ファイナル・サーガⅦ 遺跡
第4話 逢いたい時にヒロインはいない
「ムーンロッドの眠る『月界の湖』が見えて来たぞ。急ごう、メリス」
「うん、
その少年と少女は世界を混沌に陥れた『邪星帝ネーブラ』を倒す旅を続けていた星に選ばれし者達だった。同じ村で生まれ一緒に育った幼馴染だった。
道中で立ち寄ったカンドロの町で幾度となく占星術師の言葉に従い、有用な道具、魔導書といった物を手にしてきた。
だが、その過程でメリスが使い続けていたロッドが壊れてしまっていた。それを目に留めた占星術師の言葉に従いムーンロッドを求めている最中だったのである。
月界の湖、湖面の中央には真紅の満月の姿が映し出されていた。湖面の上、その月の上に立っていたメリスは身体中から煙の様なものを噴き出しながら悶えていた。
「ぐっ……、ゲボッ、ゲボッ。ど、どうしてこんな?」
「メリスーーっ!」
メリスに近付こうとした
「あ、あれは占星術師様!? そうだ、メリスを! メリスを助けて下さい!!」
「キヒヒヒヒヒヒッ!! かかった、かかった、愚か者が」
「えっ? 占星術師様、どうして?」
「我が名は黒双子座のベルカ、ネーブラ様の参謀として側に侍る者ぞ」
「ぐふっ……。そっ、そんな……。私達はずっとあなたに騙されていたの? うっ……。
「そなたらに役立つ道具の在り処を教えて信用させたのはこの時の為よ。騙された、裏切られたと悔しさを滲ませながら死にゆく者の表情を見るのが極上の楽しみでな」
「なんて酷い。つぅっ……」
「メリス! すぐに助けに行く、諦めちゃダメだ」
「つくづく愚か者め。この【星砕きの術】、一度始まれば止める事など叶わぬ。さあ、ネーブラ様に抗おとする愚かな星を一つ打ち砕け!」
何かが砕け散る音が鳴り響いた。メリスは全身をダラりとさせ、そのまま動かなくなった。その身体から金色に輝く小さな光の粒が無数に沸き上がると上空にある真紅の月に吸い込まれていく。
やがて、その粒が現れなくなるとメリスの身体は湖に落ち沈んでいった。
「グッヒッヒッヒッ! ネーブラ様に対抗し得る星のチカラ、その芽は一つ摘み取らせてもらったぞ。では、さらばだ間抜け面よ」
「待て! 殺すなら俺も殺せ、この卑怯者め」
「そうそう。恨み、憎しみを滲ませる者の表情も我の好みでの。それを末永く楽しむ為に片割れは生かしておくのじゃ。助けたわけではない、苦しめる為じゃ。精々、恨めよ。ヒッヒッヒッ!」
今読んでいたのはプレステ時代の名作『ファイナル・サーガⅦ』の説明書。あの時の冒険の記憶が甦るな~。
まあ、アレには悲しい思い出もあるんだが…。それも含めてあのゲームか。そういうものだろうな。
そんな余韻にどっぷりと浸かり、そろそろ居眠りフェイズと思ったところで…。
「敵が現れた…」
「敵? 思うのは勝手だけど…。それ声に出して言うか! 仮にも幼馴染にっ!!」
吉葉恵子だ。俺の家とは隣同士、昔からよくうちの風呂へ入りに来る。決まって俺の貴重な読書タイムを邪魔するかの様なタイミングで。
「やっぱり! またそんなの読んでる。ゲームの事を考えてたからそんな言葉遣いになったんでしょ?
同い年なんだが…。こういう言われ方をすると、まるで母親に見えてくるから不思議だ…。
「ゲームをプレイしていた時間だって立派な俺の人生の一部だ。確かにあの時、あの場所にいた。それはもう俺の思い出と言っていいだろ? それに浸って何が悪い」
恵子はイライラした様子で番台にある端末機にスマホをかざした。
「キャッシュレス導入したのはいいとして。今時、番台のある銭湯なんかに客は来ないよ、特に若い娘はね。私はおばさんだし、
「あぁ、なんか来年リフォームするらしいよ。水質検査で実は温泉湧いてるのがわかったみたいでさぁ。塩化物冷鉱泉だっけか? じっくり調べ直してみるもんだよな」
「らしいとか、さぁ、とか。お宅の銭湯でしょ?」
「経営者は親父。俺は両親が休憩中の時だけ手伝ってるだけだからなぁ。なんせ、子供部屋おじさんだし」
「そんなの誇らしげにいうな! あっ、そうそう。子供部屋住まいだってもう子供じゃないんだから私の裸見たら後が酷いからね」
「へいへい」
さてと、うるさい恵子も風呂へ入った事だし。『ファイナル・サーガⅦ』の事でもゆっくり考えるか。
今、説明書を引っ張り出してきたのは
で、やっぱり一番気になるのはヒロインであるメリスが死んで永久離脱になってしまう展開。
最初にプレイした時。どこかで分岐の選択肢を間違ったか?と思い、少し前の方のプレイデータからやり直したものだ。
ダメだったので、更に前へ。プレイステーションでは容量の都合でセーブ出来るのは3つまでだったのだが、どうやら手持ちデータでは戻り足りないらしい……。
最初からやり直す羽目になった。万全を期してメモリカード大量購入、ばんばんセーブデータを残せる体制で臨んだ。
それで結局ダメだった。
こういう場合は恐らく最後の方で奇蹟的に甦るとか実は生きていた展開が当時の相場だった。
そんなわけで、後ろ髪を引かれる感じをずっと引きずりながらメリスをロスしたままシナリオを進め。
「えっ? このまま終わりなの?」
マジか~~~~っ!?なエンディングを迎えた。
そんな事を思い出しながら説明書を読んでいたら二つ折りになったちょっと厚目の紙が。
これ何だろう?
「あっ、お客様アンケートハガキか」
レトロゲームの時代。ゲームの感想とか苦情とか、意見を書いて送るハガキが同封されているのが常識だったな。
「幼馴染を死なせるなんて酷い。もうこのシリーズは遊びません。か……」
そうそう、こんなの書いたっけ。結局、切手代を惜しんで出さなかったんだっけ?
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