第五話 冒険者ギルドでディアナの登録をしよう


 翌日。


 ディアナは朝も強いのか、俺が起きる前にシャワーを浴びて身を清めたりしていた。


 とりあえず今日は冒険者ギルドに登録した後、ディアナがこの世界で暮らしていく為に必要な物を揃えないといけないよな。


「あ、ライカさんおはようございます」


「おはようディアナ。本当にこんな話し方でいいの?」


「はい。色々とお世話になっていますし、普通に話していただければ……」


 昨日あの後、ほぼ動けない俺の隣でディアナが色々と提案をしてきた。


 主に名前を呼び捨てにして欲しいだとか、話し方をあんな他人行儀じゃなくて普通にして欲しいとかだね。


「今日はとりあえず冒険者ギルドに行くのと、ディアナがここで暮らしていくのに必要な物を買いに行こうかなと思ってる」


「確かに着の身着のままですので、肌着とかは買いたいですね」


「後で行く雑貨屋通りは女性専用の服屋とかもあるし、必用な物は揃うと思うぞ」


 問題は資金だけど、先に冒険者ギルドに行って昨日手に入れた物を売れば、そこまで俺が追加で出さなくてもいいだろう。


 その辺りも昨日の話し合いで決まったんだけど、とりあえず冒険者活動で手に入った物は買い取って貰った後に半々で処理。昨日俺が出した分は俺の奢りって事にして、今日以降は出来るだけディアナも自分の分は自分で払うって方針だ。


 の回数は翌日にダンジョンに潜らない日。これを三日に一回として、それで我慢して貰う事になった。


 ディアナはめっちゃ不満そうで毎日でもしたいって主張してきたけど、そんなに毎日あの部屋は使えないしをした翌日に不安が残るからな。


「本当に豊かな世界なんですね……」


「俺が元居た世界基準で見ても、ここは割と豊かな世界だと思うよ」


「この世界に飛ばされてきて、ほんっとうによかったです。昨日の夜ほど女神プリムローズ様に感謝した事はありませんでした」


 そこまで!!


 いや、の最中もすっごく楽しそうだったけどさ。


 ディアナの食生活に関してはかなり改善される事は間違いないし、今回の件は良い異世界転移だったのかな?


 誰にとってって事は、とりあえずおいとく。


「それじゃあ、冒険者ギルドに向かおうか」


「わかりました。よろしくお願いします」


 一緒に歩くけど、流石に手を繋いだりとかはしない。


 ディアナが美人なんで結構視線を感じるというか、露骨な視線も多いんだよね。


 とりあえず、俺は愛想を尽くされないように頑張らないとな。


◇◇◇


 冒険者ギルド。いろんな国が絡んだ組織で、既に国の枠を超えているので国からの命令とかも無視できるこの世界でもかなり特殊な存在だ。


 冒険者ギルドの仕事は多岐にわたる。基本は冒険者として登録にきた者の管理、討伐護衛など各種依頼の難易度の認定と必要な人員の手配などで、次に多いのが冒険者が持ち込んだ採集物の鑑定と買い取りなど。採集物として集められる各種薬草や霊薬の効能の研究、そして完成した回復薬などの販売も行っているぞ。


 他にも魔物やダンジョンなどの研究、冒険者の戦力アップの為の訓練などの受付もしているし、魔物が異常発生した時などは冒険者を募って防衛任務や迎撃などまで行う……。


 運営資金は回復薬などの売り上げや、冒険者が持ち込んだ採集物などの販売による利益。それと国や商会からの寄付で成り立っているという。


 国から独立している機関と言えば、他にも魔法関連では魔法使いギルドがあるし、この世界の暗部になるけど、盗賊ギルドなども存在してたりする。流石にここを利用する人は少ないけどね。


 その辺りは当然、冒険者ギルドとは別の場所にあるよ。


「あの、想像していたより立派な建物なんですが……」


「この迷宮都市フォーメイズにある冒険者ギルドは、この辺りの冒険者ギルドの本部なんだ。だからここまでデカいんだけど、やっぱり最初は驚くよね」


「あそこまで敷地内ですよね?」


「もう一つ先の区画まで冒険者ギルドの敷地だよ。魔物の解体場とかあるから、これでもかなり手狭なんだって」


 ダンジョン外に出る魔物は流石に勝手に消えたりしないし、魔物を倒したからといってドロップアイテムがある訳じゃない。


 みんな倒した後でマジックバッグに突っ込んで、ここで解体と素材なんかの買い取りをお願いするって事なんだ。


 解体方法が下手だと買い取りの査定が驚くほど下がるから、自分で解体する冒険者は殆どいないって話だね。


「凄いんですね……」


「この街は冒険者の数も多いからね。色々手続きがあるから、とりあえず中に入ろうか」


「はい」


 この何気ないやり取りだけでディアナってにっこにこなんだけど……。本気で異性と話す事なんか殆どなかったらしいしね。宿や他の場所で俺以外の男もみた筈なんだけど、他の男性には意外に冷たい視線を送ってるんだよね。流石に誰でもいいって訳じゃない訳か。


 冒険者ギルドの扉をくぐると、その先には細かく分類された受付の案内板が並んでいる。いや、マジでこれでもかってくらいにな。


「えっと……」


「冒険者登録はあっちだね……。今日は新規登録者の数が少ないみたいだし、すぐに終わりそうだ」


「そんなに手続きって面倒なんですか?」


「ディアナは今朝必要な書類を書いてくれたから、これを提出して冒険者カードを受け取るだけだよ。この書類が無いと、本当に一日仕事になる事すらある」


 冒険者カードに登録する名前は本名でなくてもいいし、通り名でも問題ない。


 大体このカードに付属する機能なんてないし、あくまでも冒険者としての身分証明書でしかないからね。この世界の冒険者ギルドに冒険者としてのランクや能力だとかは無いからさ。


「おい、あいつ。【魅惑みわく星天せいてん亭】の元副料理長の……」


「ああ。次期店長争いに負けて冒険者に専念するようになったライカだ。あんな美人を連れてやがる」


「いいご身分じゃねぇか……」


 ん~っ? 珍しいな。


 こんな事を言うような奴らじゃない筈なんだけど、流石にディアナが美人過ぎるからせめてやっかみでを言わずにはいられませんってか?


「お前ら、冒険者の過去を口に出すとはいい度胸だ」


「すまんなライカ。こいつらは後できっちり教育をしておく」


 ギルド職員が来て今喋ってた奴らを連行していった。冒険者の過去や身分なんて、こんな所で口にするのはご法度だろうに。


「あ、ギルマス。事実ですし気にしてませんよ。ただ、ひとつ訂正させていただければ、魅惑みわく星天せいてん亭次期店長のルッジエロの奴は天才でしたし、俺が冒険者に専念したかったんで地位を譲ったって事情もありますんで」


 俺が圧勝した最終審査の後で、フラージアお嬢さんがルッジエロの奴を選んだのは事実だけどさ。


 それもルッジエロの顔の方が好みだったとかいう、身も蓋もない理由だったし。


「冒険者としても成功してるライカと違って、あいつには料理しかないだろうからな」


「そんな事より、彼女の冒険者登録をしたいんですが」


「冒険者登録か……。書類は?」


「ばっちりです」


 この書類が問題なんだよな。


 冒険者の多い迷宮都市フォーメイズは意外に識字率が高いし、読み書きがある程度できる奴らも多い。


 しかしそれはあくまでも多いだけで、マジで字は書けないペンを持った事すら初めてなんて奴が結構混ざってるんだよね。


 そして、そういった冒険者に最低限の文字を教えて書類を一枚書かせるだけで、一日の業務が終わる冒険者ギルドの職員も珍しくない。終わった後は真っ白になりそうな位に燃え尽きてるって話だ……。


「おおっ!! こうして綺麗に書きあげられた書類を見ると、思わず目頭が熱くなるな……」


「そこまでですか!!」


「最近はまた冒険者志望が多くなってな。文字を書く機会が無い奴は文字を覚えたりせんだろう? 少し待っててくれ、すぐに冒険者カードを発行する」


 簡単な読み書き計算ができないと冒険者の依頼を受ける時に困るし、報酬の受け取り時にごまかされたりする事も多い。


 何度か痛い目を見た後で冒険者ギルドの研修なんかを受けるケースは多いが、最初から色々と習ってくる奴はほぼいない。


「よし、ディアナ。冒険者カードが出来たぞ。って」


「彼女……、私がライカのかのじょっ……」


 どうやら俺の彼女発言辺りから、この状態だったみたいだね。


「ディアナ。冒険者カードだぞ」


「はっ!! じゅるっ……」


 ディアナのこういった面だけは、ついていけない部分があるよな。


 まだ二日目だけど……。


「ダンジョンドロップ品の買い取りカウンターはあっちだから。行くよ」


「あ、はい!!」


「今回は結構するとは思うんだけど、どうかな……」


 ダンジョンのお宝も流石にピンキリというか、ゴミの様な物もあれば目も眩むような財宝もある。


 隠し部屋でギミックを作動させて出す宝箱の中身は殆どハズレが無いから、平均すると一番買い取り値が高い宝箱って言える筈だ。


 俺の潜る【智】のダンジョンと呼ばれる西のダンジョンでは五階刻みでこの隠し部屋が出現し、一番深い地下五十階の隠し部屋には金銀財宝の山が隠されているといわれている。


 ただし、地下五階の隠し部屋ですら地下十五階や二十階の魔物が出現するし、深い階になればなるほど隠されているギミックも複雑怪奇な物になっていく。


 他の冒険者だと地下十五階の隠し部屋辺りが限界で、俺でも地下二十階にある隠し部屋までしか攻略出来ていないってのが現実だ。あそこより深い場所に行くと、中にいる魔物が厄介なんだよね。ギミックも複雑だし……。


 地下五階で隠し部屋を探す冒険者は多いし、結構な数のライバルがいたりするんだけどね。一番人気なのは地下十階の隠し部屋で、極稀に地下十五階に挑戦する冒険者がいるらしい。


 一定時間で沸く隠し扉をどれだけ早く探せるかが勝負の分かれ目なんだけど、俺にはがあるから流石に勝負にならない。


【反則ですよね~】


 使える物は全部使わないと、ダンジョンに失礼だぜ。


 西のダンジョンでは、二時間に一回出現する隠し扉の先に隠し部屋が存在する。


 俺があの西のダンジョンに潜っている時、地下五階にある隠し部屋の半分以上は俺が攻略してるって言われてるしな。


 それでも探し負ける事も多いんだぜ。


「全部で一万六千ゴルダですね」


 ディアナにあげた銀のナイフ分マイナスで、大体計算通りの査定額になったか。


 二人で割ると八千ゴルダ、日本円にして約八万円。いろいろ買い揃える事を考えると、本当にギリギリな額になったな。


「それじゃあ、これがディアナの取り分の千ゴルダ銀貨八枚。いろいろ買わないといけないから、まだ無駄遣いは控えてね」


「ありがとうございます。大切に使います」


「この後は商店街で買い物だけど、とりあえず雑貨屋かな……」


 冒険者ギルドもあるこの南のエリアに存在する雑貨屋通りのなんでも屋。


 あそこは雑貨屋が多いし、根気よく探せば本当にいろんな物が見つかるんだよね。


 他に下着類や服なんかも必要だけど、細々とした物はあそこで買うのがいいだろう。


 おそらくあの八千ゴルダのほとんどを使いきっちゃうだろうし、明日も西のダンジョンに潜らなきゃいけなくなりそうだ……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る