第5話 アドバンテージ、子供部屋おじさん

 ~そうだ、思い出の中に転生しよう~


 仮想空間型アミューズメントパーク『アナザー・ダイヴ・リワールド』が開園した際、運営サイドが力説したキャッチコピーがそれだった。


 VRゲームにリメイクされたレトロゲームを楽しむ際、過去のプレイデータがあれば引継ぎプレイ可能。かつて育てたキャラ達とあの世界を新たな視点で再び旅する事が出来る。


 国内全ゲームメーカーが総力を結集しただけあり、VRゴーグルと連動したリーダーは歴代のあらゆるハードの記録媒体に対応したモジュールとなっていたのである。


 ファミコン時代は不規則な文字の組み合わせで構成されるパスワードが用いられたが、それすら口頭で読み上げれば利用可能な仕様となっていた。


 それもこれも、かつて少年少女時代にゲームをやっていた中高年層をメインユーザーとして想定した運営サイドの配慮によるものだった。


 恐らく社会的地位を築いていて家庭のある層がゲームにかけられる時間は限られる。遊びたい作品が多数ある中でゼロスタートからやり直すのも大変であろう、と。


 しかし……。


「このリーダーいらないから専用ゴーグルの値段少し下がらねぇかな……」


 そう嘆くユーザーが割と多かったのも事実である。致命的な思い違いをしていた、それに運営サイドが気付くのはもう少し後になる。



 さて、『アナザー・ダイヴ・リワールド』ではRPGファン待望のファイナル・サーガⅦワールドのオープン初日を迎えていた。


 根深蔵人主人公は永年住み続けた実家の子供部屋からファイナル・サーガⅦの遺跡に飛び込もうとしているところだった。


「総プレイタイム1091時間、コンプリート率88%。それでは『ファイナル・サーガ』へ行ってらっしゃいませ!」


 ここ来るの28年ぶりくらいだったかな?


 草原の中のポツンと集落。


 周りは草、草、草…、やっぱり草だらけ。


 スタート地点、タラス村だ。


 草原の中に木の板を組んだ囲いがあって、その中にレンガを汲み上げた様な家々がある。


 風に乗って草木の香り吹き抜けて行く。


 …………。


 こいつは、びっくり、様変わりじゃねぇかっ!!


 当時は2Dのドット絵を上から見下ろしていた視点だった。殺風景過ぎた…。


 それがフルダイヴ仕様に作り直されたら。


「絶景だ!」


 俺の視界の右奥、遠くの方で…。


 なんか狼型のモンスター7体ほどに襲われて死体になっているプレイヤーの姿も見えるが…。


 それさえ無視すれば完璧な美しい景色だ。


 ちなみに、そっち方面はレベル5以上から踏み込んだ方がいい。


「それにしてもワールドオープン初日だから賑わっているな。そして、さすがにあの欠陥は解消したか」



 古代遺跡群アナザー・ダイヴ・リワールドでいくつかゲームをプレイしてみて、俺を含めて多くのプレイヤーが気付いてしまった事があった。


 レトロゲームをフルダイヴのVRゲームにしただけなので全プレイヤーが主人公キャラアバターを使用。


 シナリオ進度に合わせて最適装備はほぼ決まっている様なもの。結果的に主人公がどこにでもいる最大人口のモブキャラ化という恐ろしい事態に。


『おそ松くん事件』、『おそ松さん事件』か。


 誰が名付けたかわからないが、量産型主人公という現象と運営サイドの不手際をかけてSNS上にそんな文字が躍ったものだ。



 解消していたのはその点。


 最初のワールド入場時。多少手間はかかるが、顔をカスタマイズして、装備品も色変更が出来る。


 それを使うプレイヤーが大半を占めれば、デフォルトから1mmもいじっていない俺の主人公オクラの顔が最も個性的という。


 ヴィジュアルでステータス補正でもかからない限り俺は顔をいじらない主義だからな。アップするなら究極にいじるがそういうゲームにはまだ出会った事がない。


 さてさて。


 主人公プレイヤーたちが旅立っていく様だな。後ろに見習いのロッドを握りしめた少女を連れて、続々と。


 メリス……。


 ああなってしまう永久離脱死とは知らずに旅立つんだよな。


 あんな希望に満ちた笑顔を浮かべてさ……。


 続々と。


 更に続々と。


 そして。


 ん?戻って来た?今通り過ぎたヤツらが。


 なんか俺、ジロジロ見られている様だが…。


「すれ違った時になんかおかしいとは思ったが。やっぱり!」


「あんた、どういう事だ!? いきなりフルメンバーっておかしくないか?」


「はぁ?」


 彼らの目線は俺の後ろの方に。


 あぁ、これか。俺が仲間キャラを3人も引き連れているからか。


 クリア済のプレイデータを使っているからだと説明をしてみると。


「メモリカード? あぁ、そう言えばそんな物があったっけ。HDDが標準装備になると消えちゃったもんな」


「へっ? という事は今までメモリカードを持っていたと? あんな何十年も前の物を……」


 あっ、そうなんだ。もしかして持っていないのが普通だったのか。メモリカードがレアアイテム化していたとはな。


 小中高の頃を過ごした部屋で浪人生として2年間過ごし、大学生として1年間過ごし。中退した後は家事手伝いとして20代、30代、そして40代を生きている俺。


 普段使いの棚には歴代ハード一式とソフトにメモリなんかが並んでいる。さすがに稼働はしてなかったが捨てる理由はないのでずっとそこにあり続けたものだ。



 それから主人公プレイヤーたちと少しばかり話し込んだ後。皆、完全に育ち切った5人の仲間がいる俺を羨ましがりながらタラス村から旅立って行った。


「君らが羨ましがった俺のパーティにはメリスだけがいないんだよな。で。君らにはメリスだけがいて……」


 やっぱり何だかんだでここの本命はメリスなんだろうな~。


 あの娘が生き残る。もしくは復活する。


 そんな没データが。

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