第十二話 破壊と殺戮の魔族
冒険者ギルドでいつもの様にダンジョンで手に入れたお宝を換金していると、ギルマスのジャンマルコが近付いて来た。
何かあったのか? 今日くらいの換金額だと問題は無い筈だけどな。
今日の数倍の額の戦利品を換金に出すと、他の冒険者の目もあるから何回かに分けて換金して欲しとか言われたりするんだよね。流石に俺を襲う馬鹿はいないけどさ……。
「おお、ライカ。今日来てくれて助かったぜ。もし来なければ誰か人をお前のところに向かわせてた所だったんだ」
「呼び出しとは穏やかじゃないですね、何か問題でもあったんですか?」
「ちょっとな……。詳しい事は向こうの会議室に行ってから話そう」
「ということは、本気でヤバい案件ですか……」
冒険者ギルドの会議室。
そこに冒険者を呼ぶ時は、必ず大きな事件が起きている。
一番多いのが魔物の大量発生。オークやゴブリンといったお馴染みの魔物から、昆虫系の魔物の大量発生までいろんなパターンが存在し、どれだけ冒険者を集めても討伐には馬鹿みたいな手間がかかるんだよね。
【誰かを守る為には仕方がないのでは?】
そうだけどさ。
発生した魔物が何かってのがかなり大きいんだけど、ああいった大量発生を迎撃すると冒険者側の犠牲者数も凄いんだよ。
死んだ冒険者に保証なんて無いし、戦果次第だと死者蘇生で蘇らせて貰える事も無い。
だから迎撃任務に手を貸す冒険者はよっぽど腕に自信があるか、その街の顔役に近い大手のグレックスに所属する冒険者たちだけだ。
「これで全員揃ったな。ほとんど説明もなく強引に集めた事に関しては謝罪する」
集められたメンバーは迷宮都市フォーメイズの三大グレックスのマスターと副マスター全員。それとソロで活躍している俺とディアナの他に、凄腕で有名なヴァレシュとリシャルトも呼ばれているな。
この二人もソロで活躍しているんだけど、俺と違って北のダンジョンをホームとして活躍しているそうだ。つまり脳筋で相当に強いって事だね。流石に俺は北のダンジョンにソロで行きたくはない。
「冒険者ギルドのマスターが頭を下げるような事態ですか? いったい何が……」
「我々三大グレックスのマスターを全員呼びつける事自体が異常だ。何かあるにしても、我々に頼めば済む話だろう?」
「元副料理長や鉄壁と剛腕まで呼ぶ必要を感じないんだが」
鉄壁は巨大なラウンドシールドとメイスを武器とするヴァレシュの通り名で、剛腕は特殊なガントレットを装備するリシャルトの通り名だ。
流石にディアナにはまだ通り名はついていない。……筈なんだけど、聖女や天使とか呼ばれてるのを聞いた事があるんだよな……。
「今回はそれほどの事態という事だ。サミュエル王国で起こったクロー村壊滅事件を知らない者はいるか?」
「あの……、申し訳ありません」
当然ディアナは知らないよな。俺も教えてないし、聞いて楽しい内容の事件じゃないからさ。
ゆっくりと手をあげるディアナに続いてなん人か手を上げ始めたけど、流石にそれはおかしいだろ?
「いや、俺も詳しくは知らなかったな」
「俺もだ!! ディアナさんだけが知らない訳じゃないですよ」
こ・い・つ・ら~!!
手の平を返したようにディアナに同調する、大手のグレックスのマスターや副マスター。
ディアナが美人だから鼻の下を伸ばす奴も多いんだよな。って、レナルドの奴は
「では説明するか。二十年ほど前の話になるんだが、この事件は隣の国であるサミュエル王国のクロー村にゴブリンの群れが現れた事が始まりだ。何処からか集まってきた二百匹を超えるゴブリンの集落を発見したクロー村の狩人が領主であるゴドフレド・ラウージャ子爵にそれを報告、子爵はその情報を冒険者ギルドに流す事なく自らの兵でそのゴブリンを殲滅した」
ここまでは何も問題が無いように思えるけど、まずこの一手が大間違いだったんだ。
何故クロー村の近くに二百匹を超えるゴブリンの集落が出来たのか。そしてそれだけの集落を形成しながら、なぜ近くにあるクロー村を襲わなかったのか。
子爵はその辺りの調査などを一切せず、ただゴブリンを討伐しただけで終わらせてしまった。しかも、残されたゴブリンの死体を焼きもせずにそのまま放置して……。
「そして事件の第二段階。放置されていた殺したてのゴブリンの死体を残らず貪った
後の捜査で事情は知れたんだけど、元々ゴブリンの群れは十数匹程度だったらしく、クロー村の近くに
そして子爵がゴブリンを殺してそのまま放置したので
その後
冒険者ギルドに報告が来たのは、その後だったと聞いている。だけど、この時点でも冒険者ギルドへ討伐依頼が出される事は無かった。理由は簡単で、冒険者ギルドが子爵に提示した額は適正な範囲だったのに、子爵が高すぎるといって支払いを渋ったからだ。
「最初から冒険者ギルドが動いていればこの被害は抑える事が出来ただろう。だが知らされた時には既に最悪の事態に発展した後だったという事だ」
その後、
サミュエル王国からの依頼を受けて冒険者ギルドはどうにかして殲滅できるだけの冒険者を手配し、冒険者ギルドが派遣した冒険者の部隊が魔法と罠を用いて何とか
餅は餅屋ではないが、魔物討伐に関していえば、国が抱える兵と冒険者ではかなり戦闘力が変わる。
対人戦に特化した装備と訓練しか受けていない王国の軍は、基本的に異形の存在である魔物の討伐には向いていない。クロー村壊滅事件はそう結論付けられた事件でもあった。
「ここで終わっていれば、隣の国で起きた悲劇で済んだんだがな……」
「まだ続きがあるんですか?」
「ここからが本番でな、大量に討伐されて放置されたゴブリン。
生み出されたのは魔族タナトスネイル。
鋭い爪と俊敏な動きで人を斬殺する魔族タナトスネイルはゴドフレド・ラウージャ子爵領で暴れまわり、サミュエル王国の南西方面に尋常ではない被害をもたらした。
そのまま魔族はラウージャ子爵領とサミュエル王国の一部を壊滅させた後、西に進んでこの国の国境まで進出して来た。
これには色々と理由があって、サミュエル王国の現国王でもあるサミュエル・クロデルが魔族をこちらの国に誘導したという噂まである。
当時の記録を調べれば、それが事実だとすぐに分かるけどね。
魔族を押し付けられたエリミラン王国は国境沿いの村を幾つも壊滅させられたけど何とか魔族の撃退に成功。しかし、壊滅した村や迎撃にあたったこの街のグレックスに所属する冒険者に、サミュエル王国からは何の保証もなかったという。
それ以来、この国はサミュエル王国をかなり険悪な関係になっている。
戦争はしていないけど、本当にギリギリな状況だね。外交のチャンネルは閉じていないから人の行き来はしているし、たまにあの国から呼んでもいないのに貴族が来たりもするそうだ。
「あの時迎撃したグレックスは
「うちのグレックスの功績ですね。それで今日はその話をする為に集まったんですか?」
「そこなんだが……。魔族タナトスネイルを撃退したのは二十年前。それなのに先日、魔族タナトスネイルの起こしたと思われる斬殺事件が発生した」
会議場内が一気にざわついた。聞き流せる話じゃないからね。
っていうか、倒した筈の魔族が復活した?
常識ではありえないし、一度倒した魔族が復活する事は無い筈だけど……。
「どういう事だ? 二十年前にちゃんと倒したんだよな?」
「うちに残っている記録ではそうなっています」
「魔族タナトスネイルは何処に出現したんですか? 斬殺事件の発生した場所なんですけど」
「前回討伐したって報告があった、スラシュ村の近くだ。もし本当に復活していた場合、このルートで迷宮都市フォーメイズに向かう可能性がある」
迷宮都市フォーメイズ自体はダンジョン内から魔物が出て来た時の対策の為に、街自体がぐるりと強大な城壁で囲まれている。つまりこの街は城塞都市でもあるって事だね。
警戒はしてるけど冒険者ギルドがきっちり管理しているから、ダンジョン内から魔物が溢れた事なんて一度も無いって話だ。
それはともかく、この街はその城壁があるからそうやすやすと魔族の侵入を許しはしない。
問題はこの街に至るまでの村や町か……。
「途中の村や町は既に厳戒態勢に入っており、先行した冒険者が防衛任務に就いている」
「そもそも斬殺事件が起きたのはいつなんだ?」
「一昨日だ。犠牲者の状況からすぐに魔族タナトスネイルが関わっていると判断した」
「他の魔物の可能性は?」
「剣技や魔法を含めて言うが、あんな斬撃痕を残す魔物が他にいるか。今の冒険者ギルドで当時から冒険者をやっているのは俺くらいだろうが、あの傷跡は忘れんよ」
この冒険者ギルドマスターのジャンマルコは結構な歳だけど、まさか二十年前に冒険者だったとはね。
今は冒険者としての活動はしてないとは聞いているし、冒険者ギルドの職員にも元冒険者が結構いるって話だ。冒険者ギルドは引退した冒険者の再雇用先としては最高の場所の一つだからな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます