第19話 あの人が連絡してきた

 「大地、そろそろ起きなさい…」


姉ちゃんの声に加えて体を揺らされている俺は、目を開けてから体を起こす。隣には美海が気持ち良さそうに寝ている。


「夕食の時間だから呼びに来たの。そうしたらこんな羨ましい状況を見せつけられるんだもん。美海に妬いちゃうわよ」


嫉妬されるのは嬉しいが、それが理由で俺達きょうだいの関係が崩れたら…。


「心配しなくても、美海は可愛い妹よ。わかってるから安心なさい」


「それなら良かった」


「美海を起こすのは大地に任せるわね。…早く来るのよ」

姉ちゃんはそう言って、俺の部屋から出て行く。


「美海、夕食の時間らしいから起きろ」

肩を掴んで優しく揺らす。


「う~ん…。あ、お兄ちゃんおはよう」


俺の顔を見た途端に、彼女の眠そうな様子は消え去った。


「おはようの時間じゃないぞ。これから夕食だから“こんばんは”だな」


「そんな事気にしなくて良いの!」


かもしれないと思った時、ベッドそばにある俺の携帯が〇イン着信の音を鳴らす。友達がいない俺に連絡してくる人なんて…


「お兄ちゃん、もしかして…」


美海が不安そうにしてるものの、夕食の時間だからのんびりしてられない。


「美海、続きは夕食の後にしよう。…良いよな?」


「わかった。食べ終わったらお兄ちゃんの部屋に行くからね!」


俺達は急いで部屋を出てリビングに向かう。



 〇インの送り主が気になるせいか、俺と美海はいつもより早食いになってしまった。姉ちゃんが不審がってる気がするが、構う余裕はない。


俺より少し遅れて美海が部屋に入ってきたので、いよいよチェックの時だ。


「送り主は…、木房きふささんだ」


暗座あんざさんと違い、俺は彼女に連絡先を教えている。向こうがその気になれば連絡する事は可能だが…。


内容は『お兄さんこんにちは~』を皮切りに『ねえ?』や『無視しないでよ~💢』などの短文をたくさん送ってきてる。


俺達が昼寝してる間に、どれだけ送ってるんだ!


「蜜柑ちゃん、いっぱい送ってるね~」


「そうだな…」


なんてやり取りをしてる時だ。


『やっと既読になった♪』


木房さんは今もなお、俺との連絡を待ち望んでるのか。じゃなきゃ、すぐにこんな内容は送信できないぞ。


「お兄ちゃんどうするつもり?」

美海が心配そうに見つめてくる。



 あの時は流れで連絡先を教えたんだ。姉ちゃん・美海と過ごせる大切な時間を木房さんに割きたくない。気軽に会える相手じゃないし、最悪無視すれば良いと思っていた。


しかし、このメッセージの量は予想外だ。個別に着信音のON・OFFすれば良い話なんだろうか?


もし別の携帯やタブレットから連絡してきたら? その度に設定するのは面倒だぞ。一体どうすれば良い?


「こんなに多いと、迷惑メールみたいだよね~」

俺の携帯をスクロールしながら美海がつぶやいた。


迷惑メールなら着信拒否するが、木房さんのはどうだろう? 少し考えるか。



 考えた結果、連絡先に登録してない人からの連絡は拒否する事にした。これで木房さんに振り回される事はなくなる。


暗座さんには1回も連絡してないが仕方ない。姉ちゃん・美海のためだ。


俺は美海のそばでそのように設定する。


「これで母さん・姉ちゃん・美海以外の〇インは受け取らずに済むぞ」


「お兄ちゃんは、あたしとお姉ちゃんだけを見てくれるんだね♡」


「その通りだ」


熱いハグと頬へのキスをしている最中に、部屋の扉がノックされる。音に気付いた俺達は一旦離れる。


「入って良いよ」


…来たのは姉ちゃんか。理由は予想できる。


「さっき、2人とも妙に早食いじゃなかった? 何かあったの?」


「実はさ…」

俺は木房さんの件を姉ちゃんに話す。


「最近の子は積極的だわ。でも、これで一安心ね」


「そうだね、お姉ちゃん」


用件が済んだので、俺達は解散することになった。めでたく問題は解決したし、昼寝の時のようにぐっすり寝れるだろう…。

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