第22話 話し合い②
俺のバイト先のファミレスで、木房さんと向かい合って話す事になった。隣にいる美海がこっそり手を握ってくれたおかげで頑張れそうだ。
「う~ん、どれにしよう?」
木房さんはメニュー表を手に取り、のんびり眺めている。
俺のおごりだから遠慮なく頼む気か? “高いのは止めてくれ”と言ったが、具体的な金額は言っていない。木房さんはどう出る…?
「このパフェおいしそうだけど、アタシ1人じゃ厳しいな~」
メニュー表は見えなくても、俺はここのスタッフだ。何を見ているかは大体わかる。この店の全てのパフェは家族や恋人と一緒に食べるのを想定してるから、1人前ではない。
当然値段もそれなりにする。本当に容赦ないな…。
「そうだ! 美海ちゃんも一緒に、このいちごパフェ食べようよ!」
木房さんはメニュー表をこちら側に向け、商品画像を指差す。
「でも…」
美海は心配そうに俺を観る。
「このパフェ、画像通りの大きさなんだよ。木房さん1人で食べ切るのは大変だろうし、美海も一緒に食べて良いよ」
美海も食べてくれるなら、俺の気も多少は紛れる。
「お兄さんもそう言ってるし良いじゃん」
「うん…」
それでも美海の調子は変わらない。木房さんと比べて、優しくて良い子だな!
「約束だし、このパフェだけにしよ。注文するからね」
そう言って、呼び出しボタンを押す木房さん。
……ホールにいる姉ちゃんが、俺達のところに来る。
「ご注文はお決まりかしら?」
「お姉さんこれちょうだい!」
さっき同様、メニュー表の商品画像を指差す。
「…わかったわ」
姉ちゃんは心配そうに俺を見てくれた。合意の上だから大丈夫だよ。
「注文はこれだけ。“なるはや”でお願い!」
用件が済んだので、姉ちゃんは俺達から離れていく。
「やっと、お兄さんとゆっくり話ができるね♡」
その笑顔が怖いんだが…。俺も覚悟を決めないと!
「結局、何でアタシをブロックした訳?」
この質問は朝会った時にも訊かれたし、シミュレーションは何度もしてきた。ただ、どう答えるかは今までずっと悩んでいた。
控えめに言うか・きつく言うかの2択でだ。それをこれまでのやり取りで判断した結果…。
この子にはきつく言ったほうが良いだろう。もちろんこうなった原因は俺にもあるが、木房さんのワガママも相当だ。
一応年上として、ビシッと言うべきだな。
「それはね、君がたくさん送ってきたメッセージに嫌気が差したからだよ」
「嫌気? お兄さんが無視するのが悪いんじゃん!」
「無視してないよ。少し昼寝をしていただけなんだ」
美海と一緒にな。
「ふ~ん。昼寝なら仕方ないか~。本当の事を言ってたらの話だけど」
簡単には信じないか。事実だし、これ以上説明しようがない。
「交換する時に言ったけど、俺はバイトで忙しい。目を離した隙にあれだけ送られると困るんだよ。だから今後の事を考えてブロックしたんだ」
「だったらさ~、ブロックの前にそう伝えるのが普通じゃん? 無言ブロックするなんて、お兄さんには常識ないの?」
「…木房さんの言う事は正しい。でも、君に常識を語る資格はないよ。美海を尾行して不安にさせた上に、自宅を突き止めたんだから」
「……」
さすがにきつく言い過ぎたか? 年下の女子だから、加減が難しい。
「アタシ、お兄さんと仲良くなりたいの。その気持ちを抑えられなくて、気付いたらたくさんメッセージを送ってて…」
木房さんは目を赤くして泣きそうな声で訴えかけてくる。俺、やっぱり言い過ぎたのかな…?
…足音が俺達のテーブルに近付いてくる。確認すると、姉ちゃんがトレイにいちごパフェを乗せている。
「お待たせしたわね。いちごパフェよ」
姉ちゃんはテーブルにいちごパフェを置き、スプーンを3本置く。俺は食べる気ないが、いちいち言うのも面倒だ。
その後、彼女は木房さんをチラッと見てから俺の耳元でこう囁いた。
「『涙は女の武器』なの。油断しないで」
どういう事だ? 本人が目の前にいたら、確認のしようがない。
「ごゆっくりどうぞ」
姉ちゃんは再び俺達の元を離れる。
「…美海ちゃん、一緒に食べよ」
「うん…」
今の木房さんの声は、さっきと同じように涙声だ。油断しようがないぞ? 今の俺と木房さんには落ち着く時間が必要だし、このままのんびりしようかな…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます