第9話 ねぇ、由実

由実は耳を澄ます。

兄の声が聞こえる。

何やら言い争っているような声。

そして、10個目の曲がり角を曲がると・・・

自分の兄が、いた。

リーダーに平手打ちをしようとしていたようだ。

「お・・・兄ちゃん・・・?」

「あ。由実」

由実の方を見ると、兄はにっこり笑った。

「ねぇ、由実。この人、いじめの主犯格なんでしょ?」

「そ、そうだけど・・・・」

「由実。いまからいうこと、落ち着いて聞いてほしい。僕は、車にはねられたんじゃない。突き落とされたんだ」

「突き・・・落とさ・・・れた?」

「うん」

頭が重い。思考が停止するかもしれない。

「あの日、僕は一人で通学路を歩いていたんだ。そうしたら、『こうしたら、由実、もっと泣くんじゃない!?』って言いながら、僕を突き落としてきた。・・・ここから先の記憶はもうない」

「う、うあああ!!!!」

由実が叫びながら掴みかかったのは、リーダー格の女子ではない。

他ならぬ、自分の兄だった。

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