第10話 ドスケベな女をどう思う?

 朝、美海に“大人の証明”として頬にキスされた。胸が柔らかいのは周知の事実だと思うが、唇もそうだったなんて予想外だ。


自分のを触っても柔らかくないんだから、差がないと思うのは普通だろ?


俺が知らないだけで、他にも柔らかいところはあるのかな? 今日1日、空いた時間の大半をそれの思考に費やしたのだった…。



 時は流れ放課後になった。昨日と同じシフトでバイトがあるので早速向かう。


「いらっしゃいませ~!」


須藤さんが入店した俺に向かって元気に挨拶してくれた。この店にはバックヤードに直接入る場所がないので、お客さんと同じように入店しなければならない。


お客さんとスタッフで挨拶を使い分けるのが面倒かつ大変なので、このスタイルが定着している。


…今まで意識した事なかったが、須藤さんの唇も柔らかそうだ。気になるな~。


「荒井君。アタシの顔に何か付いてる?」


ヤバい、見つめたせいで怪しまれてるぞ。


「そんな事ないですよ。ちょっとボーっとしちゃって…」


「それなら良いんだけど、無理しないでね。すぐ“だいちゃん”を呼ぶからさ」


大ちゃんというのは、ここの店長の島本しまもと 大貴だいきさんのことだ。歳は20代後半だったかな。真面目で良い人だと思う。


この店のオープニングから店長をやっていて、同じオープニングスタッフの須藤さんと仲が良い。大ちゃんと呼ぶのが何よりの証拠だ。


あくまで噂だが、2人は付き合ってるらしい。一緒にいる2人を見れば誰しもそう思うぐらいの距離感だから、特に驚きはしない。


「万が一の事があったらお願いします」


俺はレジそばのスタッフ専用入り口からバックヤードに入る。



 男子ロッカーで着替えとかの準備を終えてキッチンに向かうと、姉ちゃん1人で業務の真っ最中だ。…昨日と違ってちゃんとしてるな。


俺も出来る事を始めよう。仕込みや洗い物など、やる事はたくさんある。


「姉ちゃん、今日は問題なさそうじゃん?」


「まぁね。大地に夜這いしたおかげかな♡」


「おいおい、夜這いなんて須藤さんに聴かれたらマズいから自重してくれ」

ブラコンに加えて“変態”も追加されちゃうぞ?


「マズイ? 芽依だって店長さんに夜這いしてるらしいし問題ないわよ」


「須藤さんがしてる? あの2人同居してるの?」


「ううん。芽依は店長さんの家の合鍵を持ってるの。大学の前とか後に遊びに行った時、店長さんが寝てたらって感じ」


合鍵を持ってるなら、付き合ってるのは確定だな。


「この店で芽依と同い年なのは私だけだから、下ネタ含むいろんな事を話すわね」


俺も高校でクラスメートとそういう話をする時あるし、似たようなもんか。


「ふ~ん。けどさ、須藤さんがそんな事話すイメージないぞ?」


俺が勝手に抱いてるイメージは“元気な清楚系”だ。…矛盾してる?


「イメージなんて人それぞれだからね。私だって芽依に『ブラコンには見えないな~』って言われた事あるわ」


「そうか」

外見でブラコンと思われたら怖い気がする…。


「私は芽依を“ドスケベな女”と思ってるわ。大地はをどう思う?」


「答えにくい事訊くな!」

姉ちゃんの顔を見れば、どう答えて欲しいかわかるけど!


「だったら質問を変えるわね。をどう思う?」


そう訊かれると、美海のキスが頭に浮かぶ。あの行動のおかげで女子の柔らかさを知ったんだ。なら答えは…。


「良いと思う」


「じゃあドスケベな女も良いのね♡」


「何でそうなる? 話違うだろ?」

まったく、姉ちゃんには困ったものだ…。


「さすが姉弟。仲良いね~」


須藤さんがキッチンに来た。どうしたんだろう?


「美空ちゃん。悪いんだけど、ちょっとの間ホールのヘルプお願いしても良い?」


「わかった。すぐ行くわ」


俺ではなく姉ちゃんに声をかけたか。理由については考えないでおこう。


「大地。すぐ戻ってくるからね」


「ああ…」


2人は早々にキッチンを出て行った。



 1人でキッチン業務をする事は珍しくないが、姉ちゃんと話した後だと寂しさが際立つ。早く戻ってこないかな…。


って、俺は何を考えてるんだ! 子供じゃあるまいし! こんな事を姉ちゃんと美海に知られたら笑われちゃうぞ。しっかりしないと!


俺は気を取り直して業務を続けるのだった…。

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