第30話 散ればこそ、いとど桜はめでたけれ
今年は、三月に寒の戻りがあったので、高校の入学式に桜の花が満開だった。こんなことは、ここ数年無かったそうだ。
僕は、つい、平安貴族を気取って、『久方の 光のどけき春の日に
親が、大学で古文を教えてる為か、ぼくも情緒のある短歌は大好きだった。
それは突然、僕のスマホのSNSに流れてきたんだ。
【全人類は聞け!お前たち地球人はもう長い間、月の裏側にある我ら××星人の基地から支配された実験体である。様々な状況下でどう進化していくか、研究していたのだ。だが、無駄な争いばかり起こす。我々は、研究のやり直しを決めた】
これは、#異星人のメッセージ #月の裏側の基地等がトレンドにも入った。
少しざわつくぐらいには、炎上した。
だが、そこまでだった。
『こんなのYouTubeの五チャンネルに、ふざけて書き込みをするんだ』
『前から、異星人監視説はあったね』
『噂だよ。中二病の奴らが面白がっているんだ』
僕も、全く同じ意見だったな。
午前中の授業とリクレーションをすませて、僕は一人で門をくぐった。
生憎と、入学二日目ではまだ友達と呼べる人はいなかった。
僕が門を出る時に、行きと同じ生徒が桜の花を眺めていた。
少女に見覚えがあった。同じクラスの夕波雫だ。
僕は、彼女に吸い寄せられるように近くに行った。
彼女は、満開の花を見上げて、何かを呟いていた。
(……?)
「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし……」
(へぇ~ 伊勢物語の82段の短歌だ)
世の中に桜が無ければ、春の人の世はもっと穏やかでしたでしょうに。
意訳でこんなところ。
要約すると『美しい桜よ、どうか散らずにこのまま咲いてておくれ』だな。
夕波雫は、桜の花びらに解けそうな不思議な髪の色をしていた。
ジッと満開の桜を見つめる夕波に、僕は声をかけてみた。
「散ればこそ、いとど桜はめでたけれ 憂き世に何か久しかるべき」
僕の言葉に、夕波はキッと睨みつけてきた。
「本当にそんな風に思ってるの!?」
「ああ、そうだよ」
僕の詠んだ短歌の意訳は、要約で、『花の命は短いからこそ、値打があるのですよ』
だから僕は、夕波の詠んだ短歌に真っ向な突っ込みを入れてしまった訳だ。
*
「二ノ宮! これじゃあ雫のイメージが台無しだよ!!」
いきなり、雫の意思の強い女の子イメージを壊してくれやがった。
でも二ノ宮は、至極真面目に言うんだ。
「そうじゃなくて、タケルは転生組。雫はずっと異星人の手で生かされてるのよ。この案、気に入らない?」
僕は、もちろん頷いた。
「も~!! 良いと思ったのに~!! 二人でずっと同じ時間を生きられるのに~」
「その前に、何だよ。 タケルは、死んで直ぐに生まれ変わるのか?」
「そうゆことになるかしら?」
「僕のキャラクターを勝手に扱わないでくれ!!」
僕は、愛着のあるキャラクターをもて遊ばれたような気分になって面白くない。
「とにかく、雫が桜の木の下で待ってるところからスタート!ここから、タケル視点でを書いてみて。おかしなところはストップをかけるわ」
僕は驚いて二ノ宮を見た。
「まさか、これをサイトで発表する気か?」
「外伝やスピンオフの話は、余程読者が付いてないと読まれないそうよ。、ママが言ってたわ。でも、桜庭君は『ヨムヨム』に、ある程度の読者がいるわ。試してみても大丈夫だと思うの」
僕は全く自信が無かったけど、二ノ宮が強く進めるので、そのまま設定を済ませて、第一話を雫を見つけたタケル視点から書いていった。
二ノ宮の奴、僕のことを散々女心が分からない鈍い奴って言ってきたくせに、肝心の恋する乙女の心には疎くて、ぼやかして書こうとしたら、「そこは、ちゃんと書くべきよ」だそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます