前編
13歳、誕生日は、お父様とベッキーが祝ってくれた。
お父様が商用でいないとき。
事件は起きた。
お庭で蝶々を追いかけていたら、
ガルド夫人に呼ばれた。執務室だ。
ベッキーと一緒に行く。
「ちょっと、リディ、帳簿をつけなさい」
ガルド夫人とお義姉様がいた。
その後ろに執事とメイドと従者、執事イケメンだな。
「この屋敷で一番時間のあるリディ様、帳簿の点検をお願いします」
「数字は読めますか?クス」
「クリスチーネ様は、毎日、帳簿をつけておられます。リディ様も、少しは、苦労を偲ばれてはいかがですか?」
「クリスチーネ様とは一歳違い。それで、これだけの仕事をなさっているのですよ」
皆、クスクスと口角が上がっている。
「どれ、どれなの~~~?」
あ、これは簿記だ。
ふむ、ふむ。
「あれ、この現金小口、お駄賃の支出があるけど、ここは王都のタウンハウスでしょう?通常、お駄賃は、領民に用事を頼むときに、払うものでしょう?何故」
「「「プ~~クスクス・・・えっ」」」
「まあ、リディ様には、難しかった・・・え」
「あれ」
「それに、孤児院への寄付、私がいた孤児院でしょう?体感的にそんなにもらっていない感じがしたわよ。
え、シスターに化粧品代払っている?シスターはクリームも塗れなくて、手、ひび割れだらけだったわよ!向こうの資料も出しなさい!」
「リディ様、寄付とは、あげるもの。こちらから、とやかく言うのは女神教会に失礼です。孤児院長は、当家の親戚です。信用できます」
「はあ?払ったら終わり?これは、領主業務として支払っているのよね!寄付であって寄付では無い。街の物乞いにあげているのではないわ。どうやって、適正かどうか判断するの?」
「それは、孤児院長は貴族ですから」
「そう、じゃあ、孤児院長が平民なら、照らし合わせをするの?ねえ?ねえ?いつから、職制と義務は、身分によって差が出るようになったの?
平民でも王宮の役職につくことはあるよね!平民だから貴族並の仕事をしなくても陛下は許すの?ねえ?ねえ?」
「それと、何?領に図書館があるのに、王都の図書館に寄付をしているの?絵本なんて、ずっと古いものしかないと、シスターさん嘆いていたわ?」
「それと、メイドに衣装、靴代払うのは当たり前だけど、一人銀貨45枚?化粧品代は別途30枚?ベッキーさん、もらっている?」
フリフリ~
と首を横に振って答えてくれた。
「それは、客室メイドは、容姿を整える必要が・・あるのよ!ちびっ子には分からないわ!」
「あれ~、夫人のサインよね。一人あたりで支給している!これじゃ、厨房やランドリーメイドも貴族並の化粧をしていることになるわね。それも、当主命令で」
・・・前世、OLであった。これは、あれだ。
集団は容易に歪む。この集団では当たり前でも外から見たら異常に見えることは多々ある。
リコール隠しをしていた会社は、バレたときに『皆さんに一生懸命頑張って頂いたのにこのような結果になって残念です』と不祥事が発覚したことを残念がっていた。
人の集団は、容易に感覚が麻痺するのだ。
お義姉様は、自分でも気がつかずに歪んでいる可能性が高い。
一人で帳簿つけていますわ。少しも偉くない。
外の監査や、社内監査が必要なのだ。
「「「ヒィ」」」
面食らったのか逃げた。
しかし、また、来るであろう。この帳簿を回収に、ガルド辺りが犯人と見た。
機会は今しかない。
貴族院に告発だ。たしか、書式の見本はここにあったはず。
パパッと書いて、
「ベッキー、一緒に来るの~~~」
「はい!」
御者を捕まえて、
「え、旦那様の許可をもらっているのですか?ダメですよ」
・・・しゃあない。ここは強硬手段だ。
「ダメだと言ったら、泣くの~~、理由を聞かれたら、何でもないと言って、お父様の前でトムを見たら、プルプル震えるの~~~」
「ヒィ、それだけはやめてくれ!」
貴族院に行った。
「偉いね。お使いかな。何?貴族に不正の疑いがあるだと!リーマン伯爵家の親戚、ガルド侯爵家に嫁いだ元伯爵令嬢、メイドが男爵家出身だから、調査をしてくれと・・・あれ、もしかして、君が書いたのか??」
「そーなの」
ここは誤魔化すのは良くない。
「告発内容がデマだったら、子供でも処罰されるぞ!」
「証拠の帳簿、持って来たの~~~~」
「・・・受理する。君の身分は?」
「リーマン伯爵家の当主、フランツの庶子、リディなの~~」
まさか。これが、後に、これほどまで目立つとは思わなかった。
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