第28話  都倉亜美に見惚れる僕

 二ノ宮は、僕の尻に鞄で叩いてきた。


「亜美ちゃんの演技力を知らないくせに!! 見てなかったわね?劇を?」


「どちらかと言えば、二ノ宮のイメージに近いんだけど?」


「私は、あんなに黙って男子の言うことを聞いてる子じゃないわ!!」


「確かにな」


 司馬が大笑いした。


「亜美ちゃん、そこで良いから、一幕の最初からやってみて」


「オーケー」


 都倉は、部室に入って直ぐに、長身と足の長さを生かしてジャンプして、僕たちと間をとった。


「準備が出来次第はじめて」


 二ノ宮の言葉に、都倉は頷いた。


 やがて、都倉亜美の一人芝居が始まった。


 伊吹タケルに呼び出されて、友人に相談している場面。

 これが、あの長身暴力女かと思うほどの

 可愛らしさ。身長が高いのも気にならない。頭が小さくて,からだのバランスが良いんだ。

 見ていて,マリエとダブってきた。


「そこまででいいわ!!」


 二ノ宮の声で我に返った僕。


「どう?雫に見えなかったかしら?」


 僕は頭をふった。

 これは認めなければならない。彼女の演技力は本物だと。


「ああ……」


「亜美ちゃんは、児童劇団出身よ。ここを出たらその方面の道にも進むのですもの。素人脚本の演技くらい、出来て当たり前なの」


「君、都倉を誉めてるのか?けなしてるのか?」


 僕の言った言葉に、二ノ宮は舌を出して笑った。どうやら言い過ぎたと思ったようだ。


 確かに、あの時は、劇全体の流れに目がいってたし、雫だけを見ていたわけではない。一人芝居になると際立って見えてしまう。


「あの『雫』のイメージで、『桜散る中--僕は舞い戻る』を書いてちょうだい。pvの上がらないSFは、設定を直して書き直せば良いわ。とにかく、こちらが先。はい、これが原案用のタブレットよ」


 二ノ宮は、僕に少し大きめのタブレットを寄越してきた。

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