第6話 美海はズルい

 着替えを持って、俺は脱衣所に入る。脱いだ服を脱衣カゴに入れる前に、美海が言ってたことを確認しないと! 脱衣カゴを上からのぞき込むと…。


姉ちゃんの黒の下着が、1番上に置いてあった。本当に美海の言う通りじゃん!

普段は脱いだ服をすぐカゴに入れるから気付かなかったが、いつもこうだったのか?


なんてのはどうでも良い。さっさと脱ぐとしよう…。



 脱いでいる最中、美海の言ってたことが頭をよぎる。俺のパンツを嗅いだら良い匂いがしたらしいが…。


別にパンツじゃなくても、Tシャツとかでも匂うはずだよな? 比べれば違いがわかるのか? 姉ちゃんの下着とTシャツは脱衣カゴにあるし、嗅ぐのは簡単だが…。


って、何を考えてるんだ! すぐ風呂に入って邪念を洗い流さそう!



 風呂を終え、俺は脱衣所を出る。身がスッキリすると心が洗われるな。さっきのは気の迷いだし、考え過ぎないようにしよう。


俺は姉ちゃんと話すために部屋をノックする。


「良いよ」


許可をもらったし、早速入ろう。



 部屋に入ったところ、姉ちゃんはベッドのふちに座っている。風呂上がりじゃないけど、髪型はさっきと変わらない。


「話って何?」

そう言いながら、隣をポンポン叩く姉ちゃん。


そこに座れって事か。逆らう理由はないから大人しく座る。


「姉ちゃん。美海に余計な事教えたみたいだな」


「余計な事?」


自分の口で、あの変態行動を言うのかよ…。


「俺のパンツの匂いを嗅ぐことだ。美海は“姉ちゃんに誘われた”って言ってたぞ」


「あの子、言っちゃったのね…」


そう言う割には落ち着いてるな。


「口止めされてないと聴いたが、美海の勘違いだったのか?」


「そんな事ないわ。秘密にしたい気持ちはもちろんあったけど、大地に全て知ってほしい気持ちもあるからね。だから口止めしなかったの」


「そうか…」


姉ちゃんの様子を見ると、怒るに怒れなくなったぞ。だが理由はちゃんと聴かせてもらう!


「姉ちゃん。どうして美海にあんな事を言ったんだ?」


「それは…、私と美海が“姉妹”だからよ」


「姉妹?」


「姉の私がこうなんだから、美海だって遅かれ早かれ同じことをしたと思うわよ? あの子もいい歳だし、下手に抑えたりごまかすのは良くないの」


その行動が正しいか間違ってるかは、この際置いておこう。時間を戻すことはできないからな。それよりも…。


「美海が同じことをする? そんなのわからないだろ」


「わかるわよ。たまにだけど、大地がいない時に勝手に部屋に入ってるんだから」


「えっ? 俺の部屋に?」


「あの子、それは言ってないのね。ズルいわ…」


「何で俺の部屋に入ったんだよ?」


「私が訊いても『お兄ちゃんがお昼寝してると思って』とか『貸してる漫画を返してもらうため』とか言って、すぐ自分の部屋に逃げちゃうから…」


俺が美海に漫画を借りたなんて、互いに小学校低学年の時ぐらいだぞ。姉ちゃんもわかってるように見えるが、美海は明らかに嘘を付いている。


「あの子は大地の部屋に入って、部屋とかいろんな物の匂いを嗅いでたに決まってるわ。そういう兆候があったからこそ…」


脱衣所で声をかけたんだな。俺と姉ちゃんの前でスカートをまくり上げる行動力がある美海なら、それぐらいやってもおかしくないが…。



 「私と美海の心は、大地に支配されてるといっても過言じゃないわ♡」

突然爆弾発言をする姉ちゃん。


「過言だろ! ふざけた事言わないでくれ…」


「ふざけてないから♡」

姉ちゃんは俺の手を掴み、自分の胸に押し付けた。


「ちょ…」


すごく柔らかい。代わりがパッと思い付かないぞ…。


「美海は下着を見せて恥ずかしがってたけど、私はそれ以上でもOK♡ 心だけじゃなくて体も支配されたいわ♡」


せっかく風呂でよこしまな考えを振り払ったのに、姉ちゃんのせいでまた考える羽目になってしまった。このままだとマズいし、さっさと行動しないとな!

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