第11話 キス再び!

 姉ちゃんがホールのヘルプに行ったので、キッチンにいるのは俺1人。寂しいから早く戻って来て欲しいな~。


…高2にもなって、こんな事を考えるなんて。姉ちゃんと美海に知られたら、シスコンか寂しがり屋と言われるに違いない。


さすがに恥ずかしいから、胸の内にしまっておこう。



 「お待たせ」

姉ちゃんがキッチンに戻ってきた。


「ホールのほうはもう大丈夫なのか?」


「ええ。ヘルプはほんのちょっとだったし。それよりも…」

何故か俺の隣に来る姉ちゃん。


「? どうした?」


「店に入った時、芽依の唇をガン見したんだって?」


バレてないと思ったのに、普通にバレてるじゃん!


「その話を私にするために呼び出したって感じなのよ」


「そ…そうなのか」


俺に言いづらい事も、同年代かつ同性の姉ちゃんなら言いやすいか。


「もしかして、芽依を狙ってるの?」


「違う違う!」


「いくら私でも、は感心しないわね」


「だから違うって!」

話が変な方向に行っている…。


「じゃあどうして? 言いたくないから構わないけど…」


姉ちゃんの言う通り、言いたくない気持ちはある。だが今朝の『都合が良い事も悪い事も共有しないとダメじゃない』に賛成する気持ちもある。


秘密を0にするのは無理でも、最低限にしたい。さっきの寂しい気持ちも、今考えれば隠す必要はない気がする。


どんな内容でも、姉ちゃんならきっと受け入れてくれる…はず。


「…ちゃんと言うから、茶化さずに聴いて欲しい」

念のために保険をかけておこう。


「もちろん、約束する」


緊張するが、今更引き返せない…。



 「今朝、美海にキスされたじゃん?」


「そうね。あの子も本当に大胆になってきてるわ」


「あの時の唇の感触が忘れられなくてさ…。男女であんなに違うとはな」


「…だから芽依の唇を見たのね?」


「ああ。須藤さんの唇も柔らかそうに見えたからな」


「けど、私のはちゃんと見てもらってない…」

姉ちゃんは不満そうだ。


「キッチンに入った時点でバイト中だ。それぐらいの切り替えはする」

店長や須藤さんに迷惑をかける訳にはいかない。


「今は忙しくないから大丈夫。…私の唇の感想を教えて欲しいな♡」


見るように催促されたのでチェックしてみる。


「…姉ちゃんの唇も柔らかそうだ」

今まで1度もそんな風に思った事ないのに…。


「観るだけじゃ物足りないでしょ? …ちゅ♡」


姉ちゃんは突然、美海とは逆の頬にキスしてきた。


「なっ…」


「そんなに驚かなくて良いじゃない。正直に教えてくれたお礼♡」


美海に勝るとも劣らない柔らかさが再び俺を襲う。2度味わって分かったが、この柔らかさは危険だ。


うまく言えないが、俺をダメにするというか…。でも気持ち良いからもっと味わいたい考えもある。俺なりに葛藤し続けているのだ。


「さて、バイトが終わるまでもう少しだから頑張りましょ」


「ああ…」


本当はそれどころじゃないが、姉ちゃん達に迷惑をかけたくないので葛藤を保留した。



 バイトが終わり、俺と姉ちゃんは夜道を歩いて帰宅中だ。途中の人気のない道に差し掛かった時…。


「ねぇ大地。訊きたいことがあるんだけど良い?」


「どうした?」


「唇の柔らかさにドキドキしたなら、胸はどうなの?」

周りに人がいないからか、俺の腕に抱き着く姉ちゃん。


あの時の押し付けも忘れるはずがない。(6話参照)


「もちろん胸の柔らかさも頭から離れないよ」

近くに人はいないが、内容が内容なので小声で伝える。


「嬉しい♡ けど…」


「? けどなんだ?」


「芽依の時みたいに、ジロジロ見るのはダメだからね」


「わかってる」

言い訳不可能のセクハラになるからな。


「キスの事、美海にちゃんと話してあげてね。絶対喜ぶから」


「そうだな…」


気乗りしないが、感謝の気持ちは伝えないと。子供扱いしないなら尚更だ。


結局、姉ちゃんは家に着くまで俺の腕に抱き着いたのだった。

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