第七話 ディアナがどんな魔導具を買ったかは聞いていないぞ



 結構待ったというか、ディアナが雑貨屋に入って三十分以上経過した。


 何を買い忘れたのかは知らないけど、あの広大な店舗で一度見失った商品を再び見つけるのが結構手間なのは分かるぞ。俺も経験あるし。


【小さい商品ですと、なおさらですよね】


 一応分類してあるけど、俺の思っているカテゴリーと店が扱う際の分類が違う時もあるしね。調理機としても使えるけど、別の目的でも使える商品とかも結構あったしな。


 新商品なんて特にどこにあるのか分からないんだ。


 お、ディアナが出て来たぞ。わざわざ雑貨屋から服屋に戻って、そっちからここに向かってきたな。


「お待たせしましたっ!!」


「全然待ってないから大丈夫だよ。他に買う物とかある?」


「あの……この世界って、魔力回復薬とかって高いんですか?」


「そっち系か!! この世界の魔力回復方法は薬じゃなくて、こんな形の魔力回復装置とこれ専用に加工された魔石なんだ。この装置を握って、この上の部分を押し込んだら装置が作動して魔力が回復するんだけど……」


 この世界にはよくある様なステータスの表示なんてないし、どのくらい自分の魔力が減ってるかなんて経験で覚えるしかない。


 この魔力回復装置は冒険者ギルドか魔法使いギルドで売ってるけど、本体さえあれば魔石を持ち込んで加工して貰う事もできるんだ。


 っていうか、本体がそこそこするから魔石の方は大体どこかで加工して貰う事の方が多い。


「へぇ~。すごく便利なんですね」


「魔力がどのくらい減ってて、今どの魔法まで使えるかってのは本気で感覚だから、何度も失敗しながら覚えるしかないね。慣れるまでみんな何度か痛い目を見てるけど」


 こればかりはマジで経験なんで教えようがない。魔力回復に関しては、俺はそこそこ魔力量が多いから使う機会もないしね。


【ソロですと魔法を使う機会も限られますしね。マスターはブレスの効果で麻痺や毒も効きにくい体質ですし】


 ありがたい体質だけど、それを過信してはいないけどね。ちゃんと解毒系とかの魔法は可能な限り覚えているぞ。


「それじゃあ、傷とかを治す薬はどうです?」


「こんな形の回復薬だね。これは飲んでもかけても効くってとんでも性能の薬。グレードで値段は変わるし、この辺りも感覚で覚えるしかないね」


 何度も言うようだけど、数値化されてないから仕方ない。


 極稀に偽物というか、水とかで半分に薄めて売ってる悪徳業者もいるから買う時は信頼できる店で買うのが一番だ。冒険者たる者、いくら安いからと言って露店とかで買うなんてあっちゃならない。


 俺は大丈夫だけど、新人冒険者が割と引っかかるんだよな。


 回復薬は冒険者ギルドで買うのが一番安全。値段はそこそこで、品揃えは若干悪いけどね。在庫は多いから、数を揃える時には便利だ。


 次に安全なのが薬系を専門に扱うお店。ここは冒険者ギルド以上に品揃えがいいんだけど、極稀にわけわかんない薬が売られてたりもする。客をモルモット扱いするのはやめような。


 最後が教会。一番高いけどお布施も含まれてるらしいから仕方がない。超強力な回復薬はここしか売ってないんだよね。ここで買うのは危険って言われてるのは、アイリス教への入信を勧められる事が多いからだ。この世界には信者も多いけどね。


「効果の怪しい回復薬を使うより、治癒魔法の方が安全で確実って言われてるからね。酷い骨折やザックリ切ったような大きな怪我は、治癒魔法じゃないと難しいし」


「やっぱりそんな感じなんですね……。四肢の再生とか死者蘇生とかはどうですか?」


「その辺りは教会の奇跡にお願いかな? 上級レベルの治癒魔法が使えれば、何とか四肢の再生は出来るらしいよ。死者蘇生は教会でも状況次第って話だね。死体の損壊状態とか色々条件があるって聞いた」


 俺も結構な数の冒険者に会ってるけど、今までだれ一人として四肢再生までできる回復魔法使いはいなかった。


 いやホント。マジで使える奴が居るのか?


「元の世界でしたら、何とか出来たんですけどね……」


「マジで? ディアナってそこまで高レベルな治癒魔法が使えたの?」


「これでも聖女でしたから……。ダンジョンでは気を付けないといけませんね」


「魔力回復装置は二つだけ渡しておくね。それひとつでそこそこ魔力は回復できる筈なんだけど……」


 俺も殆ど魔力回復装置それを使う事が無いんだよね。


 地下五階の隠し部屋には魔法を使わなきゃ倒せないような魔物は出ないし、怪我をする事も少ないから治癒系魔法もほとんど使わないんだよな。


 これでも中級までの回復魔法は使えるんだぜ。


【本当に何でもできる器用貧乏ですよね】


 本当にしたい事はできないけどね。それでもできないよりはいいさ。


 っと、説明はこれくらいでいいのかな?


「ありがとうございます。これで色々とわかりました」


「明日はディアナと出会った西のダンジョンに行くから、今日は別々の部屋に泊まるよ」


「……残念ですが、わかりました」


 意外に聞き分けが良かったな。


 もう少し粘ったり色々仕掛けてくると思ったけど……。


◇◇◇


 晩飯も食い終わったし、風呂にも入ってきた。


 この世界で風呂に入る場合、大きな風呂でゆっくり楽しみたければスパ銭みたいな大衆浴場はあるし、街によっては温泉まで湧いてる事がある。


 小さい風呂でよければ宿屋に小さ目の銭湯はあるし、先日みたいに部屋にシャワーが設置されている部屋もあるんだよね。


 この世界の人間もかなり風呂好きというか、清潔にしてる人が多いのはホントに助かる点だ。人ごみの中でも体臭とか香水臭くないのは凄い。ド田舎の農村は割とそうじゃないって話もあるんだけどさ……。


「明日はいつも通りのダンジョン探索。必要な物は特殊インベントリ内とマジックバッグ内に揃ってるし、特に気を付ける事はないか」


【流石にあのダンジョンの地下五階に、マスターを倒せるような魔物は出現しません】


 そりゃそうだけどね。


 問題があるとすれば、どのくらいの財宝が手に入るかだよな。


 今はディアナもいるし、出来る限り稼がないといけないからさ。


【地下十階を探索するという選択肢もありますが】


 あそこは地下五階以上に競争率が激しいしな。というか、一番冒険者が狙ってるのが地下十階の隠し部屋だ。


 下手すると一日粘って一回も隠し扉に辿り着けない事もあるだろ。


【運の問題ですので仕方がありません。もし仮に効率よく探索できれば、かなりの財宝が期待できます】


 五階の隠し部屋で探索して、隠し部屋一回で手に入る財宝の平均は八千ゴルダ程度。 


 十階だと平均で二万ゴルダまでは十分に期待できる。


 ただ、ギミックが複雑になるし、十階まで潜るとなると装備をもう少し何とかしないといけないんだよね。


「……っと。ここを押して……。あれ? 動かない!!」


 ん?


 ディアナの声が聞こえた。


「おっかしいなぁ~。説明書通りだと、これで動く筈なのに……」


 ああ、結局あの雑貨屋で玩具か何かを買ったのか。どうしても欲しい時ってあるし。


 魔石式で小型魔導モーター内臓の玩具って、大体みんな一回目に苦労するんだよな。


 展示している時に魔石を消耗しないように特殊な構造になってるから、アレを解除するのに何度も悩まされるんだよね。


 ……俺も幾つか持ってるし、解除用の道具を用意しておくか。


「う~、仕方が無いです。恥を忍んでライカさんに聞くしかないのかな?」


 意外に壁はしっかりしてるんだけど、運が悪いとこうして声が漏れる部屋もあるんだよね。


 隣が俺でよかったよ。って、ノックされたか。


「夜分にすみません。少しお聞きしたい事がありまして」


「はい。ちょっと待ってね」


 扉を開けるとそこには寝間着姿に外套を羽織っただけのディアナの姿が……。


 やっべっ!!


 これ、破壊力抜群だ!! 昨日あれだけ搾り取られてなかったら、このまま部屋に誘ってる所だよ。


「あの。この機械なんですが」


「あ~。これ系はここにこの解除用の棒を差し込んで、こうやれば大丈夫なんだ。大体みんな一回目は苦労するんだよね」


 差し出されたのは小さなピンク色のリモコン? という事は玩具の本体は分かれてるタイプか。


 本体は自立型のダンシング系玩具かな? 植物の形で踊ったりするのが割と人気で、貴族の子供とかでも部屋に飾ったりもするそうだ。


 後は回転系。こっちもいろんなタイプがあって人気の玩具だね。


「そんな物、ついていませんでした……」


「ん~、たまについて無い物もあるんだよね。それはあげるから今度からそれを使えばいいよ」


「ありがとうございます!!」


 ディアナもお風呂上がりだったし、ほんのりと甘い良い香りが……。


 って、ダメダメ。明日はダンジョン探索もあるし、この辺りはキッチリ自重しないとな。


「あ~、はずかしかったぁ」


 また声が漏れてるね。


 ……どんな玩具を買ったのかは知らないけど、ディアナって意外に幼いというか子供っぽい所があるよな。


 買った玩具ですぐに遊びたい気持ちは分かるけどさ。


 って!! なんだ? このカブト虫か何かが飛んでるような音は……。


 ああ、ディアナの買った玩具の音か!! ここまで大きな魔導モーター音がする玩具? 一体何なんだ?


「うわぁっ!! 思ったより音が大きいし、振動が凄いっ!! でも、これ……」


 音が静かになった。


 そういえば、さっきのリモコンにオンオフボタンの外にパワー調整のつまみがあったな。


 ホントにどんな玩具を買ったんだろ?


 とはいえ、他人の趣味には口出ししない。それがどんな玩具でも馬鹿にしないってのは常識からな。


 たまにまた魔導モーター音がするけど、気にしないで寝るとするか。


 おやすみなさい……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る