第12話

 なんやかんやで、俺も仲間に入りビーチバレーをする羽目になった。

あご美の様子がそれからすっかり変わったからだ。にこやかにしているが、動きが硬い。心ここにあらずな雰囲気だ。

 そんな中、「気合いを入れなっ!!」と、アンパンがあご美を一喝した。

「はいっ!キャプテン!」

と、あご美はほぼ体育会系のノリで、ビシバシサーブを繰り出した。ジャンプや鉄ちゃん達が取れないような球を、アンパンがバンバン拾う。ひらめや凶相は「殺す気?!」と逃げ回る。

「これじゃあビーチバレーじゃないっスよ〜」

「何言ってんの!本来ビーチバレーとはこういうものよ!」

「違う〜楽しくないッス〜」

ジャンプが泣きを入れると、

「そうよそうよ!ドッヂボールじやないんだから〜」と、ひらめや凶相も同意。

ようやく、ジャンプの望む、キャッキャ楽しいビーチバレー遊びになった。

 あこ美もなんだか吹っ切れたようで、アンパンはこれを狙っていたのかも知れない。

 しばらく遊んだのち、浜茶屋で一休みしようと、ジャンプが席を取りに走った。元気な奴としか言いようがない。妖怪だから疲れないと言っても限度があるだろうが。「私も行きます」と、後をあご美が追う。

 楽しそうに、パラソルの下の荷物を片付けるメンバーを横目でみながら、鉄兄が俺に近寄って来た。

「なご美さんのご友人は、珍しい方達ですね」

まあ、顔は特注品だろうよ。

「弟があれほど女性に馴染めるとは思いませんでしたよ」

全て電車にみえるんだろう?と言うと、鉄兄は、トーマスやら何やら、車両を呟きくっくっと笑った。

「腐女子とオタクで気が合うんだろうよ」

「そうでもないですよ。同系の趣味でもない限り。でもまあ」

「あご美でなくても良くなった。という訳か」

鉄兄は曖昧にうなづく。

「何がどう転がるか、解らないものですからね」

二人でぶらぶら浜茶屋に向かいながら、鉄兄はしみじみ言った。

 そんなおり、行き先から、子供の甲高い泣き声が聞こえてきた。何やら騒ぎが起こっているようだ。

「あれ、なご美さんじゃないですか?」

 あご美が人相のよくない男に絡まれている。先ほど会った同級生の子供が、男にジュースをぶっ掛けたようだ。謝る同級生に、いちゃもんをつける男。周りの奴らは怖そうに遠巻きに見ているだけ。そこへ、あご美が加勢したようだ。

「さっきから見てましたが、貴方の方がいけないんですよ!この子は、貴方のわざと放り出した足に引っかかっただけなんですから」

「お前には関係ないだろ。ひっこめ。このどぶすが」

と、男が拳を振り上げた所に、いち早くジャンプが飛び込んで制した。

「俺の出番っス!ここは、俺に任せて!」

と、爽やかな笑顔をあご美に向けた瞬間、相手の拳がジャンプの頬にジャストミート。

 殴られて、ものすごい勢いで吹っ飛ぶジャンプ。こいつは何がしたかったのか?元、傘なのだから、ウエイトは半端なく軽い。パンチだって、弱弱。だから、いじめられていたのだろうが。

 やれやれ。

 俺は後ろから男の手首を掴んだ。でかい男に吊り下げられるようにされ、しかもすごい握力で締め付けられ、男の目はすっかり泳いでいる。

「もういいだろう。あいつを殴ってスッキリしただろうが。これ以上やるんなら、俺が相手になるが」

こいつだけに、俺の本当の姿を見せてやると、狼頭のでかい口と尖った牙をみて、腰を抜かさんばかりにびびって逃げていってしまった。

「本当にありがとうございます」

同級生は、俺に礼を言った。近くで見るとより一層美人だ。パッチリとした目。通った鼻筋。桜色の唇。同じ人類か?少しはあご美に分けてやって欲しい。

 同級生は、モジモジしているあご美の手をとり、「ありがとう」と微笑んだ。それに対してあご美はモゴモゴ言っている。

 そこへ、不細工達が走って来た。ヒラメと凶相がジャンプを起こしている。

 ジャーが、同級生の美人っぷりにちょっと引きながら、あご美に「大丈夫?」と声をかけた。

 うん。美人ではなく、あご美に声をかけるところは、得点が高いぞ。

「あら、美咲。おひさしぶり」

アンパンが同級生を一瞥した。

同級生はにこりとすると、「じゃあ、またね」と、手を振って去っていった。

 嬉しそうに手を振るあご美と、美咲の背を胡散臭そうに眺めていたアンパンが言った。

「なに?助けてやったの?あんたもお人好しね」

あご美が困った顔をすると、アンパンは励ますようにでっかい背中をぽんぽんと叩いた。

 何やら訳ありのようだが、俺には関係がない。婚活さえうまく行けば良いのだ。

 立ち上がったジャンプを支え、

「そろそろ戻りましょうか」

と、鉄兄が言う。

あご美はようやく気づいたように、「大丈夫でしたか」と言うと、砂まみれのジャンプは力なく笑った。

 駐車場まで、ジャンプはずっと黙って最後尾を歩いていた。皆んな、殴られたから、だけでなく、あらゆる意味で痛いからと、そっとしていた。中でもジャーは「若さゆえの…、くっ…」と訳のわからんことを言って鼻を啜っていたが。


 



 














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