第20話 来ちゃった♡

 木房さんの〇インをブロックした事で、俺の携帯に平和が訪れた。これからもその状態が続くと思ったが、期待は早くも裏切られる…。



 ブロックしてから数日後。夕食まで、美海の部屋で2人きりで話してる最中…。


「あたしの気のせいかもしれないけど、帰る時に尾行されてる気がするんだよ」


「尾行だって?」


美海の表情的に、深刻そうには見えないが…。


「うん。心当たりはないから、やっぱり気のせいだよね」


詳しい状況を知らないから何とも言えないが、本当に気のせいなのか? 美海は可愛いし、男子がこっそり尾行してる線も考えられる。


「その油断が命取りかもしれない。中学から家まで近いとはいえ、気を抜いちゃダメだぞ」


本当は俺が付き添いたいところだが、学校が違うから不可能だ。万が一の備えて自衛してもらうしかない。


「は~い」


「俺も不審者に気を付けるようにするよ。話してくれてありがとな」


「えへへ♪」


美海は頭を撫でられると、本当に嬉しそうな顔をする。


「もうそろそろ夕食の時間だし、リビングに行こうか」


「そうだね、お兄ちゃん」



 夕食を済ませ、美海が最初に風呂に入ってる間に姉ちゃんの部屋にお邪魔する。用件は言うまでもなく、さっき美海が教えてくれた件だ。


「そんな事があったの…。困ったわね」


「だろ? それだけの情報だと、警察は動いてくれないしな」

証拠がないと警察は動かないのは、高校生の俺でもわかる。


「まさか…、この間の模倣犯?」


その言葉を聴いて、マンションの渡り廊下から双眼鏡で家の中を覗く不審者がいた事を思い出す。あの時は回覧板で注意喚起されたが、言い換えれば手段や方法が多くの人に知られている。


なので、姉ちゃんの言う通り真似する事は簡単なのだ。


「よくわからんが、姉ちゃんも気を付けてくれよ」

俺より年上とはいえ女性だ。何があるかわからない。


「心配してくれてありがとう。…ちゅ♡」


頬にキスされた。気がかりな事があるせいで、いつものように喜べない。


……階段を登る音が聴こえる。美海が風呂から出たか。


「美海が上がったみたいね。次は大地の番よ」


「ああ。…じゃあな」

俺は姉ちゃんの部屋を出た。



 翌日。朝食と準備を済ませた俺と美海は、登校するために一緒に家を出る。姉ちゃんも大学に行くみたいだが、朝早くから行く必要はないらしい。


美海と一緒に歩いてる時、曲がり角から1人の女子がこっちに向かって歩いてくる。恰好を見る限り、美海と同じ中学の生徒みたいだが…。


「お兄さん来ちゃった♡」


この声、聞き覚えがあるような…。


「蜜柑ちゃん、どうしてここに?」

美海が驚きの声を上げた。


蜜柑ちゃんって、木房さんの事か! 討論のわずかな間しか顔を合わせてないので、忘れかけていた…。


「だってお兄さんがブロックするんだもん。話すには直接会うしかないよね?」


「何でウチがわかるの? あたし教えてないよ!?」


もしかして…。俺の嫌な予感、頼むから外れてくれ!


「帰る美海ちゃんを尾行したんだよ。思ったより近くて助かっちゃった♡」


尾行がすんなりいったかは不明だが、同性の尾行は怪しまれにくいよな。異性だったら、回覧板で注意喚起されたかもしれない。


「家がわかれば、お兄さんの通学ルートもわかるでしょ? 帰りより行きのほうが時間を把握しやすいから今来たの♡」


放課後は寄り道などで時間がハッキリしないが、登校中に寄り道はまずしない。するとしたらコンビニに寄る程度か?


それにしても、制服で授業参観に行ったのが仇になるとは…。過去に戻れるなら、あの時の俺に忠告したいぞ。


「話したい事は色々あるけど、何でアタシをブロックしたの?」


どう見ても木房さんは怒っている。なんて言えば良いんだ…? 俺は頭をフル回転して考え続ける。

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