第23話 話し合い③

 俺のバイト先のファミレスで、木房さんと美海は俺が奢るいちごパフェを食べている。今は俺達共に頭を冷やす時間が必要だから、話し合いは一時中断だ。


…木房さんはまるで自分で注文したかのように、躊躇なく食べている。さっきまで泣きかけていたのが嘘のようだ。


それに対し、美海は俺をチラチラ見ながら遠慮がちに口に運ぶ。経緯はどうあれ、今はおいしそうに食べて欲しいんだが…。



 ……木房さんと美海がいちごパフェを食べ終えた。2人には多いかも? と思ったが“甘いものは別腹”かもしれない。


「パフェおいしかったよ。ごちそう様」


「そ…そうか」

急にしおらしくなると対応に困る。


「お兄さん。アタシが悪いところは直すから、ブロック止めてくれないかな?」


「……」


そもそも、俺は空いた時間を姉ちゃんと美海のために使いたいのだ。木房さんのメッセージの多さは気になったが、それは全てじゃない。


「学校で言ったけど、アタシ達中学生が高校生に会える時は滅多にないの。ママはSNSに厳しいし、お兄さんは貴重な存在なんだよ」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど…」


「じゃあ何がダメなの!?」

木房さんはイライラした様子を見せる。


こうなったら最終手段だ。シスコンを暴露して諦めてもらうしかない。暴露には勇気がいるが、覚悟を決めないと!



 「木房さん。俺、シスコンなんだよ」


「それは大体予想ついてる。美海ちゃんの授業参観に来るんだからね」


ここで引かないか…。女子はシスコンを嫌がるはずなんだが。


「俺のシスコンは、君の想像を超えているよ。絶対に」


「ふ~ん。言葉だけじゃよくわからないけど?」


「じゃあ今から証明してあげるよ」

俺は隣に座っている美海の頬にキスをした。


「えっ? お兄ちゃん急にどうしたの?」

突然のキスで戸惑う美海。


「……」

木房さんは口をポカンと開けて呆然としている。


問題はこの後だ。これで引いてくれなかったら…。


「…確かにアタシの想像以上だよ。キモ」

一瞬でゴミを見るような目に変貌する。


切り替えが早くて助かるとはいえ、やはり面と向かって言われるのは辛い。


「アタシからは2度と連絡しないよ」

木房さんは立ち上がろうとする。


「待ってくれ! この事なんだが…」

俺はともかく、美海に対して悪口を言うかもしれない。


「誰にも言う訳ないじゃん。こんな気持ち悪い事」


「ちょっと蜜柑ちゃん…」

遠慮がちに美海が声をかける。


「アタシが美海ちゃん達に何か言うとしたら…、“程々”にね」

そう言い切ってから、木房さんは店を出て行った。



 木房さんからの連絡を阻止できたものの、俺の気持ちは傷付いた。果たして勝ったと言えるのか?


「お兄ちゃん。キスされて嬉しかったけど、外だと恥ずかしいから止めて欲しいな」

モジモジしながら言う美海。


「ごめん美海。木房さんとの関係が悪くなって…」

シスコンの件を言わないとはいえ、間違いなくヒビは入っただろう。


「気にしないで。席替えで近くなるまで、話した事なかったから」


「…まったく、無茶するわね」

姉ちゃんがいちごパフェの容器を片付けながら言う。


「見てたのか?」


「手が空いてる時はずっと。キスはさすがに予想できなかったわよ」


「だろうな…」

俺だってそうするつもりはなかった。


「あの時の木房さんの言葉を気にしちゃダメよ。なんだから」

姉ちゃんは俺の頭を撫でてきた。


「ああ…」


「明日からお母さんは2泊3日の温泉旅行だから、いっぱい慰めてあげる♡」

そう言い残し、姉ちゃんは俺達から離れる。


やっと、あの時聴いた旅行の日が目前になったか。(8話参照)


母さんは旅行の事を言う時にカレンダーを指差したが、あれは2か月分表記してたからだいぶ先の話だったんだよな…。


「あたしもお兄ちゃんを励ますからね!」


「ありがとう美海」

頭を撫でようと思ったが、外なので自重した。


「よし、そろそろ帰るか」


「そうだね、お兄ちゃん」


俺達は会計を済ませるためにレジに向かう。

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