第十三話 魔族タナトスネイル対策会議
会議場内はグレックスごとに色々と話が進んでるみたいだけど、話し合いというよりは各グレックスによる腹の探り合いが続いている。
色々言いたい事もあるんだろうしな……。
「
「流石にうちにも当時から在籍しているメンバーはいない。グレックスマスターの俺から言わせて貰えれば、倒したのではなくおそらく封じたんだろう」
「封じたと報告しなかった理由は?」
「生き残ったメンバーが倒したと誤解したんだろうな。おそらく使ったのは、命がけで封じる魔道具の筈だ。冒険者だったら、名前くらいは聞いた事があるだろう?」
魔神封じの剣か!!
特殊な魔石が柄と刀身に嵌め込んであって、使用者の命と魔力を全部使って神さえも封じるという魔道具だ。
結構有名で作り方もそこまで難しくは無いんだけど、使ったって記録はほとんどない。
「命がけで……、それはとても尊い行為ですね」
「魔神封じの剣を使うと死者蘇生でも甦れないって話だし、本当に勇気のいる行為だ。でも、二十年やそこらで封印が解ける魔道具じゃないだろう?」
残されている中で一番長い魔神封じの剣は千年前の物だと聞いている。封印状態だと、剣が劣化しないんだそうだ。
それを考えれば二十年で封印が解けるなんてありえない。衝撃を与えれば壊れるけど、そんな危険な真似をする馬鹿はいない。普通はね……
「誰かが……、封印を解いた?」
「誰だよ。当時の記憶はまだ薄れちゃいないだろ?」
「サミュエル王国の工作員?」
「戻ってくる可能性もあるのにか?」
その可能性を考慮しても、あの国がこの国にちょっかいを出してくる可能性は高い。
その位には仲が悪いからね。
もう少し北の国境沿いだと、小競り合いもよくあるし。
「あんな国の事より魔族タナトスネイルだ。実際問題、どうやって倒す?」
「射程の長い攻撃はしてこなかった筈だが、あの移動速度と凄まじい斬撃がな……。あの化け物と接近戦でマトモに戦えるのは、レナルドとライカくらいだろう」
「そこまでか……」
俺はブレスの効果で能力五割増しだし、その上で結構強力なバフを掛けられるから一定時間内の戦闘だと相当に強い。
相手が魔族タナトスネイルでなければ剛腕と鉄壁でも何とかなるんだけど、スピードタイプの魔族とは相性が悪すぎるからな。
それよりもだけど、あのレナルドって俺と並ぶくらい強かったのか?
「おいおい、俺がこの元副料理長より弱いっていうのか?」
「
「いや、無いが。冒険者と料理人をしてる奴に、俺達冒険者を専業でやってる人間が負ける訳ないだろ」
「俺は一度だけライカの本気を見た事があるぞ。そいつはな、誰かを守る時じゃないと本気で戦わないのさ」
以前西のダンジョンの地下十五階まで潜った時の話か。昔は俺も安全を顧みずに地下二十階くらいまで攻めてたからな……。
いつも通りに隠し扉を探していたら、五匹の
そいつらはあろうことか俺にトレイン行為を仕掛けて、そして運が悪い事に俺の後ろで精根尽きて倒れた。
そのままそいつらを見捨ててもよかったんだけど、俺の中のヒーローの血がそれを許さ無かったんだよな。
俺はひとりで五匹の
「あんた……、もしかしてあの時の?」
「あの時は命を救われた。あの一件以来本気で自分を鍛えて、今じゃ
強靭な防御力が売りの
あの時の男がね……。
僅か三年でよくあそこまで鍛え上げたもんだよ。
「ヴェイッコの奴がそこまで言う男か……。なんで料理人なんてしてるんだ?」
「冒険者でいつまでも食っていけると思うなよ。俺は将来の事もちゃんと考えられる男なんだ」
「何処のグレックスが誘いに来ても断るくせに。お前だったらグレックスの副マスターなんてすぐだろう?」
それも悪くないんだけどね。
でも、俺の本心は冒険者でも料理人でもないからさ。
【冒険者の共同活動組織であるグレックスに所属する事は、誰かを守る事になるのでは?】
どこかの組織に所属してしまうと、仲が悪かったり敵対してる組織とか色々と出来るだろ?
俺はさ、出来る限り助けてやりたいんだ。敵とか味方なんて関係なくさ……。
ダンジョンの中を命からがら逃げてきて、許されない行為と分かっていながら俺に擦り付けるしか無いと判断したあの冒険者たちでもね。
【本当に、マスターらしい答えです】
結局俺はヒーローでいたいだけなのさ。変身できない俺は、ヒーローを演じる
「いろいろあるのさ。料理の腕は確かだぞ」
「そりゃ……、ここにいる奴はそこを疑わないが」
ほぼ全員
一度でも店に来た客の顔は、大体覚えてるぜ。
全員って言えないのが悲しいけど、厨房にいると流石に全員はチェックできないからね。
「そんな事より魔族タナトスネイルだろ? で、どうやって倒す?」
「二十年前の戦いを参考にした場合、大人数で囲むとこちらがかえって不利になる。一定の距離を保って包囲、接近戦は程々にして魔法と遠距離武器で戦おうと思うんだが」
「悪くないな。だが、連携を考えるとグレックス単位で戦いたいんだが。どうだ?」
「そこはうちも同意見だな。命懸けの戦いで、知らない奴らとパーティを組むほど無謀じゃない」
グレックスの連中は同じ意見か。
倒した後の名誉というか、うちのグレックスが倒したって勲章が欲しいんだろうし、そこは譲れないんだろうな。
今後、グレックスに加入したいって冒険者が増えるかもしれないし。
「俺達はどうする?」
「正直、ライカ達は欲しい所なんだが……」
「待て、料理人はともかく鉄壁と剛腕はうちも欲しいぞ。出来ればそのままグレックスに加入しないか?」
「勧誘は今は無しだ。ライカ達は最終ラインで防衛任務について貰いたい」
鉄壁は守りに向いてるしな。
ある程度ダメージが入ってれば、俺が何とかできると思うが。
【この世界の魔族は魔怪種並という情報があります。かなりキツイ戦いになると予想されますが】
マジか!!
汎用戦闘種じゃなくて、魔怪種と同じくらい強いの?
というか、そこまで強かったらこの世界の冒険者だと勝てなくないか?
【魔怪種並と言いましても、初期型くらいですので。魔氷怪種戦辺りですと、強化型汎用戦闘種の方が強い気がしますし】
それでも相当に強いよ。
今の俺でもギリギリだよな?
【バフをかけまくって何とか……】
マジか。でも、やるしかないよな。
俺には奥の手が幾つかあるけど、それでも勝てるかどうかわからない。だからと言って、戦いから逃げたりはできないしな。
ここで逃げたらヒーロー失格だし、敵が強いからって逃げるヒーローなんて存在が許されていい筈が無いからね。
「あの、どうしても戦わないと駄目ですか?」
「ディアナの魔法だと、ダメージが入らない可能性があるのか……」
「ディアナの使える属性は? それと、持っている魔法も良ければ教えてくれ」
緊急事態じゃないと許されない質問のオンパレードだな。
属性もそうだけど、持ってる魔法とかさ……。
そんな重要情報、グレックスに加入する時くらいしか他人に教えないよ。パーティを組む時ですら、全部は教えないのに……。
「属性は光と風と火で、使える魔法はエアカッター、ファイアバレット、ファイアーボールだけです」
「三属性もあるのは凄いな……。魔族対策となると、光属性のホーリーブラストかホーリーフェアリー辺りの魔法が有効だが」
「流石にあの辺りの魔法は高くて買えないぞ。俺達は魔族やアンデットを専門に狩ってる訳じゃないんでね」
ホーリーブラストは最低でも百万ゴルダするし、もう少し格の落ちるホーリーフェアリーでも最低五十万ゴルダはする。
悪いが、今回の為だけに出せる額じゃないぞ。取得する事自体は無駄だとまでは言わないけどさ。
「もし覚える事が出来た時は、戦力強化の為にその二つの魔法をディアナに提供しよう」
「マジか?」
「貴重な魔法ではあるが、使える者がいない魔法でもあるからな」
光属性持ちは意外に少ない。
その中でホーリーブラストまで使える人間なんて、本当にいないんだ。
ホーリーフェアリーでもこの国で使える人間が数人いただけの筈。その上のシャイニングスプライトに至っては、確か世界に一人いるかどうかが怪しいレベルだ。魔族やアンデット相手だと、めちゃめちゃ強力らしいけどね。
「もし覚えられたら、本気でタダなんですね?」
「ああ。おい、スクロールを持ってこさせろ」
「あの、高い魔法なんですか?」
「買えば百万ゴルダはする魔法だね。でも、さっきの説明通りに使える人がいないから、ある意味無価値の魔法でもある。ダンジョンでもしスクロールを見つけても、何処も買い取ってくれないし」
売値が高価ではあるけど、実際には無価値な魔法ってのは結構存在する。
覚える為のスクロールなんて、使える人間がいなけりゃチリ紙と変わらないからな。
「持ってきました!!」
「おおっ、ご苦労さん。これは駄賃だよ」
「いいんですか?」
「貰っておけ」
大銅貨を五枚。五百ゴルダほど握らせておいた。
日本円にして五千円だけど、駄賃としては結構いい額の筈……。って。
「ひゃぁっ、ほぉぉぉぅっ!! っしゃぁぁぁぁっ!!」
流石にそれはマズイだろ。
「……ドア越しに聞こえて来るとは。いくら握らせたんだ?」
「額は内緒だけど、あそこまで喜ぶ額じゃないぞ」
「うちの給料はそこまで安くないからな!! たまたま……、そう、たまたまあいつが金欠だったんだろう」
そうでも言っとかないと体裁が悪いからな。
あいつ……。これだけやらかすと、流石に後で呼び出しコースだぞ……。
「そんな事より魔法だ。覚えられない時はスクロールは返して貰う」
「当然だな。って、いつ出たスクロールだよ。結構古いぞ、これ」
「光属性持ちで中級魔法を使える奴は本当に稀だからな。かなり昔からある筈だ」
下級魔法の
女神アイリス教に入っていると、女神アイリスの加護を使ってターンアンデットや浄化系の魔法を簡単に取得できるけど、普通の光属性持ちが覚える魔法は
「ディアナ。スクロールだよ」
「ありがとうございます……。覚えられました」
「おおっ!! 凄いぞ。ディアナさんは中級光属性魔法を覚えられる才能持ちだ!!」
「流石ディアナさん!! 迷宮都市フォーメイズの天使!!」
「光の聖女の誕生だ!!」
本当にこいつら……。
まあいい、聖女なのは本当だからな。間違った事をいっちゃいないし……。
「これで今後のこの街でアンデッド騒動が起きても安心だ。正直、中級光属性魔法を使える冒険者がいなくて不安な面はあるからな」
「教会に協力して貰えば何とかなりますけど、後で色々請求されますからね」
「仕方がない出費とはいえ、冒険者だけで対応できるときはしたいってのが本音だ」
アイリス教会に依頼すると後で結構な額の請求書が届く。
この街にも孤児がいて、教会はかなり規模の大きい孤児院を運営している。
その孤児院の運営の為に結構な資金が必要らしく、教会の方もその資金繰りに苦労しているそうなので仕方がないとはいえ……。
「これで準備は整った。各グレックスから何人出すかは任せるが、最低でも十人くらいはお願いしたい」
「うち以外は必要ないと思うがな。精々賑やかしを用意しといてくれ」
「こいつ……」
二十年前に命懸けで魔族タナトスネイルを封じた件を疑われたのが、そこまで腹立たしかったのか?
それとも、本気で
【可能性はゼロではありませんが、限りなく低いかと……】
だよなぁ……。
魔怪種並の力を持つ存在を、そう簡単に倒せる訳ないしな。
この世界にブレイブはいない。だから俺達が持てる力で魔族タナトスネイルを倒すしかないんだよね。
俺も幾つか奥の手があるけど、何処まで通用するか分からないからな。
だけど、絶対に逃げる訳にはいかない。
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