第5話 万策尽きる
ただ彼と推しの話がしたいだけなのだが、もう絶望的だった。何をやっても気づかれない。たまに通学路を変えて歩いたり、彼を見かけたらテレパシーで話せるように念じたりしたがだめだった。
「お姉ちゃん、やっぱり気づかれないみたい。」
「まだそれ続いていたの?」
「てっきりもう話しているのかと思った。」
「それならもっと明るい顔しているはずでしょ。」
「それだけ暗いということは…。」
「万策尽きました。」
「あらら〜。SHIROBAKO?」
「お姉ちゃんなんか、いい方法ない?」
「髪型、推しと同じにしてみたら?」
「それだ!」
次の日早起きして、髪型を推しと同じ感じにしてみた。推しの髪の毛はとても長いのでそこまでではないが、校則とのギリギリラインで推しに似せてみた。
親友からは、
「推しへの愛が眩しいですなぁ。」
と言われたが、そうではない。ただただ彼に気づいて欲しいだけなのだ。
朝学校に行ったときにまだ彼は来ていない。クラスメイトからもかわいいとか言われてちょっといい気分。でも違うのだ、目的は彼に私も推しているよと気づいて欲しいだけなのだ。
しばらくして、彼がクラスに入ってくるのが見えた。私はとっさに自分の席で正面をを向いて宿題を取り出すそぶりをしていた。
彼がだんだん近づいてくる。
彼が席につく。
たぶん私の髪型を見ている。
何か言われるのではない方体が硬くなる。
一瞬時が止まったかと思ったが、特に彼は私の髪型に何かを言うわけでもなく普通に時間が過ぎていった。
私は心の中で「万策尽き果てました。」と唱えて呆然としていた。その後彼から髪型のことを何か言われることはなかったので、また元に戻した。彼と話したい。いっしょに推しの話をしたい。
こんな小さな夢も叶えられないのかと、がっかりしながら日々過ごすだけだった。
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