第四話 床上手って……、聖女だよね?




 二人部屋の中でも割と高い色々と揃った部屋を選んだのは、俺がこの後の事を期待しているのか、それとも……。


 シャワーまで完備してる部屋って、二人部屋だけど一泊五百ゴルダもするんだよね。


 その分部屋はかなり広いし、部屋の造りもいいんだけど……。こんなに高い部屋を利用する客は滅多にいないから、周りの部屋が殆ど空き室だけどさ。


 とりあえず、やらなきゃいけない事も残ってるか。


「さて、今後の話し合いの続きですかね」


「今後……、ですか?」


「これからディアナさん的にはどうしたいんですか? その、こうして冒険者をして稼ぐって方法もありますし、街で探せば仕事は幾らでもありますけど……」


 冒険者稼業は気楽だけど、それでも命が危険に晒される事は間違いない。


 幾ら死人が少ないといっても、一年を通してみればこの街だけでも結構な数の死者はでてるしね。俺が今日いたあのダンジョンでも、地下三十階より下だと月に一人くらいは犠牲者が出るんだ。


「その場合はこの世界の常識とか、色々と覚えなければいけませんよね? しかも働けるだけの知識量で」


「それは必須と言いますか……」


 ただでさえ今からこの世界の事を色々覚えないといけないのに、働く為に更に追加で色々な知識を覚えなければいけない。


 うん、正直かなりキツイと思う。


 冒険者の場合は冒険者ギルドに登録するだけでいいし、必要な知識はゆっくり覚えていけばいい。


 ディアナさんさえよければ、俺も多少はサポートできるし。


「ライカさんがよければ、しばらくは冒険者として活動したいと思うのですが……」


「俺でよければ、幾らでもサポートしますよ」


「本当ですか!! 本当に本当ですね?」


「ええ……、そこまで言うとなると、何か問題が?」


 あ、あれか!!


 俺と合流する前、ディアナさんって魔法が使えないとか散々嘆いてたよな。


 それで手にした杖でオークを思いっきりぶん殴ってたし……。


「この世界には女神プリムローズ様の力が届かないみたいでして、私は聖女なのにこの世界ですと魔法が一切使えないんです。翻訳の力は私の力なので、使えているみたいなんですが……」


「魔力はあるんですよね?」


「身体の中に魔力の流れは感じますし、こうして強引に使う事は可能なんです」


 魔力を指先に集めて、強引に光の魔法を発動させたみたいだね。


 俺もやろうと思えばできるけど、この方法だと普通にライトの魔法を使う場合に比べて百倍近い魔力を消費する筈。


 ライトみたいな魔法だったらともかく、こんなに非効率じゃ攻撃魔法とか回復魔法は使えないよな……。


 にしても、これが出来るって事はディアナさんの魔力は相当に多いぞ。余裕で俺以上だろう。


【ディアナさんの魔力を測定しましたが、マスターの五倍はあります】


 五倍って、マジか……。


 そりゃ凄いな。俺もかなり魔力が多い方なのにさ。


「ディアナさんの魔力量が凄いのは分かりました。となりますと、冒険者をする際に選ぶクラスですけど……」


「決めなきゃいけないんですか?」


「この世界だと特にないですよ。ただ、その格好だと色々誤解されそうなんで、もう少し魔法使い寄りの格好にした方がいいかもしれません」


 そう、特にないんだよね。この世界にはよくある様な冒険者のクラスだとか、冒険者の職種だとかそういった縛りが一切ない。


 あるとすれば女神アイリスを信仰するプリーストくらいかな? 一応服に決まりとかがあるらしい。


 という事でこの世界では剣士の格好してるのに強力な魔法を使う冒険者もいるし、何をメインにしてるのか分からない格好をしてる冒険者もいるんだ。


 俺だって槍を使う剣士風冒険者だけど、戦闘スタイルはかなり異質だしね。


「あの……、魔法が使えないんですよ?」


「状況的に言えば今はまだ使えないだけですね。これを試してみますか? この世界の魔法適性調査盤なんですが」


 この世界で魔法を使う場合、魔法の適性があるかどうかがかなり問題になる。


 はっきり言えば、ディアナさんクラスに魔力があっても、適性が無いとその属性の魔法が使えないんだよね……。


 強引に灯火ライトを使っていたから、光属性はあると思うけど。


「あの、どうやればいいんですか?」


「その下の宝石に触れて……、そこに魔力を流すだけです」


「こう……、ですか?」


「それで大丈夫です。後は判定待ちですね」


 魔法適性調査盤を流れる魔力が、ディアナさんが使える魔法の属性を教えてくれる。


 魔法適性調査盤に刻まれているのは火・水・風・土・回復(聖)・光・闇。この辺りが基本的な属性で、精霊・神・オリジナル辺りがほとんどだれも持っていない超特殊な属性になる。


 盤に埋め込まれている各種属性の宝石が光れば大丈夫なんだけど、さてディアナさんはどの魔法の適性があるのかな?


「火と風。それに光と……。ディアナさんの魔法適性はこれで全部です」


「残念ながら回復属性は無いのですね。この世界の回復系魔法って、女神様に祈ったりしないんですか?」


「この世界の回復魔法は、回復魔法の術式に魔力を流せるかどうかですね。この世界にも女神アイリスを信仰する教会とかありますけど、そこで祈る位ですので」


 それでも毎日祈ってると良い事があるって聞くね。


 やっぱりマジで女神様とかいる世界だし、祈ってたらそりゃご利益位あるよ。


 そんな事より、ディアナさんの適性魔法だ。


 三つってのは割と多いんだよね。普通はふたつ位しか適性が無い人ばかりだから。ただ、属性があってもその属性の魔法を全部使える訳じゃない。


 どの属性でも低レベルの魔法は使えるけど、高威力の魔法になると流石に使える人は殆どいないからさ。適性はあるけど才能はそこまででもないケースだね。


「とりあえず俺が持ってる、【ファイアバレット】と【エアカッター】のスクロールを使ってください。それでこの二つの魔法だけは使えるようになりますので」


「ありがとうございます。この世界の魔法って、こうやって覚えるんですか?」


「魔法使いギルドがありますので、そこで覚える方法もありますよ。授業料はかなり高いですけど」


「ではこのスクロールは?」


「ダンジョンでたまに宝箱からドロップするんですよ。後は魔法使いギルドか魔法屋でスクロールを買うかですね。スクロールにはもう一種類存在しますが、そっちは覚えなくてもいいですよ」


 スクロールには二種類あって、こうして覚える為のスクロールと指定された量の魔力をスクロールに流せば発動する使い捨てタイプが存在する。


 高威力の魔法が使えるから使い捨てタイプのスクロールは確かに強力だけど、要求してくる魔力が膨大なんで使える人がほとんどいないっていう笑い話だ。


 だからダンジョンとかのドロップで買い取りして貰えるのは覚えるタイプのスクロールで、一般的にスクロールと言えばこの覚えるタイプを指すんだよね。


 魔法使いギルドの役目は魔法の普及と魔法使いの育成なんで、金さえ払えば低レベルな攻撃魔法位教えてくれる。


 魔法屋で扱われるスクロールの価値は時価というか、在庫が多いと当然安く買い叩かれるし、逆に在庫切れだとこのクラスの魔法でも結構いい値で買ってくれるんだよね。


 今は比較的にダフついてるというか、一番高い時の半値位なんで売らずにマジックバッグに突っ込んでたんだよな。


 今日はそれが思わず役に立ったけど。


「魔法の売り買いが認められているんですか?」


「……もしかして、ディアナさんの元の世界だと禁止されているんです?」


「魔法の売り買いなんてしたら、当然死刑ですよ。女神プリムローズ様に喧嘩を売る行為ですし、危険じゃないですか!!」


「この世界でも売っているのは、精々中級レベルの魔法までですよ。流石にそれ以上の威力がある魔法は魔法使いギルドで正式な教育を受けないと教えて貰えませんし、かなり才能が無いと覚えられませんが」 


 極稀にダンジョンで高レベルな魔法のスクロールを見つけて、そのまま運よく覚える奴もいるけどね。


 使いこなせれば国に仕官できるけど、発動に失敗した時は仲間ごとこの世から消える事になる……。魔法って存在はやっぱり危険なんだよな。


 ある程度知識があれば、自分で魔法を作り出す事は可能だけど、これはオリジナルとはまた別系統の魔法って事になるらしい。


「そうなんですね。……本当に何から何までありがとうございます。あの、どうして見ず知らずの私に、ここまで親切にしてくださるんですか?」


「情けは人の為ならずっていってね。困ってる人を助けるのは……」


 俺がヒーローだからさ……。


 そういいたかったけど、今の俺は変身もできない半端者だ。


【変身できなくても、マスターは立派なヒーローです!!】


 サンキュ。


 さて、どう答えたものかな?


「ディアナさんが美人ってのが大きいのかもしれませんよ。俺も男ですし、下心が無いっていえばウソになりますし」


「下心……」


「いえ、冗談ですって。流石に……」


「冗談……、なんですか? 私はライカさんに出会ったあの時から、ず~っとこの瞬間を期待していたんですよ」


 え?


 ディアナさんの顔はマジだ。


 というか、この状況って据え膳どころじゃない気がするぞ。


「でも、ディアナさんの元の世界って男の人がいないって話ですよね?」


「はい。ですからそっちの手ほどきは女性で……。って、何を言わせるんですか!! もしかして、ライカさんも異性との経験が無いとか?」


「いえ。俺は異世界転生者ですので、前世で何度か経験ありますけど……」


「それじゃあ問題ありませんね。色々頑張ってきましたので、おそらく私は床上手だと思うんですよ~。絶対にライカさんを満足させてみせますので」


「あの。出会ったその日ですが、一目惚れって事で……」


 この流れからは逃げられそうにないし、おとなしく据え膳を頂くとしよう。


 前世でも経験があるし、多分問題ないだろう。


「それでは……」


「ライカさん……」


 こうして俺とディアナさんの長い一日が終わった。


◇◇◇


 教訓。


 前世で俺が得た女性との経験なんて、ディアナさんにとってみれば児戯じぎにも等しいレベルだと悟ったのは、身体を重ねて僅か数分後の事だった。


 彼女のいう床上手がどんなレベルか、俺はそれを身を以て理解したよ……。


 とりあえず彼女と同室でこういった行為をするのは、せめて数日に一日にして貰おう。


 でなけりゃ、俺がもたない……。




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