない。
ディアナを一人にはできないしね……。
【マスター。
来たか。
って、この音は……。
「今の音は?」
「馬鹿な!!
「メキドってどんな呪文なんですか?」
「半径百メートル位を余裕で焼き尽くす超強力な火炎魔法。ただ、魔族には光属性以外の魔法なんてほとんど効かないんだよな」
それを計算に入れて、どのくらいのダメージを与えられたかだ。
半身くらい吹っ飛ばせてれば、十分に勝ち目はあるんだろうけど……。
【魔力反応を確認。対象からほとんどダメージを感じられません】
マジか!!
光属性以外の魔法は無効って考えた方がいいみたいだな。
「どうやら光属性以外の魔法だと駄目っぽい」
「なんでそれが分かるんだ?」
「ちょっとしたカラクリでな。俺はこの距離でもある程度魔力の流れを読めるし、魔族タナトスネイルクラスの魔物だったら感知できるんだ」
「ライカさん凄いです」
「それより、光属性以外の魔法が利かないとなるとキツイぞ」
ディアナのホーリーフェアリーで、どれだけ確実にダメージを与えられるかが勝負の別れ目かもしれないな。
俺の奥の手なんだけど、あれって……。
【
となると、切り札はふたつ。
ディアナのホーリーフェアリーと俺の
「そういえば、ライカの武器は槍なのか?」
「本気の時はね。ダンジョンの探索程度だったらなんでもいいんだけど」
「そりゃ頼もしい。……どうやら、あれだけの数の精鋭を蹴散らして、こっちに来るみたいだぜ」
【各拠点には生命力が多数残されています。おそらく、こちらに攻めて来るのを優先したのでは?】
ん? 斬殺趣味の魔族が、半死の冒険者を見逃す理由があるのか?
【おそらく魔族の目標はディアナさんです。彼女は聖女ですので、魔族にとっては天敵の様な存在と思われます】
魔族タナトスネイルの狙いはディアナか!!
でも、封印が解けたのは偶然だろう?
【そこは偶然だと思われますが、被害が少なかったのもこちらに向かっているのもディアナさんがいるからですね】
ホーリーフェアリーまで使えるし、全身から魔族を引き寄せる光でも出てるのか?
今回の件は特別かもしれないけど。
しかし……。
「俺に、力があれば……」
「え? ライカさんは強いじゃないですか」
「そうじゃないんだ。こういう時、
ブレイブの力……。
俺がバーニングブレイブに変身できていれば、一人の犠牲も出さずに魔族タナトスネイルを倒せただろう。
間違いなくね。
「はははっ、ライカ。お前、誰かに守ってくれって、頼まれでもしたのか?」
「いや、そんなことは無いが」
「俺達は冒険者だ。毎日魔物と命のやり取りをして、運が良ければこの手に金銀財宝を掴める。だけど
「そんな俺達が誰かを守るとか言い出すのは
今回は迷宮都市フォーメイズとその周辺を領地に持つエッツィオ・マルキーニ伯爵から、直接冒険者ギルドに依頼があったって話だ。だから今回に限って言えば、俺達の仕事なんだよな。
魔族の様な単騎で強力な魔物に対しては軍を率いて討伐に向かうよりも、個人の技能が高い冒険者の方が有効って判断したらしい。
正しい判断だけど、それが出来る領主様は本当に少ないんだよね。
「今回は迷宮都市フォーメイズを治めるマルキーニ伯爵様から、冒険者ギルドに直接依頼があったんだ。伯爵の地位を持つ領主様が、自らの部下を差し置いて俺達に依頼して来たって意味は理解してくれよ」
「何より名誉と名声を重んじる貴族が、部下が全滅するのを恐れて俺達に依頼を?」
「そっちもそうだが、もし領主様の兵が壊滅すればサミュエル王国が攻めて来るだろう」
「なるほど。十分可能性はありますね」
こうなるとやっぱり、封印を解いたのがサミュエル王国って線が濃厚だ。
俺達が魔族タナトスネイルを倒せば、後はサミュエル王国と上同士で話を付けてくれるだろう。
【マスター!! 魔族タナトスネイルと思われる個体が接近中です。接敵まで約五分】
五分!!
「奴が来るぞ!! 打合せ通り頼む」
「アレが一番勝率が高そうだからな」
「で、失敗したらどうする?」
「その時は泥臭い戦いが待ってるさ。奴がぶっ倒れるまでな」
今までの移動速度から、奴は最初姿を見せた時は高速で動いていない。
そこを突いて各自の得意技で一気に畳み掛ける作戦だ。
「来たぞ!! ……くそっ、ほとんど無傷じゃないか」
「あの肩の小さな傷が、あの大魔法メキドの跡か……」
「ん? 動きが止まった」
『矮小な人間どもよ。今更聖女など担ぎだして何をする気だ』
ん? こいつら魔族にとって聖女って、そこまで脅威なのか?
戦う前に、こうして話しかけて来るくらいには……。
「別に何もするつもりはない。俺と一緒にダンジョンの探索をするくらいさ」
『……言葉に嘘は無いな。我々は嘘を見抜ける』
「当然だ。だいたい何をする気だって言われてもな……。逆に聞くが、何かされる様な事があるのか?」
この世界にはこいつの他にも魔族が存在するけど、特に魔族と人類が戦争をしているとかそういう状態じゃないんだよね。うちの国だと魔王国よりサミュエル王国との仲の方が悪い位だ。
だいたい魔族は禍々しき魔素に汚染された土地でしか普通に暮らせないから、人類側の土地に攻め込むメリットがほとんど無い。この魔族タナトスネイルだって、人を殺して怨嗟の念を集めなきゃ、そう長くは生きていけないしな。
人類側も禍々しき魔素に汚染された土地に価値が無いから、わざわざ莫大な金をかけて魔王国に攻め込んだりしないぞ。
魔王国は南の大海のど真ん中にある、ちょっと大きめの島国に住んでるんだったか?
何の見返りも無いのに、あんなところまで攻めていこうって物好きなんていないしな。
『魔王様の討伐……』
「ああ、もうそれ流行ってないんだよ。その件は人類が正式に謝罪したし、魔王国とも条約を結んであるだろ?」
勇者による魔王討伐は、この世界で百年くらい前に流行ったらしい。
原因はその当時の魔王が世界中を禍々しい魔素で汚染して、世界を魔族の楽園にしようとしたからだけどな。
実際問題、世界中を禍々しい魔素で汚染するには禍々しい魔素が全然足りないらしくて、魔族側が謝罪と計画の中止を発表した。同時に、人類側も勇者による魔王国内での戦闘行為などを謝罪したって事だ。人類側は戦いを仕掛けられた側なんだけど、各国に殆ど被害が出ていなかったし、逆に魔王国内で結構な規模で被害を出しちゃったからさ……。
以後、魔王国とは国として普通に交流が始まったし、今は割といい関係なんじゃないかと思う。
時折こいつみたいな魔族が人類側で発生して問題になっているくらいかな? この辺りは禍々しき魔素が存在する限り仕方がないらしい。
『嘘が無い……。そんな事が……』
「お前みたいに単独で暴れる魔族に関しては、人類や亜人種でもいるから魔王国にまで責任は問わない」
「事情を知らないとはいえ、お前が犯した罪は償って貰おうか」
『状況は理解した、説明を感謝する。だが、破壊と殺戮は我が本能。お互いに誤解があったとはいえ、我は魔族として人類を葬るのみ』
こういう魔族に関して魔族側は関知しない。
二十年前に出現した時も人類側での怨念が元々の出現原因だし、魔王国側は一切関わって来なかったって話だ。
そりゃそうだよな。こいつの出現原因はどう考えても人類側に問題がある。厳密にいえば、サミュエル王国の責任だけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます