第八話 何故か寝不足なディアナを引き連れてのダンジョン探索



 昨夜は十分な睡眠もとったし、生命力と魔力が完全回復した~って感じだよな。


 数値として見れないから、本当に回復してるのかどうかは分かんないけどね。


「準備万端!! これで宝箱の中から高額換金アイテムが出てくれたら最高なんだけどな」


 はっきり言うとこれからはディアナと折半するから、今迄みたいに一日の稼ぎが八千ゴルダじゃキツすぎる。


 平均的な冒険者の稼ぎとして一日一人頭四千ゴルダって普通なんだけど、命がけで一日活動して日本円で四万円って安いよね。


【冒険者の稼ぎとしては、かなりいい方では?】


 そうなんだけどさ。俺は毎日潜る訳じゃないし、せめて一人あたり一万ゴルダ欲しところだけどね。


 特にディアナは今までの稼ぎが無いから、万が一に備えて貯金とかをする事を考えると、それでも少ないんだぞ。


【贅沢が過ぎますね。地下十階の探索に切り替えては?】


 ディアナがもうすこしこの世界に慣れたら、地下十階に切り替えるか。


 今はこの世界の事なんかを色々覚えたりもしないといけないし、ダンジョンでの探索でまで負担を強いるのは間違いだろ?


 全然稼げない訳じゃないんだし、とりあえず地下五階で稼いだ方がいい。


【流石はマスター。的確な状況判断です】


 冒険者の稼ぎに関しては運も大きいし、その辺は割り切っていくしかないな。


 ん? ディアナも起きて来たみたいだね。


「おはようディアナ」


「おふぁようごじゃいますぅ~。いつの間にか朝でしたぁ……」


 朝は強い筈のディアナが、かなり変だ。


「って、体調が悪いとか? 熱とか無い?」


 目の下にクマは無いけど、ここ数日で一番体調が悪そうだ。


 状況次第じゃ今日の探索は取りやめて、体力の回復に努めた方がよさそうだぞ。


「クリア・イルネス……」


「温かい……。なんですか? この魔法」


「軽い治癒魔法。酷い病気は治せないけど、軽めの病気や体調不良を治す魔法だよ」


 二日酔いや寝不足とかね。


 後はひきはじめの風邪とか、軽い炎症までだったら何とか治る魔法。


 ……ん。少しは顔色が良くなったみたいだ。


「ありがとうございます、すっごく楽になりました」


「無理してない? そうだよね……、この世界に来てまだそれほど時間が経った訳じゃ無いのに、いろいろ詰め込み過ぎたかな? 今日の探索はやめようかと思うんだけど……」


「いえ。流石にそこまでは甘えられません!!」


 うぉぅ……、凄い勢いだな。魔法のおかげで調子が戻ってるのは確かだ。


 顔色もいいし、熱っぽい感じもない。今回無理に休ませると今後体調が悪い時に言ってこない可能性もあるし、何かあればすぐに引き返すって感じで行くか。


「本当に大丈夫なんだね?」


「はい。凄い回復魔法ですね……。っていうか、ライカさんって回復魔法を使えたんですか?」


「俺は器用貧乏で何でもできるのが自慢でね。回復魔法は割と得意な魔法のうちの一つだよ」


 ブレスの能力五割増しの効果だよな。


 魔力量なんかも普通の冒険者に比べて多い方だと思うし。


「本当に凄いです。……それじゃあ、朝御飯を食べに行きましょう」


「そうだね。今日のメニューは何だろう?」


「こんがり焼いてバターを塗ったトーストもおいしいですよね。あんなパンもあったんですね」


「パンって本当に色々あるよね。この辺りで出てくるパンは圧倒的にバタールが多いけど、クロワッサンとかもおいしいし」


 ふわっふわのクロワッサンね。


 あれを甘めの珈琲かフルーツジュースと一緒に食べると最高だ。


「私はもう二度と黒パン生活には戻れません。朝起きたら元の世界でした~なんてありましたら、本気で女神プリムローズ様を恨みます」


「うわっ……、そこまでなの?」


「そこまでですよ。この世に天国があるとすれば、それはこの世界の事です」


 色々と滅びかけてる世界だと、本気でそう感じるのか?


 元の世界に会いたい人とかいるだろうに。


「向こうに会いたい人とかいないの?」


「教会関係で何人かいますが、特に会う必要は感じませんよ。会う為の条件が元の世界に戻る事でしたら、二度と会う事は無いでしょう」


 ドライだなぁ……。


 食事が不味くて少ない上に仕事がきつくて、異性関係が壊滅的で給料は安くて休みがほぼ無いんだっけ?


 うん、俺でも戻りたいとは思わないかな。


「それじゃあ美味しいご飯を食べて、西のダンジョンに向かいますか」


「はい!! よろしくお願いします」


 朝食のメニューはこんがり焼いてバターをたっぷり塗った厚切りのトースト一枚。スクランブルエッグ、ソーセージ三本、小さ目のチャージボアのステーキ、温野菜のサラダ、芋のポタージュだった。ボリューム満点すぎるだろ。


◇◇◇


 迷宮都市フォーメイズにある西のダンジョン。ここは別名智のダンジョンとも呼ばれ、様々なギミックが仕込まれたダンジョンとしてはかなり有名。


 頭がいい冒険者やシーフなどの技術を持つ冒険者に好まれ、逆に脳筋な戦士系に毛嫌いされているダンジョンでもある。


 普通に攻略をする分にはそこまで頭は使わないんだけど、その場合はあまり旨味が無いんだよね。


 やっぱりこのダンジョンは隠し扉の先にある隠し部屋にこそ真価があって、これを攻略しない限りかなり地下深く潜っても数千ゴルダなんて事すらあるらしい。


 ディアナを加えた今日の探索はホントに順調で、このままいけば過去最高の稼ぎになりそうだ。


「これで今日三ヶ所目の隠し扉だ。ここまで上手くいくと怖いくらいだね」


「そうなんですか?」


「この隠し扉は二時間に一回出現するんだけど、誰かが先に見つけると次に出現する二時間後まで待たないといけないんだ。しかも告知なんて無いから、本当に見つかってないのかすら分からない」


 今日は他の誰も見つけられていないみたいで、すんなり隠し扉が見つかった。


 三回連続なんて初めてだよ。


「しかもギミックが多いし、隠し宝箱から出て来る財宝もいつもより多い。いろいろ心配してたけど、これだけ手に入ると安心だ」


「その壁の仕掛けがギミックなんですか?」


「そう。これは言ってみればパズルだね。地下五階のギミックはそこまで難しくは無いし」


 この世界の人間にはなじみが薄いのかもしれないけど、俺にはものすっごく見覚えのあるギミックだしね。用意されているのは移動の回数制限付きスライディングブロックパズルとか、元の世界にあった単純なパネルゲームに似たギミックが多いから。


 下の階に行くとかなり複雑な物になるそうだけど、何とか地下二十階くらいまでだったら俺はクリアできる。


「と、これで完成。最後にこのボタンを押す」


「へぇ~、凄いです。これ、簡単に見えますけど、ハマるとすぐに詰みますよね?」


「そうだね。意外に罠が隠されてるし、失敗すると再チャレンジはできずに終了だからさ」


 隠し扉は再チャレンジさせて貰えるんだけど、隠し部屋の中に隠されてるギミックは再チャレンジできない仕組みになっている。失敗すると宝箱が出現せずに終わるんだよね。


 この西のダンジョンで確実に稼ぐ為には、このギミックをキッチリとクリアしないといけない。


「で、成功するとこうして宝箱が出るから、財宝が手に入るって仕組みだね」


「このギミックも何処に仕掛けてあるのか分からないんですよね?」


「仕掛けてある場所でギミックの内容が変わるしね。大体壁に仕掛けてあるんだけど、仕掛けてある場所が床の時もあるんだよ」


 床の時はまためんどくさいギミックが多いんだよな。


 決められた場所に決められた順番で石を置いたり、決められたパネルを踏んだりするギミックが多い。


 そんな事より今回のお宝はなにかな?


「今回のお宝はスクロールか。超大当たりだけど、どんな魔法なんだろう?」


「色々あるんですか?」


「ここは地下五階の隠し部屋だから、そこまで高レベルな魔法は出ない筈……」


 地下二十階より下の隠し部屋には、極稀に使うのが怖いくらいの魔法のスクロールが出る。


 下手すると迷宮の一角を焼き尽くす火炎魔法のメキドとか、無数の雷を解き放つサンダーストームなんかだ。


 使いこなせれば領主様に仕官できるレベルの魔法だけど、制御に失敗した時はその命で代償を支払う事になる。俺は今まで手に入れた上級魔法のスクロールは魔法使いギルドに全部売り払ったから、手元にはひとつも残ってないけどね。


「ファイアーボールだね。ちょっと強い火属性魔法の一つだよ」


「どのくらい強いんですか?」


「あの部屋位だったら焼き尽くせる威力だね。俺も覚えてるけど、ディアナはまだ覚えてないからこれを使って覚えてみる?」


「いいんですか? でも、高いんですよね?」


「買わなくて済んだと思えば、かえって安く済んでるよ。戦力強化は悪い選択肢じゃないし」


 魔法なんてほとんど使わないけど、いざって時には必要になる事もある。


 最初に覚えて貰ったファイアバレットとエアカッターだけだったら正直火力不足だけど、ファイアーボールが使えればかなり状況が変わるからね。


【地下十階の探索が十分に可能になります】


 そこなんだよな。


 今後の為にもぜひこれは覚えて欲しい。


「ありがとうございます。……覚えました」


「おめでとう。これで火属性は結構強いよ」


 覚えるとスクロールはこうして消えちゃうんだよね。


 だから、覚えた後で売るとかはできない。人気の魔法の値段が高い訳はこの辺りなんだよな。


 上級魔法は強いけど買い取り価格がそこそこ安いのは、使える人間が居なくて供給が少なくても需要が全然無いからだって。売る時は馬鹿みたいに高値で売るくせにさ……。


「今日は三回も隠し扉を見つけられたし、これ以上隠し部屋は探さずにこの階にいる魔物を倒したりしてみる?」


「魔法とかの威力の確認の為ですね。隠し部屋に出てくる魔物じゃダメなんですか?」


「あそこは一匹しか出てこないし、それにこれ以上隠し部屋を独占するのも悪いから」


 このダンジョンで活動をする冒険者は俺達だけじゃない。


 全然稼げてないんだったら流石にまだ隠し扉を探すけど、今日は運が良すぎてあのスクロールを除いても既に三万ゴルド位稼げてるからな。


 ただ、今日はこの階で他の冒険者を見かけないのは確かだけどね。元々このダンジョンはあまり人気が無いからさ。


「それじゃあ、この階の魔物を探そう」


「わかりました」


【索敵モードを隠し扉から魔物に切り替えます。索敵範囲が倍になりました】


 これで魔物を見つけやすくなる。


 西ダンジョン地下の五階に出て来る魔物は弱いし数も少ない。


 ここで魔物を狩ってる冒険者は駆け出し位だけど、俺みたいに隠し扉目当ての冒険者はたまに遭遇する魔物と戦っていたりもする。


 この階の魔物はファイアバレットクラスの魔法でも倒せるけど、ファイアーボールが使えればまとめて処理できるのがデカいんだよね。


 何故かダンジョン内で炎系の魔法を使っても酸欠にならないんだけど、そういう世界だからって納得するしかないんだよな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る