第29話  『雫』が主役の小説

 僕は、完全に固まってしまった。二ノ宮と教室に戻って、しずく主人公の話のプロットを書けと言うのだ。


「プロットってなんだよ?」


「あらあら、プロットも無しにあれを書き上げたの?嘘みたいだわ。たまたま、小説の筋にブレがなかっただけなのね?」


「どうせ、暇潰しノベル書きだよ」


「桜庭君!? 直ぐにいじけるのね」


 僕の前の席に座って、二ノ宮は僕のタブレットを強制的に立ち上げた。


 自分の鞄から、キーボードを出して連結させた。

「桜庭君の『ヨミタイ』でのパスワードは、marie0721で良いの?」


「それは、パソコンのパスワ-ドだよ。教えたら、僕のプライバシーがなくなるだろ?」


「どうせ、一緒に小説を作っていくのにプライバシーもないわよ。早くアプリを開けてちょうだい」


 二ノ宮は、キーボードのエンターを叩いてパスワードを言うように要求してきた。


「takeru1026」


「うわっ!!それって、タケルの命日ね。すごい付け方だわ」


 言われると思ったよ。

 死ぬと確定している主人公の命日を、パスワードにしてるのは、僕ぐらいだろう。


「ふーん?約八百文字で更新して、pvを稼いでたのね。最終回が二千字で約九千七百文字か……。あら、これしか書いてないのね?タイトルは決めてあるわ。

『僕は舞い戻る』よ。少し、ファンタジーの要素もいれても良いと思うわ」


「君が書けば?」


 二ノ宮の頭の中には、物語が出来上がってるように見えた。だからそう言ったのに、思い切り大きなため息をつかれてしまった。


「私に文才があれば自分で書くわよ」


「だって、プロの脚本家が家にいるじゃないか?」


「ママは、私たちにとってはママだけど

 脚本家のお仕事の邪魔は出来ないわ」


 そんなものなのか?


 二ノ宮のキーホ-ドを叩く早さも早いけど、僕の方が早そうだったので、二ノ宮からタブレットを取り上げた。

 二ノ宮の奴、新作の設定を開いて『僕は舞い戻る』のあらすじを打ち込んでる途中だった。



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