第4話 女の子は難しい

たっぷり一時間ほどたってから女性は風呂から上がり、着替えてから出てきた。顔の黒ずんだのがとれたので、改めてみると若い。

彼女は優紀陽子と名乗った。歳は17歳。パンデミックの時には9歳だった。

幸也はまず、お互いタバコを吸いながらゆっくりと彼女が話し出すのを待った。


陽子は小さいとき、4歳の時に父を亡くして母一人、娘一人で生きてきた。

母親は養護学校の教員だった。段々動物たちが死んでいくとき、母親は焦ったらしい。そして母は突然死んだ。

彼女、陽子も胸が苦しくなり、近所で可愛がってくれるおばあちゃんの家に駆けこんだ。そのおばあちゃん、名前は名高百合子は66歳で、彼女もまた、幸也の父と同じくタバコをため込んでいた。というより、元タバコ屋さんを営んでいたから政府方針が出てから自身が吸うためにすぐに売るのをやめて片っ端から在庫をかき集めていたらしい。

陽子と百合子は最初は分からなかったが百合子が陽子にタバコを吸わせたら落ち着いたから正体が分かった。

百合子は子供もなく、旦那はその前年に亡くしたばかりだった。二人で7年間生き抜いたのだ。煙草の在庫はとことんあったから近所の畑を耕して、主に野菜中心の生活をしていた。

百合子は陽子に勉強も教えた。陽子は中学校を卒業した位の学力は得た。陽子は陽子で近所の家からソーラーパネルを拝借して設置してソーラーパネルの基礎は学んでいた。独学で。

ネットやFM、AMの電波が使えないことが完全にわかると、二人はタバコを吸いながら近くの図書館に行き延々と本を読み続けた。

二人以外には生きているものはいなかった。


そこまで話して、陽子は涙ぐんだ。幸也が、大丈夫かと尋ねると、大丈夫と答えて話をつづけた。


百合子はこの土地は半島にも大陸にも近いから防衛しないと言って家の周辺にわなを仕掛けた。話しづらいことだったが二人は他のアジア人を複数殺したことを告白した。幸也も答えた、自分もだと。


そして、おととし、百合子は陽子が朝目覚めて布団の所に行くと亡くなっていた。彼女は遺書を残していた。

いつか必要になるかもしれないかと言って現金で300万を残してあると。煙草はあと少しだからこの土地を捨てなさいと書いてあった。


そして、陽子は十分ではないがタバコと食料をもって土地から旅だったと。


行く先々で無人の家に入り、眠ったり、缶詰やスナック菓子を食べたり、少しづつ移動していった。そしてひと月前に関門海峡を超えて、中国地方に来た。


土地勘はないが地図はあるから移動は続けたが段々とタバコが無くなってきて、不安に駆られ始めた。


そこに、この雪。先ほど倒れた時にはもうこのまま死ぬんだと覚悟していたと。


そこまで話して、今度は幸也が自分のことを話した。


いかんせん人と話すのが久々の二人、タバコを吸いながら、真夜中まで話し続けた。


夕ご飯は幸也がいつかの為にとっておいた、冷凍のA5ランクの赤身の牛肉をホットプレートで焼いて食べた。


二人とも、食べながら涙した。

「あたし、ここにいてもいいですか?少しだけでもいいので。お願いします。」

陽子は申し訳なさそうに言った。

「何言ってんの、居たければいつまでいてもいい。僕のタバコのストックは二人で吸ってもあと10年は持つよ。」


そう言って幸也は地下の保管庫に案内した。

そこにはとんでもない量のタバコと、缶詰、スナック菓子、飲料水、酒、そしてコツコツ集めたサバイバル術の本と植物、園芸の本があった。

「凄い、これだけあるなんて。でも、あたしがいないことを想定してでしょ?あたしが出来る事ってソーラーのこと分かるくらいだし、園芸は大したことないし。」

「まあ、実は今年の春からさっき言った近くの土地を耕そうと思ってたんだきゅうりとトマトだけじゃ飽きたからね。鶏の肉は大丈夫だけど。

それに、君がしてきたように僕もいい加減に人の家を探索する。するしかないからね。背徳感はあるけど。ああそうだ。」

二人は一階に戻った。幸也は陽子に手渡した。

生理用品を。

陽子は真っ赤になる。

「いや、先に渡しときたくて。一応のことを考えて準備はしてたんだ。」

陽子はパンっと幸也を平手打ちした。

「こういうのは恥ずかしいから。もう、ああごめんなさい。あたし、先に手が出るタイプなの。ごめんなさい。」

幸也はたいしていたくもないが、

こりゃなかなか楽しくなりそうだと思った。


寝るとき、陽子には母親の部屋で寝てもらった。陽子は風呂に入る時も現金300万は身につけていた。


幸也は一人でないことを感謝したが念の為に陽子の部屋にカギをかけた。


その夜、夢を見たが曖昧で覚えてなかった。


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