第3話 ただ、淡々とした日常。

幸也は目を覚ますと、外が雪なのに気づいた。瀬戸内の気候ではあまり降ることはないが三センチほど積もっている。

彼は支度をして、ソーラーの雪を下ろした。これが駄目になったら自分は生きていけない。

それから鳥を、温めた石をくるんだ毛布で温めてやって朝食をとった。

今日は食料を探しに行くのはやめて、久々にお菓子でも食べようと思い、未開封のポテチを二袋食べた。

油物をほとんどとらない生活の為に腹が少し膨満感になったが生きている証を得た気がした。

持っているDVDを見ようと思い、筋トレ、スクワットとストレッチを終えたら午前の時間にじっくり見た。

世界が氷河期に覆われる映画だ。皮肉すぎると苦笑した。

雪のせいでただでさえない音が全くなくて久々に寂しさを感じた。

暖房を強めに設定して紅茶を飲んだ。

外をぼけーっと見る。何も動かない、しんしんと降る雪だけだ。

ふと、外に何かが動いたような気がした。

幸也は万が一を考えて交番や警察署から拳銃を手にしていた。リボルバーを4丁、銃弾は200発以上持っていた。

出来ればこんなもの持って出たくないと思いながら懐中電灯をもって外へ出かけた。

タバコのにおいがする。その匂いの方へ向かうと、道に人間が倒れていた。

若い女性だ。黒ずんだ服とぼさぼさの髪がいかに困難だったかを物語る。

銃をしまって、女性に声をかける。

「大丈夫か?生きてるか?起きて、この寒さじゃ死んじゃうよ。」

女性は何とか幸也を見てから、

「た、助けてください。お腹が減ってもう動けない。お願いします。」

想像以上に若い。かなり幼い時にこのパンデミックになってから生き抜いたのであろう。幸也は女性を抱きかかえて自宅へと戻った。

いざというときの為にお風呂に湯を張れるように水は十分ある。

女性にまず、温かい食事を与えて、風呂に入るように促した。かなり臭いからだ。

着替えはとりあえず亡き母のものしかないが、

「お風呂?って・・・・。あのお風呂?入れるんですか?」

女性は自分が風呂に入れることを信じられなかった。一時間ほど休憩してから女性はお風呂に入った。

幸也は着替えを洗面所に置いて、

「シャンプーもリンスもコンディショナーもあるし、石鹸もドライヤーもあるから安心して。一時間でも二時間でも入ってていいから。ただし、のぼせないように。」

そう言って、行哉はリビングに戻ってから

タバコを吸いながら考えていた。

まさか、生きている日本人の女性に会えるとは思えなかった。とにかく話をじっくり聞こう。風呂はタバコの煙を充満させている。大丈夫なはずだ。

何年も願っていた人との会話、正直不安だ。これからどうなるかわからないが話し合いができる相手なら大丈夫だと幸也は己を納得させた。

幸い、女性が通信機も何も持ってないのは確認している。

タバコは10カートン持っていた。よくもまあ生きてこれたものだ。

ふと、自分の目から涙が出ているのに気づいた。

「そっか、感情がよみがえったんだな。」

女性に聞かれないように、幸也は泣いた。こんなに感情が揺さぶられたのは久々だった。

「生きててよかった。神よ感謝します。」

幸也は天に祈った。雪はもう止み始めている。

幸也の生活に刺激が加わった。

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